本誌読者調査では3割が使用しているなど,Linuxは着実に浸透しているが,まだ有償のSIビジネスの規模は小さい。ベンダーのサポート体制の強化やノウハウ蓄積などが課題である。米国での約25%のシェアなどを背景に,各メーカーは2000年度の市場拡大を見込む。

 99年春,Linux版Oracleの国内出荷や展示会の開催を契機に,それまで一般に“ホビー”と考えられてきたLinuxを,ビジネスに活用しようとする動きが一気に高まった。大手メーカーがLinuxへの対応を表明し,サポート・サービスの提供を開始した。

図1●Linuxを書名に含む書籍の発行点数の推移
取次大手トーハンの書誌データベースに登録された書籍。書籍販売サイトのイー・ショッピング(http://www.eshopping.ne.jp/)で検索した
 それから約1年,マスコミでのLinuxの扱いなどは明らかに沈静化してきている(図1[拡大表示])。「Linuxとは何か,が周知され,質の悪い便乗本が消えたに過ぎない」(レーザーファイブ 代表取締役社長 窪田敏之氏)のか。それとも,ブームが去ったのか。

読者の3割が社内で利用

 Linuxの普及状況を把握するのは難しい。無料でも配布されているため,どれだけ使用されているかを出荷本数として押さえることができないためだ*1

 日経オープンシステムでは,Linuxの利用状況について2000年4月号と99年3月号の読者アンケートで調査した*2。99年3月号では,社内でLinuxを利用していると回答した読者は9.5%だった。これに対し,2000年4月号では,31.9%の読者が社内でLinuxを使用していると答えた。「利用する計画がある」の17.6%を合わせると,半数の企業でLinuxが使用されることになる。とは言え,見方を変えれば,読者の半数はLinuxを導入しておらず,導入の予定もない,とも表現できる。

 また,日経BP社調査部で実施した「Linux導入調査」も参考になる*3。99年6月時点の調査では,5%が導入中,11%が試験導入中と回答している。本誌読者よりLinux導入率が低くなっているのはパソコン誌読者を含み,コンピュータ・ハードウエア・メーカー勤務者を調査対象から除いているため,と考えられる。第2回以降の調査結果は公開していないが,導入率は増加しており,2000年3月時点のデータは本誌読者調査に近づいてきている。

メーカーは数百台のサーバーを直販

 大手コンピュータ・メーカーに,99年度の成果を聞いた結果を表1[拡大表示]に示す。ただし,表に記したのはメーカーが把握している部分のみである。代理店などやユーザーがLinuxをインストールした部分はメーカーでは把握で きていないが,相当数あると思われる。

図2●読者調査によるLinuxの社内利用状況
調査は本誌読者から無作為に抽出した270人が対象。99年3月号の調査は99年2月9日までに到着した有効回答130通,2000年4月号の調査は2000年3月6日までに到着した有効回答94通を集計した
 NECでは,99年度は「グループ全体で約100件のシステムを納入,ハード,SIを合わせてLinuxで10億円以上を売り上げた」(NECソリューションズ マーケティング統括本部長井崎博行氏)と言う。サーバー台数で言えば,200台近いと推定される。NECグループで99年4月からLinuxのサービスを提供しているNECソフトでは「平均では1件当たり2台弱のサーバーを納入している」(ITソリューション事業部,第一ソリューション部 技術マネージャー 鈴木敦夫氏)。NECソフトではLinuxで数千台のWindowsクライアントを束ねるシステムも構築した,と言う。

 NECは本体でLinuxを販売していない。一方,富士通は2000年1月にPCサーバーGRANPOWER 5000のLinuxバンドル・モデルの発売に踏み出した。

拠点サーバーとして大量導入も

 日本アイ・ビー・エムでは教育用で大阪大学に700台を納入したほか,いくつもの業務システムでLinuxを載せた同社のPCサーバーを採用している。

 コンパックは「地方拠点のDNS(Domain Name System)サーバーやファイル・サーバーとして100台以上のLinux搭載サーバーを納入している大手ユーザーがある」(ソリューション企画推進本部リナックスプログラムオフィス エバンジェリスト古川勝也氏)。また99年10月から,LinuxをバンドルしたPCサーバーを通信販売している。「5%程度と予想していたLinuxバンドル率は,実際にはその数倍。また,無停電電源装置が付属する割合がNTに比べ高い」(古川氏)

 日本SGIは99年10月にLinux搭載サーバーを出荷した。Red Hat Linuxをベースに独自機能を付加した「SGI Linux」を搭載している。出荷から約半年で「3けたの前半」(日本SGI 社長 和泉法夫氏)すなわち100台以上,500台以下を出荷した。

 米Hewlett-Packardもサポート・サービスなどを提供しており,採用事例も日本ヒューレット・パッカードのサイトで見ることができる。

 日本オラクルは99年3月にLinux版のOracle Workgroup Serverを出荷し,「発売直後のキャンペーンで約1000本を販売,以後コンスタントに売れ続けており,これまでに約6000本を販売した」(日本オラクル Linux事業推進部 シニアマネージャ 池田秀一氏)と言う。

有償サービス利用は少数

 とは言え,Linuxビジネスはまだ始まったばかりである。日経システムプロバイダでは,Windows NT版は99年度(日本オラクルでは99年6月から2000年5月)に約6万5000本を出荷する,と予想している*5。Linux版は,本数ベースでNT版の1割強ということになる。例えばNECの10億円という数字はグループ全体からすれば,まだ微々たるものでしかない。Linuxへの対応が,ハードウエア販売に貢献している可能性は高いものの,直接のビジネスとしては小さい。

