表1●UWBの開発経緯
図1●UWBで想定される無線通信の主な用途
UWBは,高速のワイヤレスPAN(Personal Area Network)を実現する技術として開発されている。10m以下程度の範囲で,これまでケーブルで接続されていた機器間を無線化する。パソコン本体とディスプレイなど,現状では無線化しにくい機器間を低コストで無線接続できる技術として期待されている。高速伝送できるUWBにより無線化できる対象はいろいろありそうだ。
図2●無線技術としてのUWBの位置付け
ワイヤレス通信にはさまざまな種類がある。UWBはその中でも飛び抜けて高速。無線LANやWireless1394が100Mビット/秒を目指して次世代規格を検討中なのに対し,UWBは数百Mビット/秒に焦点を合わせている。ただし,通信距離はせいぜい10mと,Bluetoothと同程度。
 2002年2月,米国のFCC(Federal Communications Commission:連邦通信委員会)がある無線技術の民間利用を認可した(表1[拡大表示])。その無線技術に割り当てた帯域幅は3.1G~10.6GHzの7.5GHz。無線LAN(IEEE802.11b/g)の帯域幅が26MHzであるから,その数百倍という広さだ。認可された無線技術はUltra Wideband(UWB)。それまで軍事,警察,消防などでしか使用が許されていなかった“未知”の技術である。

 それから1年半。UWBの実用化活動は急速に進展している。標準化が始まり,製品開発が具体化し,2003年4月からは国内においても実験局免許の交付が始まった。しかも,標準仕様の作成過程では,UWB技術の根幹となる部分についての大胆な見直しが実施されつつある。2004年にも製品化が始まりそうなUWBの今を報告する。

出力規制を課して帯域を割り当て

 UWBが無線LANの数百倍という広い帯域を使うのは,データを,瞬間的に電圧が上下する信号(インパルス)で伝えることを前提にしていたからである。インパルスは,信号が流れている時間(パルス幅)が1ナノ秒(1ナノ秒は1秒の10億分の1)以下と極めて短い。このように短時間で電圧が変動する信号は,多くの周波数成分で構成されている。このため,インパルスを正しく相手に伝えるためには,それらの周波数成分をすべて伝えられるような広い帯域幅が必要になる。UWBに割り当てられた帯域がとてつもなく広い理由はここにある。

 ただし,現在の周波数管理制度において,広い帯域を特定の無線技術だけに割り当てるのは難しい。すでに多くの帯域が何らかの無線技術に割り当てられているからだ。

 周波数管理は,米国ではFCC,欧州はETSI(European Telecommunications Standards Institute:欧州電気通信標準化協会),国内では総務省が管轄する。どの地域でも周波数帯域を細かく分割し,用途や無線技術の種類別に割り当てている。国が細かく管理しているのは,干渉を避けるためである。このため,一部の特定用途では実用化されているUWB(インパルス通信)であったが,民間向けの周波数割り当ては期待できないと見られていた。

 このような状況で生まれたFCCの帯域解放は,関係者に驚きを持って迎えられた。FCCの決定は,割り当て済み帯域を新たにUWBに割り当てると同時に,UWBの信号出力を極力抑え込むことで既割り当ての無線技術への干渉を回避するというものだった。

 FCCが示した出力条件は,「1MHz当たり-41dBm以下」というもの。ワット換算すると0.37ナノWである。この値は,FCCの規定において「ノイズ」とされるレベルである。

 この決定によってUWBは近距離限定という条件がつくものの,一般機器向けの汎用無線技術としての道が開けた。

 この時点においてUWB(インパルス通信)に期待された主な特徴は三つある。(1)個々の信号が瞬間的に送信されるので高速化できる,(2)複雑な変復調処理や帯域制御を必要としないので低コスト化できる,(3)搬送波を用いないので消費電力を小さくできる――である。つまりUWBは,低コストで低消費電力の近距離限定の汎用無線技術として期待を集めたのである。

“身の回り”をUWBで接続

 現在,UWBの標準仕様はIEEE(電気電子学会)の802.15委員会で検討されている。具体的な検討作業を担当するのは,高速物理層を検討する802.15.3作業部会内に設けられたタスクグループ「TG3a」である。

 802.15委員会はFCCがUWBに帯域を割り当てた当初,「SG3a」(SGはStudy Groupの略)で仕様作成の可能性を探っていた。その後,2002年11月にタスクグループの設立を決めた。2003年1月に開かれた第1回の会合で仕様案を募り,具体的な検討が始まった。今は,標準仕様の原案となるドラフトを決める段階に入っている。

 802.15が想定するネットワークとは,個人の身の回り,せいぜい10m程度の範囲にある機器間の無線接続である(図1[拡大表示])。例えば,携帯電話の本体とヘッドセット,MD/CDプレーヤとヘッドホン,PDA(携帯情報端末)とパソコンなどである。こうした機器間の無線技術として802.15が作成した仕様としてはBluetoothがある。

 使う側から見たときのBluetoothとUWBの違いは伝送速度にある(図2[拡大表示])。Bluetoothの最大伝送速度が1Mビット/秒であるのに対し,UWBは数百Mビット/秒が見込まれている。伝送容量が飛躍的に大きくなることで,これまでは無線化しにくかった機器間,例えば高画質テレビとハードディスク・プレーヤ/DVDプレーヤ,パソコンとディスプレイの間などをワイヤレスにできる。すでにBluetoothなどの技術で無線化を果たしていた機器間でも大容量通信ができるUWBを採用することにより,使い方が変わる可能性もある。

インパルス通信は非主流に?

 TG3aにおける議論では,UWBの根幹となる基本技術を見直すという議論が巻き起こった。元々のUWBは,一つの広い帯域(シングルバンド)を使ってインパルス通信するというものだったが,それとは違う技術が仕様案として提出されたためである。

 現時点で最も有力と見なされている仕様案「Multi-band OFDM System」は,割り当てられた帯域を13のバンドに分割(マルチバンド)し,IEEE802.11a/gなどで採用されている変調技術「OFDM(Orthogol Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)」を用いるというもの。これは,米Texus Instruments社(以下,TI),米Intel社が中心となって開発した仕様案で,米Time Domain社,三菱電機,松下電器産業,ソニーなど17の企業や研究機関の提案をまとめたものである。他にも検討対象に残っている提案はあるが,提案者はIEEE標準として採用されることに自信を見せている。「後はドラフト採用に必要な75%の支持率を得るだけだ」(IntelのCorporate Technology Group,Communications&Interconnect Technology Lab,Wireless Technology Development,DirectorのBen Manny氏)。

 これまではインパルス通信=UWBであるとして,UWBのさまざまな魅力が語られてきた。だが現状の標準化作業を見る限り,インパルス通信は“時代遅れ”と評されるようになっている。そして,「シンプルな通信技術だったはずのUWBが,どんどん複雑な方向へ変わりつつある」(富士通 ネットワーク事業本部 モバイルシステム事業部 担当部長の坂根敏朗氏)。

(仙石 誠)
出典:2003年11月号 89ページ
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。