タイトルにGeeksという失礼な言葉を使うことを,まず第1回のこのコラムで言い訳させてほしい。つまり,この“Geeks”という名称は,一般的にいってあまり歓迎される種類の人々を連想させないらしいからだ。といっても古今東西,解釈も違うし,人によって受け取り方も違う。だから,Geek(あるいはGeeky)やNerdといった言葉が意味するところや,それらの微妙なニュアンスの違い(あくまでも私にとっての違いではあるが)を最初に説明しておきたい。

Bill Gatesは典型的なGeek

 まずNerd。これは比較的日本でもよく知られている言葉だと思う。米国では主に大学で使われている。勉強以外何もしない人。これがNerdの意味するところに最も近い。

 一方のGeekはあまり日本では紹介されていないようだが,米国ではしばしば会話に上がる。一般に,ハイテク系の会社で働く技術の専門家を指す。Nerdに比べるとビジネスの匂いがする。その言葉が醸し出す人間像としては,男性,恥かしがり屋,コンピュータの前につい座ってしまう,知的,プログラミングか電気関係のスキルがある,人と話すのが苦手(ただし他のGeeksとは話せる),サイエンス・フィクションの映画が好き,他の人は自分の価値を認めてくれないと思いがち…などなど。もしMBAの学生がWebページを作っていたりすると(ちなみにたくさんいる),Geekyと呼ばれても仕方ないと本人も思っている。Silicon Valleyでもこの解釈は変わらない。ただしちょっとしたニュアンスの違いはある。Geeksには“尊敬の念”が含まれているということだ。

 西海岸には,Geekyであるがゆえに富を得た人は多い。代表的なのは米Apple Computer社の共同創設者であるSteve Wozniakや米Yahoo!社のJerry Yang。業界のトップに登りつめた人もいる。そう,Bill Gatesだ。

 私はGeeksに思い入れがある。第1に,Geekの度合いと性格の優しさに相関関係があるという事実を,私自身が身を持って何度も体験して知ったこと。第2に,技術力の高さとGeekの度合いもまた,明確な相関関係があることだ。つまり,Geekの度合いが強ければ強いほど,パートナーとして魅力的な人材なのだ。

 実はこの相関関係は,私が米国で独立を模索していたときに気付いた。そして私は,彼らと一緒に働き,彼らが生み出した技術,製品,サービスを売り歩くことを職業にすることを決めた。モノやサービスを作れない私は,Geeksお助け稼業を長年やっている。

 Geeksと親しくつき合うようになり,彼らがさまざまな悩み事を抱えていることを知った。技術をキャッチアップしていくことの悩み,自らの将来設計の悩み,あるいは家族の悩み…。仕事に追われ,わずかの休息の時間をも不安にさいなまれる彼・彼女らの人生の瞬間を,このコラムで共有したいと思う。

エンジニアは恵まれない職業?

 アメリカでコンサルティング会社を経営していたときの私のパートナー「Joe」も,根っからGeekyだった。そしてJoeは,エンジニアという職業からいつも抜け出したがっていた。「エンジニアというのは恵まれない職業だ」とJoeは言う。

 Joeは訴える。「医者や弁護士は人を治す職業だ。彼らは同じクライアントを何度も治す。だから,医者も弁護士も治した経験が多いほど,つまり年齢を重ねるとより重宝される。でもエンジニアは違うんだ」。言葉を選んで彼は続ける。「製品の寿命は短い。一つの問題を解決した頃には,別の製品が使われ始める。そこでエンジニアは新たな問題を探し続けることになるが,次第に自分自身が古くなる」。

 キャリアの問題もあるという。「エンジニアは4年生大学を出れば誰でもなれる。しかしエンジニアは時間給で働かされる。優秀なエンジニアには高い時間給が与えられるが,40歳にもなれば20代のエンジニアに怯えることになる。自分が使い古されるのが怖いんだ。これじゃキャリアなんていえないよ」。

 「An Engineer is by definition a dead-end career(エンジニアのキャリアには限界がある)。だからエンジニアの典型的なキャリア上のゴールは管理職なんだ。そこで初めてエンジニアは,けっして終わりのない“人の問題”を扱うようになる。これこそがキャリアだ。やっとエンジニアは救われる」。これがJoeの言い分だ。

 私は,「Joe,そうじゃない!」と叫びたくなるのだが,Joeの気持ちがよく分かるから反論できなかった。でも,Joe。管理職になるのが本当の幸せなの?

 日本の友人の中にも優秀なエンジニアがいる。彼らはもう管理職だ。総合電機メーカーに勤めていて,社長にも手が届きそうな人もいる。でも,時々管理職が嫌になるらしい。彼らはこうこぼす。「最近つまらないんだよ」。私はこう返す。「どうして? 当ててみようか。やっぱり,モノを作りたいんでしょ」。

 頑張れ,エンジニア!

出典:2003年10月号 154ページ
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