 注目されたほどはSIビジネスに点火していない,という見方もある。数年前からLinuxオールインワン・サーバーの販売を手掛けて来たあるインテグレータは「SIの売上は98年度とほとんど変わらなかった」と言う。

 日経BP社調査部のLinux導入調査でも,Linux導入会社のうち,有償サポートを利用するユーザーは増加してはいるが,大半が有償サポートを利用しておらず,またその予定もない。まだ,信頼性の確保やインテグレーションが必要ない用途が大半,と見られる。

課題はノウハウ蓄積や法的リスク

 コンパックの古川氏は「Linuxはプル・マーケット」と表現する。ユーザーが「Linux」と指名して購入するケースがほとんど,という意味だ。逆の「プッシュ」すなわちインテグレータが提案するケースはまだ少ない。

表1●大手メーカー/ベンダーの日本国内での対応製品と実績
 日本オラクルの池田氏は「Linux業界が『自己責任』を強調し過ぎた」とみる。「現実には何か問題が発生してもマイクロソフトが責任を取ってくれるわけではなく,NTでもLinuxでも同じ」(同)。しかし,自己責任という言葉にインテグレータやユーザーが不安を感じてしまった,との見方だ。

 また,サードウエア 社長の久保元治氏は「99年はまだ開発ツールがそろっておらず,生産性が不十分で,SI案件でコスト競争力を発揮できなかった」とみる。NECソフトの鈴木氏は「LinuxはNTより手間がかかる」と指摘する。NTであれば,用意されているモデル構成で見積もりができる。しかし,Linuxでは調査,検討が必要になる。情報収集にもノウハウの蓄積がないため,時間を要してしまうと言う。またあるインテグレータは「今,Linuxで利益を上げているのは教育事業だけ」と指摘する。

 別な課題として,日本アイ・ビー・エムのNetfinity&Solution事業部事業企画部長 藤本司郎氏は「法律上のリスクがまだ完全にクリアされていない」点を挙げる。Linuxが,他社の知的所有権や特許に抵触している可能性が皆無ではない。そのため,「インテグレーションを手掛ける際には必ず法務部門が検討している」(藤本氏)。

サポート体制は急速に向上

 関係者は,上記の課題はいずれも解決可能とみる。「自己責任の部分こそがインテグレータの差別化と利益の源泉」(日本Linux協会会長 生越昌巳氏)。ターボリナクッス ジャパンは社員を日本で80人,技術者だけで45人に増員し,「メーカー,インテグレータの厳しい要求に応える」(社長 小島國照氏)。レッドハットは「認定技術者Red Hat Certified Engineerを2000年には約1000人養成する」(社長 平野 正信氏)。日本オラクルは子会社を通じて独自ディストリビューション「Miracle Linux」を提供し“最終責任”を引き受ける体制を作ろうとしている*6

 Linux対応の開発ツールも,OracleのWebDBや.IBMのWebSphereなどがそろってきた。販売効率の悪さも「確かに今は効率が悪いが,規模が拡大すれば解決する」(NECソフト 鈴木氏)。

 法的リスクの問題は完全に回答が出ているわけではないが,多くのベンダーは「インストールはユーザーからの要望を受けて代行する」などの形式を取ることで対応を図る*7。注意を払いながらも,Linuxから撤退するほどの要因にはなっていない。

2000年は高成長を見込む

 今後の見通しについては,当然ながら各社とも強気だ。

 NECソフトでは,2000年度は昨年の3倍,9億円のサービス売上を見込む。富士通は今後2年間で約3000サーバーの販売を見込む。日本IBMでは「2000年度Linux搭載機の販売目標は,PCサーバーNetfinity全体の20%」(藤本氏)と言う。日経システムプロバイダの推計*8では,日本IBMの1999年度のPCサーバー出荷目標台数は約3万1000台,その20%は6000台を確実に超える。日本SGIでは,2000年4月に出荷したラックマウント型のLinuxサーバー「SGI1200サーバ」を年間で1000台販売する計画だ。

 強気の裏付けは「試験導入の段階が過ぎ,本格導入へ踏み切るユーザーが増えている」(コンパック 古川氏)という実感にある。日本IBMの藤本氏は,「ある大手ユーザーが基幹系システムでUNIXマシンのリプレースに数千台のLinuxの導入を決定した」,と明かす。すでに,ハードウエアをどこに発注するかという段階だと言う。

図3●サーバーOS世界市場シェア
IT調査会社米IDCによる。Linuxの台数には無料で配布,ダウンロードされたものは含まれていない
 もう一つの理由は,米国での活況である。IT調査会社米IDCによると,99年のサーバーOS市場で,Linuxは台数ベースで93.2%成長し,シェア24.6%と,商用UNIXを抜いてWindows NTに次ぐ第2位のOSとなった(図3[拡大表示])。Windows NTが8割以上を占める日本の状況と大きくかけ離れているが「日本だけ特異な状況は長くは続かない」(日本オラクル 池田氏)。いずれ米国の状況に近づくと見る。

 ただし米国でも,Linuxの金額ベースでのシェアは1%以下に過ぎない。米Red Hat Softwareや,Linux搭載マシンの大手ベンダー米VA Linux Systemも赤字が続いている。収穫期には至っていない。

(高橋 信頼=nob@nikkeibp.co.jp)
出典:2000年5月号 96-99 オープンレポート解説
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。