PDAを営業支援システムに採用する動きが本格化してきた。セキュリティ対策や通信機能といった,業務ならではの課題への対応策が見えてきたからだ。モバイル利用が前提となるため,厳重なセキュリティ対策が欠かせない。小型,軽量という利点はそのままに,製品の機能強化も進んできた。

 「営業担当者にはノートPCを携帯させることも考えたが,PDAでも多くのデータが持ち歩けることが分かったので,PDAに統一した」(岐阜銀行 営業企画グループ 営業企画課長 兼 業務開発課長 遠山真一氏)――Pocket PCやPalm OS搭載機,ザウルスといった携帯情報端末「PDA」を営業支援システムのモバイル端末として採用する動きが本格化してきた。

 冒頭の岐阜銀行は2001年5月,約300人の営業担当者にPocket PCを携帯させる。また,あいおい損害保険は,営業社員が利用する約3万台の保険料計算機を,通信機能を搭載したPalm OS搭載機に切り替える計画だ*1

 ただし,PDAは小型,軽量ゆえにPCよりも高い確率で紛失や盗難の脅威にさらされている。そのため,ユーザー認証やデータ保護などのセキュリティ対策が欠かせない。また,ここ数カ月の間に新製品の投入が相次いだため,機能強化点にも注目しておく必要がある。PDAを営業支援システムに活用するためのポイントを探った。

紛失,盗難を前提にデータを守る

図1●PDAを使った営業支援システム構築のポイント
岐阜銀行は2001年5月,約300人の営業担当者にPocket PCを配備した営業支援システムを本格稼働させる。Pocket PCには,顧客情報の照会や訪問結果の登録といったアプリケーションを組み込む。社外にデータを持ち出すため,一定時間利用しないと端末から強制的にログオフさせるなど,厳重なセキュリティ機能を実装する
表1●Windows CE 3.0を搭載したPocket PC

 PDAを業務利用するための課題は,(1)セキュリティ対策,(2)端末とサーバー間のデータ連携,(3)端末性能の見極め――の3つにまとめられる(図1[拡大表示])。以下,最近の機能向上が目覚ましいPocket PC(表1[拡大表示])を中心に,各課題への対応策を見ていく。ただし,対応策はPalm OS搭載機やザウルスにも通用するものだ。

 業務で利用するとなると,顧客情報といった重要なデータをローカルに保存していることも多い。紛失や盗難の危険性が高いPDAは,それらを前提とした厳重な対策を取る必要がある。PDAに搭載したデータを守る方法は2つある。一つは,端末のユーザーを認証すること。もう一つは端末内のデータを暗号化することである。

 ユーザー認証は,端末を起動した際にログオン認証画面を表示し,ユーザーIDとパスワードの入力を促す方法が一般的だ*2。ログオン認証を作り込んだ岐阜銀行では,ログオンに成功しても2分間操作しないと端末をレジューム状態にする。レジューム状態が1分間以上続くと,端末から強制的にログオフさせてしまう。「営業にとって3分は短いかもしれないが,セキュリティを優先した」(遠山氏)。また,ログオン認証に何度も失敗すると端末内のデータを自動的に削除する。さらに,データ自体も独自に暗号化している。

通信機能の使い所を見極める

 PDAとサーバー間のデータを連携させるには,「クレードル」を使ったローカル連携と,通信機能を使ったリモート連携の2つの方法がある。最新のPDAは通信機能の強化が特徴の一つ。CompactFlashのカード・スロットを備えていれば,NTTドコモの「P-in Comp@ct」などを装着してPHS通信が可能になるため,接続ケーブルなどを持ち歩く必要がない*3。また,「CASSIOPEIA E-707-S」はNTTドコモのパケット通信に対応した「DoPaチップ」を内蔵する*4など,PDAに通信機能を内蔵する動きも進んできた。

 しかし,安易に通信機能を利用することは避けたい。データ量や利用者が増えれば通信料金がかさむし,通信機能を使った分,バッテリを余計に消費するからだ。顧客情報といった鮮度を求めないデータは,岐阜銀行のようにクレードルから取り込めれば十分だ。 PDAで利用するデータの鮮度や量などを見極め,クレードルと通信機能を適切に使い分けられるかが,データ連携のポイントとなる。

性能はノートPCに迫る

 PDAのハード性能も向上してきた。例えば,コンパックコンピュータが2001年4月に日本市場に投入する「iPAQ Pocket PC H3630」は,CPUにIntel StrongARM 206MHzを搭載。メモリーは,他のPocket PCと同様に32Mバイトだが,64Mバイトの「iPAQ Pocket PC H3660」も登場する予定だ。あくまでカタログ上の数値だが,ノートPCに迫るほどだ。

