★PCサーバーによる基幹業務システムの構築を支援するユーザー団体ECAの活動成果が少しずつ現れてきた。富士銀行の決済代行システムでは,Windows NTを使い,「100%の可用性(availability)」を実現した。
★さらにECAでは,高可用性システムを構築するためのガイドラインを策定。ガイドラインに基づき,メンバー企業のシステム構築を支援している。
★安田火災海上保険はECAの協力を得て,NT ServerとSQL Serverを採用した世界最大級の顧客データベース・システムを構築,まもなく稼働する。

 「稼働開始後約1年間の実運用で,一度もダウンしていない。PCサーバーとWindows NTを使った基幹システムで,100%の高可用性を実証できた」。野村総合研究所の情報・通信コンサルティング部の新井靖彦グループマネージャーは,1月に行ったECA(Enterprise Computing Association)の活動成果報告の席でこう語った。

 ECAは,インテルの呼びかけで98年5月に発足したユーザー団体。PCサーバーを基幹業務システムに適用する上での課題と解決策を検討している(日経Windows NT99年1月号pp.11-14参照)。メンバーとして,三和銀行,ブリヂストン,三井物産,三菱信託銀行,安田火災海上保険,ヤマトシステム開発など,合計19社が参加。野村総合研究所(NRI)が運営を支援している。

 活動内容は,PCサーバーを使った先進ユーザー事例の分析,ユーザー企業が参加する定例の研究会,最新技術情報の調査など幅広い。OSはNTが中心だがLinuxなども含まれる。NRI内には,システムの性能評価テスト,既存システムの改善研究などを担当する機関として,ECL(Enterprise Computing Laboratory)を設置している。

富士銀行が100%の可用性を実現

 先進ユーザー事例の検証は,PCサーバーでの基幹システムの構築を不安視するユーザーに対して,その不安を取り除くための啓蒙活動と,高可用性実現のノウハウの蓄積を目的としている。冒頭で新井氏が言及した可用性100%のシステムは,富士銀行が98年9月に稼働させた中小金融機関向けの「外為円決済代行サービスシステム」のこと。ECAがシステムの構築と稼働状況を調査・分析してきたものだ。契約銀行の決済業務を請け負うという業務の性格上,いっときのダウンも許されないシステムである。

 稼働後約1年間の運用で,富士銀行の決済代行システムは,サービス提供時間中,システム・ダウンを一度も経験していない。ECAではこの事例の分析を基に,「メインフレーム並みのシステム構築・運用手順を踏めば,PCサーバーでも100%の高可用性を求める基幹システムが構築可能」と結論付けた。そのための条件として,(1)システム・リソースに余裕を持たせること,(2)機器類の完全な2重化とクラスタリング,(3)十分な実用テストの実施――の3点を掲げている。ちなみにECAでは,Windows NT搭載の一般的なPCサーバーの可用性を,99~99.5%程度と見積もっている。

表1●PCサーバーを使って構築した大規模なシステムの例(ECAの資料から)

ECAが高可用性システム構築のユーザー・ガイドラインを策定

 すでにECAのメンバーを含むユーザー企業の多くが,PCサーバーを使って基幹システムを稼働させている(表1)[拡大表示]。ECAではこれらの事例とそのノウハウを基に,PCサーバーを使って高可用性システムを構築するためのガイドライン「IAサーバ ハイアベイラビリィティ・ガイドライン」を策定した。ガイドラインは,ECAのホームページからダウンロードできる(URLはhttp://www.eca.gr.jp/index.html)。

 これまでのメインフレーム中心のシステム構築では,いわゆるベンダー丸抱えのやり方が当たり前で,高可用性確保のノウハウは,ベンダーにあればよかった。PCサーバーでは,ハード/ソフトの選択肢がユーザーにあり,コスト・パフォーマンスの面で優位な半面,そのメリットを享受するには,ユーザー自らが信頼性の確保に取り組む必要がある。

 ガイドラインは,ユーザー主導で信頼性の高いシステムを構築するために,ベンダーとどのようにシステム構築の協議を行うべきかをまとめている。たとえばユーザーはまず,システムの基本要件を明確化し,ベンダーが提示する可用性別のシステム提案を自らチェックしなければならない。さらに,運用体制の検討,各種手順書の作成,保守・運用の評価,といった流れに沿ってシステムを構築していくべき,としている。またシステム設計において,ハード/ソフトの構成計画,運用手順計画のそれぞれで,ユーザーがチェックすべき項目を解説している。

安田火災がNTで大規模DBに挑戦

 ECAでは,先進事例の分析に取り組むとともに,自らも積極的にメンバー企業のシステム構築を支援している。安田火災海上保険は,ECAから性能評価試験などの協力を受け,今年4月の稼働に向け,大規模な顧客データベースの構築を進めている。ECAのガイドラインに沿って開発されたシステムの第1弾といえる。

