オープンソースDBMSであるPostgreSQLの新バージョン7.4が,2003年11月にリリースされた。Enterprise Linux カンファレンスでの講演(講演資料)などのために来日した,開発チームの中心メンバーであるBruce Momjian氏に,普及の状況や今後の機能拡張方針などについて聞いた。PostgreSQLはインターネットのドメイン名管理に使用されており,レプリケーション(データベースの複製)機能も使用されていると語った。(聞き手は日経システム構築 副編集長 高橋 信頼)

---北米では,PostgreSQLはどういったシステムで使われていますか。

Bruce Momjian氏
 例えば,世界で最も大きなスーパーマーケットの1社がPostgreSQLを採用しています。北米で東海岸から西海岸まで店舗を展開している企業です。

 その会社は従来Informixを採用していたのですが,コスト削減のためにPostgreSQLを採用しました。しかし,技術者のトレーニングやアプリケーション移行にコストがかかっては意味がない。そこで,この会社はPostgreSQLを改修して,Informixとの互換性が高くなるようにしたのです。PostgreSQLがオープンソース・ソフトウエアだったからこそ可能だった使い方です。

 もう1つはワシントンD.C.にある企業の例ですが,PostgreSQLを使って意思決定システムを構築しました。30台のマシンにデータを分散して巨大なデータウエア・ハウスを構築しています。

 1つのサーバーにリクエストを送ると,30台に振り分けられ,結果は1台のサーバーに集約される仕組みです。PostgreSQL自体にこうした機能はありませんが,ユーザーが自由に改良できることが,同社がPostgreSQLを採用した理由です。Oracleではソースコードを見ることはできませんし,改造することもできません。

---PostgreSQLがさらにミッション・クリティカルな用途で使われるための課題は何でしょうか。

 私は96年からPotgreSQLの開発に関わるようになったのですが,最初の2年の課題はクラッシュを起こさないようにすることでした(笑)。次の3年間はANSIのSQL標準に準拠することが最大の目標でした。

 2001年から力を入れてきたのが,まさにエンタープライズ向けの機能です。性能の向上,運用管理を容易にすること,24時間365日稼働を可能にすることに注力しました。

 2003年12月に正式リリースされた7.4では,インデックスの連続更新が可能になり,24時間365日稼働させることが容易になりました。またAMDの64ビット・プロセッサOpteronをサポートしました。

◆.orgのドメイン名管理にレプリケーション機能が使われる

 7.4の新機能の1つレプリケーションは,すでに使われています。インターネットの「.org」ドメインの管理システムにPostgreSQLが使われているのです。そのシステムはアイルランドのAfiliaという会社が運用を担当しているのですが,レプリケーション機能を採用しました。同社はこのシステムで使われているeRServerと呼ぶソフトウエアをPostgreSQL 7.4とともにリリースしています。

 現在のeRServerはマスターからスレーブへの一方向レプリケーションですが,双方向レプリケーションも開発中です。eRServerはJavaで記述されていますが,7.5ではC言語で開発し直して,PostgreSQL本体に組み込む予定です。

 (データベース・ファイルが破損した際に,トランザクション・ログからデータベースを復旧する)「Point In Time Recover」は7.4でサポートする予定でしたが,間に合いませんでした。7.5でサポートする予定です。

◆SRAや富士通のPowerGresはオープンソース・ビジネスの好例

---SRAは,PostgreSQLをベースにしたPowerGresを開発しましたが,どう評価していますか。

 PowerGresにはいろいろなバージョンがありますが,例えばPowerGres for Windowsはとてもよい仕事だと思います。オープンソース開発者はUNIX系OSを対象にすることが多いのですが,Windowsプラットフォームはマーケットを広げるためにとても重要です。

 富士通は,同社のデータベース・エンジンとPostgreSQLを組み合わせていますが,富士通のエンジンは信じられないくらい強力です。10~20プロセッサといった環境向けの機能はコミュティでは環境を用意できず開発が難しいですが,富士通はすでにそういったサーバーを持っています。一方はPostgreSQLはポピュラーであり,両者はとてもよい組み合わせだと思います。大規模な顧客にPostgreSQLを届けてくれるというのは素晴らしいことです。

 ソフトウエア自体は無償でも,顧客の要望や環境に合わせてカスタマイズして,テストし,パッケージングすることで付加価値を作り出し利益を得るのオープンソース・ソフトウエアのビジネス・モデルの一つであり,SRAや富士通はそのよい例になると思います。

---主要なコア・メンバーのひとりであるVadim Mikheev氏がPostgreSQL開発チームを抜けたそうですが,今後の開発に影響はありませんか。

 Mikheev氏は当初からの非常に重要なメンバーであり,特にエンタープライズ向け機能について多くの貢献をしてくれました。今年,彼が時間が取れなくなったということでコアメンバーから抜けたことはとても残念です。

 しかし,とても多くの技術者がPostgreSQLの開発に参加してくれています。例えば,ストアド・プロシージャを記述するための,OracleのPL/SQLに相当する言語「PL/pgSQL」を開発したJan Wieckは,一時期PostgreSQL開発から離れていましたが,現在はまた活発に参加してくれています。

◆時間の一部でいい,PostgreSQLの開発に参加を

---PostgreSQLを利用している企業が,開発コミュニティを支援するとしたら,どのような方法がありますか。

 すでに日本のたくさんの方々が我々を支援してくれています。SRAの石井達夫さんや,斉藤浩さんなど....富士通も,Javaインタフェースなどで,とてもたくさんのパッチを我々に提供してくれています。もちろん,もっと多くの方に助けてもらえればうれしいです(笑)。

 支援してもらえるとすれば,お金や設備を送ってくださるのはもちろんありがたいですが,企業の技術者を,週に2日や,1日に2~3時間でも,PostgreSQLの開発に参加させてください。

 そうすればPostgreSQLの機能はより向上していきます。PostgreSQLのために開発した機能は企業に戻っていきます。PostgreSQLの開発の方向性をコントロールできることにもなります。OracleやDB2にたくさんのお金を払うことに比べれば,技術者の時間を割くのはずっと安上がりのはずです(笑)。




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