店頭の販売情報を小売店と共有するとともに、顧客の購買行動を徹底分析。メーカーでありながら、“買い物しやすさ”の追求というアプローチで販売拡大を狙う。プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インクの販売改革に迫る。

●顧客の購買行動を基に商品の配置を決定

 「あっ、あった。これだわ」。商品棚から取り出した「ヴィダルサスーン」のシャンプーを手にしながら満足そうな笑みを浮かべる若い女性客。その横では、子連れの主婦が「リジョイ」の詰め替え用パックを買い物かごに滑り込ませた。

 ある総合スーパーのヘアケア商品売り場ではこんな光景が見られるという。大半の顧客はさほど迷うことなく商品を選び取り、次の目的地へと向かう。売り場全体の売り上げは2カ月前と比べて約20%も増えている。

 売り上げが急激に伸びた秘密はその売り場作りにある。

 例えば、棚割り方法。来店客の購買心理を分析し、目的に合った商品を素早く見つけられるように並べているのだ。売り場作りのアイデアを出したのは店舗ではない。大手日用品メーカーであるプロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク(P&G、神戸市)である。

境界線越え収益を引き上げる

 「第一の真実の瞬間」。P&Gがここ数年、勝負をかけているターゲットである。

 P&Gは、顧客が商品を購入する時と、購入した商品を利用する時の2つを「真実の瞬間」と呼び、それぞれの瞬間で顧客満足度を高める戦略を打ち出した。

 メーカーは一般的に、最大の武器である商品力に磨きをかける。すなわち、利用時の満足度を高めることに資源を集中する傾向が強い。一方、P&Gは購入時の満足度を重視する姿勢を強めている。一言で表せば、“買い物しやすい”売り場を作ることに全社で取り組んでいるのである。

 「お客様が店頭で商品を喜んで手に取ってくれるようにすることで需要を創造する」。営業統括本部カスタマー マーケティング オーガニゼーションの冨岡修カテゴリーマネジメントマネージャーは狙いをこう話す。

 その成果を最近の業績が物語る。3年前までは国内売上高の伸び率は1ケタ台後半で推移していたが、昨年と一昨年は共に前年比で2ケタ成長を記録。売り上げは上昇機運にある。

 売り場作りの要(かなめ)となるのが、「カテゴリーマネジメント」と呼ぶ手法。自社商品だけでなく、他社の商品も含めた商品カテゴリー全体の売り上げ向上を目指す取り組みである。

 来店客は売り場で一体どのように商品を選ぶのか。ここ1~2年は、こうした顧客の購買心理の洞察に努めている。顧客心理を徹底的に掘り下げて売り場に反映。売り上げアップに結びつけている。

 顧客ニーズの多様化や小売店の競争激化といった経営環境の変化を受けて戦略を転換した。商品開発を業務の中核とするメーカーの枠を越えて、商品を売り場にどう配置するかに力を注ぐ。

 かつては、商品を卸業者や小売店に納めるまでがメーカーの役割とされ、営業担当者は店頭シェアを拡大することに熱心だった。ところが、「卸業者や小売店に押し込んでリベートで対応するといった方法では収益を上げにくくなってきた」(冨岡カテゴリーマネジメントマネージャー)のである。

1000人の購買行動を徹底分析

 カテゴリーマネジメントでは、メーカーと小売店という垣根を越えて、双方が協働して棚割りや売り場の構成を決める。小売店側は、かつては機密だったPOS(販売時点情報管理)データも公開する。基本的には、商品カテゴリーごとに「カテゴリーキャプテン」を配置。カテゴリーキャプテンに任命したメーカー1社と機密保持契約などを結んで取り組む。

 一方、P&Gは商圏分析や来店客への聞き取り調査を実施。さらに、グローバル企業の強みを生かし、世界中から集めた売り場作りのノウハウも提供する。

 冒頭のケースでは、対象とする店舗の来店客への聞き取り調査などを基にこんな棚割りを実施した。

 商品棚の横軸に、ファッション性重視や機能重視、価格重視といった顧客のし好を、縦軸には商品ブランドを取って棚を区切る。例えば、ファッション性重視のゾーンには「ヴィダルサスーン(P&G)」や「モッズ・ヘア(日本リーバ)」、価格重視のゾーンには「リジョイ(P&G)」や「メリット(花王)」といった商品が並ぶ。

 従来は、顧客心理の分析まで本格的に踏み込んでおらず、売り手の視点で売り場を構成。ダメージ用やフケ用といった機能別に並べていた。

 ところが、後述の「ショッパーリサーチ」と呼ぶ消費者調査の結果、機能で商品を探す人は少なかった。むしろ、機能が同じというだけで、低価格の商品と高価格の商品が混在していると選びにくいという声さえあった。

 そこで、調査を基に顧客層別の商品配置に変えることを決断。ファッション性重視や機能重視といった分類が浮かび上がってきた。さらに、ファッション性重視の人はどんな商品を買っているかといった調査をして、分類ごとにどのブランドを置くかを決めていったのである。

 売り場全体の売り上げを20%伸ばしただけでなく、「ヴィダルサスーン」や「パンテーン」といった自社商品の売り上げも20%以上拡大することに成功した。

 顧客は店内を見回って目的の商品をすんなり見つけられないと、「あの店は品ぞろえが良くない」と判断しがちだ。顧客が探し求めているにもかかわらずうまく見つけ出せないような売り場では、販売機会をみすみす逃すことになる。反対に、どこに何が置いてあるかがはっきりと分かる店であれば、品数以上に商品が充実しているという印象を与えられ、集客につながる。

相馬 隆宏 souma@nikkeibp.co.jp
出典:2004年6月号 150ページ
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