 安田火災では,顧客重視の経営方針のもと,顧客データベースの構築を検討していた。すでにメインフレーム上に顧客データベースを持っていたが,「損害保険の契約データだけで,限られた情報だった。メインフレームの保守コストの削減の要求からも,新しいシステムの構築が必要になっていた」(情報システム部の末広利明課長)。

図1●安田火災海上保険の顧客データベースシステムの要求性能
価格・性能・信頼性・柔軟性・拡張性などを総合評価して,NT とSQL Serverの採用を決めた。

 そこで新たに,メインフレームやUNIXシステムで日々更新される個人ローンや投資信託,損保の契約データなど,すべての顧客データを蓄積するデータベース・システムの構築を決めた。蓄積するデータは4000万件以上。1日当たり15万~20万件の更新が発生する大規模なシステムだ。全国の営業店からデータを照会するクライアント数は1万台を超える。こうした要件のもと,同社はWindows NTとSQL Server 7.0の採用を決めた(図1[拡大表示])。NTとSQL Serverを採用したシステムとしては,「世界最大クラスの規模」(マイクロソフト)となる。

 新システムは,メインフレームなどにあるデータを夜間のバッチ処理によってPCサーバーに転送し,顧客ごとの名寄せデータベースに反映する仕組みだ(図2[拡大表示])。データ蓄積用のサーバーと,データ照会用のサーバーを用意し,SQL Serverのレプリケーション機能を使ってデータを複製する。データ蓄積サーバーは,データ・ウエアハウスの機能も持つ。分析用のデータを切り出して活用する。

 現在メインフレーム上にある顧客データベースでは,登録したデータを照会用のデータベースに反映するのに,2日間かかっている。新システムでは,データを入力した翌日には照会が可能だ。現在サービスの提供は午前9時から午後8時までだが,今後は24時間の対応ができる。同社では,インターネット経由で顧客などにもデータを公開することを検討している。また,プラットフォームにPCサーバーを採用したことで,メインフレームで構築した場合に比べ,運用コストを約60%削減できると試算している。

図2●安田火災海上保険の顧客データベースのシステム構成
メインフレームなどの顧客データベースから,夜間バッチで転送して,SQL Server上に展開する。全国の営業店からWebブラウザ経由で顧客データを照会できる。顧客データ収集・蓄積サーバーは,手動切り替え用の待機サーバーを用意する。24時間対応の必要な照会サーバーはクラスタ化を予定している。

ECAが性能検証実験に協力

 同社は,今回のプロジェクトが決定する以前の99年1月から2月にかけて,ECAの協力で性能評価試験を実施している。既存のメインフレームの顧客データベースをPCサーバーに置き換えたときの性能をシミュレーションした。この実験結果によってメインフレームの処理性能を超える見通しが立ったため,NTの採用に踏み切った。

 こうして99年3月から本格的なシステムの検討を始めた同社は,99年9月から10月にかけ,再度性能評価実験を行っている。同じくECAの協力を得て実験を行った。ここでは,基本的な性能評価のほか,複数のベンダーのサーバーを用意した比較実験やシステムのサイジングの検証,最適なバックアップ方法を探る実験などを実施した。2度の実験を経て,「処理能力には問題ないことが確認できた」(末広課長)。最終的に,サーバーには,Pentium III Xeon-550MHzを4個搭載する日立製作所のHA8000を採用。メモリーは4Gバイトを搭載する。稼働当初のデータ量は300Gバイトになる。

 本番稼働を間近に控え現在は,NRIやマイクロソフトの協力を得ながら,高可用性実現の方策を検証している。24時間対応を想定する照会サーバーは,クラスタ化する予定だ。また蓄積サーバーは,コールド・スタンバイのサーバーを用意する。日立製作所が提供する高可用性サポート・サービスを利用することも検討中である。

 ECAではこれまでの活動を踏まえ,今後は,可用性や拡張性がより重要となる電子商取引向けのシステムを中心に,PCサーバーの実用性や優位性を検証していくという。64ビット・プロセッサItaniumを使ったシステムや,Windows 2000を使ったシステムの評価も実施していく予定だ。

 すでにWindows 2000については,インターネット上での株式売買のサイトを模擬したシステムでその性能評価を実施している。データベース・サーバーに8プロセッサを搭載するPCサーバーを採用し,6台のPCサーバー上にWindows 2000 Advanced Serverでアプリケーション・サーバーを構築した。その結果,「東京証券取引所の処理量に匹敵する性能を持つシステムを構築できるめどがついた」(インテルのサーバ&ワークステーションマーケティング本部の山田茂サーバプログラムマネージャ)という。

(森重 和春=morishig@nikkeibp.co.jp)
出典:2000年3月号 16-18 トレンド・レポート
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