こんにちは。弁理士の恩田です。今回は,ソフトウエア開発を外部に委託する際に,著作権がらみでどのようなことに注意すればよいかのお話です。著作者の権利を守ることを主な目的にした著作権法の規定の中には,普通に考えると「えっ」と感じることがあるかもしれません。開発の委託元だけでなく委託先の企業も,自社に不利になる契約を結ばないように注意する必要があるでしょう。

 ここは東京都庁の高層ビル群が臨める,とある特許事務所。大きなガラス窓からは春の正午の日差しが降り注ぎ,昼休み中の弁理士はちょっと眠そうにしています。そこに,彼の大学時代の同級生S氏がやって来ました。

弁理士:おっ,久しぶりだね。

S:つかの間の休息をじゃまして申し訳なかったかな。

弁理士:いやいや,そんなことないさ。このところしばらく顔を見せなかったけど,ずいぶん忙しいってことかな?

S:うちの会社が,あるクライアントから高額のソフト開発プロジェクトを受注してね。これにかかりっぱなしで大変なんだよ。

弁理士:この厳しいご時世に忙しいとは結構な話じゃないか。どれだけ徹夜しても間に合わせるってのが,君のモットーだったっけ?

S:それが今度ばかりは,どんなにがんばっても納期に間に合いそうにないんだよ。

弁理士:君みたいな忙しい人には,コピーロボットが必要だね。

S:本当にそう思うよ(笑)。でも,そんなことも言ってられないから,ソフトウエアの開発を一部,外部のソフトハウスに委託しようと考えているんだ。

弁理士:君の業界では,忙しいときに外部に委託するってのはよくあることなんだろ?

開発を委託したソフトの著作権はどちらに属する?

S:それはそうなんだけどね。ただ,今回はいつもお願いしている委託先のソフトハウスがほかの開発案件でいっぱいで,新しい会社に依頼することになったんだよ。それを僕が担当することになってね。外部委託をするときに気をつけることを君に伝授してもらおうと思って来たんだ。

弁理士:ソフトウエア開発を外部委託するときの注意点か。よしきた。(ちょっと考えて)…と,その前に簡単な問題を一つ。開発を委託してできあがったソフトウエア。その著作権は,委託した君の会社,委託先のソフトハウスのどちらにあるでしょう?

S:そりゃ,うちの会社だろ。元々こっちが頼んだんだし,開発の費用はこっちが支払うんだから。

弁理士:残念,不正解でした。ソフトウエアの著作権はそのままでは,委託先のソフトハウスにあるんだ。著作権法第2条1項2号に,「著作者とは,著作物を創作する者をいう」って規定されている。だから法律上は,実際に開発したソフトハウスが著作権者になるのさ。

S:えっ,そんなことになっちゃうのかい。

弁理士:そう,だからこそソフトハウスとの間できちんとした契約を交わすことが重要なんだ。さもないと最悪の場合,著作権を持っているソフトハウスが,開発したソフトウエアを持って他社に売り込みに行っても,文句を言えなくなってしまうからね。

S:そんなばかな!

弁理士:まあまあ。これまでずっと委託していたソフトハウスだったらお互いの信頼関係もあるから問題が起こる可能性は低いだろうけど,それでもきちんと契約するべきだね。特に,今回の君のように新しいソフトハウスに委託するときは,きちんとした契約を交わすことは不可欠だ。

S:なるほどね。付き合いのあったところでも,関係が悪くならないって保証はないわけだから,後で問題が起こらないように,きちんと契約しているかどうかを担当者に確認しておくよ。

弁理士:それがいいね。

S:具体的には,どんな契約にすればいいんだい?

弁理士:まず,「ソフトウエア開発者に帰属する著作権を,発注者に譲渡する」ということを契約書に明記しておくこと。そうして,ソフトウエア開発を委託すればいいのさ。前にも言ったように,受け取ったソフトウエアを財団法人ソフトウェア情報センター(SOFTIC,http://www.softic.or.jp/)に登録すればより確実な保護になるね(2003年2月号の本記事を参照)。

著作者人格権は譲渡できない

弁理士:それから契約書に,著作物の翻訳権・翻案権や,二次的著作物の利用に関する原著作者の権利を譲渡する,と明記しておくことも忘れないようにね。そうしないと,これらの権利は譲渡されなかったものと推定されてしまうから。

S:なんだかいろんな権利があるんだな。

弁理士:翻訳権と翻案権は著作権法の第27条で規定されている。著作物を翻訳したり,変形/脚色したりする権利だ。そのようにして創作した著作物を二次的著作物という。著作権法第28条では,二次的著作物の原著作物の著作者,つまりオリジナルの方の著作者は,二次的著作物の利用に関して,二次的著作物の著作者が持つのと同等の権利を持つことになる。

S:なるほどね。ほかに気をつけることは?