 しかし,モバイル利用を前提として見ると,現行Pocket PCのバッテリ駆動時間は物足りなく映る。駆動時間は7時間から12時間程度だが,「本格的な業務用途で利用しているユーザーは予備バッテリを携帯している」(カシオ計算機 コンシューマ事業部 MNS統轄部 ソリューション開発部 次長 三上景三氏)。ただし,バッテリの問題も業務特性に依存する。例えば,1日に1度はクレードルで充電できる,通信機能を多用しないなどの条件下であれば,現状の駆動時間でも十分だろう。

 ハードの性能向上と共に,Pocket PCを取り巻くソフトも充実してきた。まず2000年後半に,SQL Server 2000をはじめとするWindows CE向けのDBMSが出そろった*5。また,Windows CE 3.0の次期OSの機能も見えてきた。“Talisker”(開発コード名)と呼ぶ後継OSは現在ベータ版の段階だが,「パフォーマンスの向上やWWWブラウザの強化,Bluetoothへの対応,XMLやSOAPといった.NETフレームワーク対応などを予定している」(マイクロソフト 製品マーケティング本部 Windows製品部 モバイル & エンベデッド グループ マーケティングマネジャー 佐野勝大氏)*6

Palm OSやザウルスも機能向上

図2●通信機能を備えたPalm OS搭載機を選択
あいおい損害保険は,2001年夏をめどに約3万台ある保険料計算機をPalm OS搭載機に順次切り替える計画である。アプリケーションをサーバー側に移行し,バージョン・アップする際の作業負荷を軽減させることが大きな狙いである

 Pocket PCと同様に,Palm OS搭載機やザウルスも企業のモバイル・クライアントとしての機能を強化してきた。これまでは,Windowsベースの開発ができない,端末のスペックが低いなどの弱みがあった。しかし,Palm OSは通信サービスの内蔵,ザウルスはJava環境の搭載によって,弱点の克服に動き出した*7。 

 従来,Palm OS向けアプリケーションを開発するには,「Code Warrior for Palm Computing Platform」といったWindows開発者にはなじみのないツールを使うしかなかった。しかし,パーム コンピューティングが開発中の新機種は,DoPaの通信機能を備え「Web Clipping Application」と呼ぶサービスを利用可能にする計画だ。これを使えば,HTMLベースのアプリケーションが開発可能になる*8

 あいおい損害保険は,このサービスの利用を前提に,既に代理店の営業支援システムの再構築に着手した(図2[拡大表示])。従来は保険料計算機にデータやアプリケーションを搭載していたが,更新作業の手間を軽減するためにサーバー側に集中させる。Palm OS搭載機を選んだのは,「Pocket PCなどに比べてもまだ“軽い”」(情報企画室 担当課長 庄子博昭氏)という理由からだ。

 確かに,ハンドスプリングが4月に販売開始する最新機「Visor edge」を見ても,外形寸法が79(W)×119(H)×11(D)mm,重量が136gとPocket PCに比べて小型,軽量だ。ただし,Palm OS搭載機は個人情報管理(PIM)の利用が主流であるため,CPUはDragonballの33MHz,メモリーは8Mバイト程度が最高だ。もちろん,このスペックで十分というアプリケーションもあるだろう。必要なスペックの見極めが重要だ。

ベスト・クライアントは何か?

図3●携帯性は性能とのトレード・オフ
Pocket PCのほか,Palm OS搭載機やザウルス,WWWブラウザを搭載した携帯電話やHandheldPCなど,モバイル・クライアントの候補は多い。端末の持ち歩きやすさ(携帯性)とその性能はトレード・オフの関係にある。業務の種類によって端末の選択は変わってくるため,携帯性やキーボードの必要性,開発環境や価格などを総合的に判断したい

 業務に利用するための勘所が分かってきたことで,PDAが営業支援システムに浸透し始めた。しかし,ライバルは少なくない。PDAを超えた機能が必要な場合は,Handheld PCやノートPCが候補となる(図3[拡大表示])。これらはPDAより高機能かつ大画面だが,キーボードが付いていることがポイントだ。モバイル環境で入力業務が多い場合は,PDAよりも向いている*9

 例えば,2001年2月に新基幹販売・物流システムを稼働させた成和産業は,約500人の営業社員にNECのタッチパネル付きノートPC「VersaPro VA50H」を携帯させた。「受注業務などはペンタッチで簡単に操作させるが,営業社員が行動計画を練るためにはキーボードも必要」(情報システム部 リーダー 木安寛治氏)と判断した。

 また,単純な業務であればPDAではなく,iモードなどの携帯電話の出番もあるだろう。iアプリの登場により,携帯電話上でロジックも稼働させられる*10。企業モバイルのベスト・クライアントは何か――選択肢が増えてきたことで,業務要件を突き詰める必要性が高まった。

(森山 徹=tmoriyam@nikkeibp.co.jp)
出典:2001年4月号 100 オープンレポート
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。