弁理士:外してならないのが,「著作者人格権の行使をしない」という条項を設けることだ。

S:著作者人格権…。初めて聞く言葉だな。

弁理士:この権利は一身専属権といって,著作者その人の人格を保護することを目的とする権利なんだ。だから,他人に譲渡することはできない。たとえ契約で「著作者人格権を譲渡する」と明記してあったとしても効力はない。それで,委託先が著作者人格権を行使しないという条項を別途,契約に設けるわけだ。

S:なんだか,ややこしそうだな。詳しく教えてくれないか。

弁理士:著作者人格権には三つの権利がある。著作権法18条の「公表権」,19条の「氏名表示件」,20条の「同一性保持権」だ。公表権は,まだ公表されていない著作物を公衆に提供または提示する権利。氏名表示権は著作者が著作者名を著作物に表示する権利だ。まあ,名前から想像がつくとおりの内容だね。

S:三つめの同一性保持権ってのは,どんな内容なのかちょっと想像をつけにくいな。

弁理士:同一性保持権は,著作物の同一性を守るためのものだ。簡単に言うと著作物が著作者の意に反した改変を受けないものとする権利だ。

S:そう言えば,かなり前だけど,マッドアマノ氏が,自分のパロディ作品の元ネタの著作権者と裁判で争っていたよね。あれは同一性保持権を巡ってのものだったんだな。

弁理士:そのとおり。著作者が著作者人格権を行使すると,開発したソフトウエアを勝手に公表したり,作者である自分の名前(または会社名)をソフトウエア内に表示しろと主張したり,勝手に改変するなと文句をつけたりすることが可能になってしまう。

取り扱い説明書についても別に契約が必要

弁理士:それから,そのソフトウエアが,まだどこでも開発されていない画期的なものだったら,秘密保持に関する契約条項も必要だ。

S:それは当然だろうね。

弁理士:秘密保持契約は,特許の取得という点からも重要なんだ。前に説明したとおり,ソフトウエアのアイデアは特許を取れるわけだけど,特許を出願する前に公然と知られてしまうと,特許として成立しなくなってしまう。だから,ソフトハウスから情報が洩れないようにしておかないといけない。

S:あ,そうか。特許出願ってこともあるわけだもんなあ。

弁理士:ところで,今回の委託では,ソフトウエアの取り扱い説明書はどうするつもりだい?

S:同じ会社に頼む予定だけど。

弁理士:それでは,ここでまた問題だ。ソフトウエアの著作権を譲渡する契約を結んだ場合,そのソフトの取り扱い説明書の著作権はどうなるでしょう?

S:ソフトウエアと取り扱い説明書はセットになっているから,ソフトウエアの著作権がうちの会社に譲渡される以上,取り扱い説明書の著作権も自動的にうちのものになるんじゃないの?

弁理士:残念。またまた不正解だ。ソフトウエアの著作権は,あくまでもソフトウエアそのものに対するものであって,それに付随した取り扱い説明書の著作権とは別ものなんだ。だから,取り扱い説明書などの付属物についても「創作時点で譲渡する」という契約を別途交わしておく必要がある。

S:そこまでしなければいけないのか。つまり,何も契約していないデフォルト状態では,著作権はすべて,著作物を創作した者に帰属するって考えておかなくちゃいけないってことだね。

弁理士:そのとおりだ。じゃ最後に一つ,法人著作の規定について説明して,今回の講義をオヒラキにしよう。著作権が個人に属するのか,企業や団体といった法人に属するのかってことだ。これによって,契約書の内容が変わってくる可能性があるからね。

S:業務で開発したものは企業のものになるんじゃないの。

弁理士:そうとばかりも言い切れない。著作権法第15条第1項は,法人が著作者になる条件として大きく五つの要件を定めている。一つめは,法人の発意に基づき作成されるものであること。二つめは,法人の業務に従事する者により作成されるものであること。三つめは,法人の従業員の職務上作成されるものであること。四つめは,法人が自己の著作名義の下に公表するものであること。そして五つめが,法人内部の契約,勤務規則等に別段の定めがないことだ。ただし,ソフトウエアについては第15条第2項で,四つめの要件がはずされていることになっている。これは,ソフトウエアが「公表」することを前提としていないため,一般の著作物と性質が異なるとして,例外的に規定されていることなんだ。

S:ということは,えっと(しばらく考えて),開発を委託したソフトウエアについてはほとんどが法人著作になるってことかな。

弁理士:そうだね。だけど,取り扱い説明書などの付随する著作物については,ソフトハウスの従業員個人が著作者となる場合があるから注意が必要だ。ソフトハウスの社内規則とかで「従業員が創作した著作物は会社に帰属させる」と規定されているかどうかを,確認しておくといいだろう。

S:いろいろとありがとう。ほんと,勉強になったよ。

出典:2003年5月号 134ページ
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