Sunという会社は、今何をしようとしているのでしょうか? 結論から言えば、競争力を取り戻すための戦略を実行中なのですが、そのメッセージはまだ分かりにくいと言わざるを得ません。このコラムでは、筆者なりに「Sunが何を考えているか」を書いてみようと思います。

 Sun Microsystemsという会社は、今何をしようとしているのでしょうか?

 Sunの打ち出す戦略は、メディアやアナリストにとって理解が難しいものになっているようです。業績が低迷しているにもかかわらず、他の会社と「違うこと」をしようとしているからです。

 最近発表された四半期の業績が予想を下回ったことから、メディアには、「どうしたSun」という趣旨の記事が多数出ています。

 例えば、最近インターネットで読んだ記事を挙げるだけでも、

ソフトにデルの“ハード価格破壊”を引用――来日するサンのマクニーリ会長の願い

窮地に立つSun――研究開発へのこだわりを維持できるか

切るか買収されるかだ――アナリストがSunに提言

Sunが生き残るために今すぐすべきこと

といった記事があります。

 すでにたくさんの記事が書かれているのですが、今回のコラムで筆者はあえて「Sunが何を考えているか」を書いてみようと思います。

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 結論から言えば、Sunは競争力を取り戻すための戦略を実行中なのですが、そのメッセージはまだ分かりにくいと言わざるを得ません。

 従来のSunの収益源は、同社のR&D(研究開発)の成果である優秀なサーバー・マシンでした。その優位性の核となっているのは、CPUチップのSPARC、OSのSolaris、それを取り巻くハーウエア技術とソフトウエア技術です。

 さて、汎用マイクロプロセッサを搭載したIAサーバー(Intel系チップ搭載サーバー)と、オープンソースのOSであるLinuxの実力が上がっていったことで、優秀なサーバー・ベンダーとしてのSunの優位性は相対的に失われていきます。つまり、製品価格は下がり、利益率は低下していきます。

 この傾向が続くなら、会社を小さくしていくしか手がありません。しかし、リストラを繰り返し、縮小均衡を図るような戦略を採用すれば、同社の活力は失われていくでしょう。特に、「R&Dを縮小せよ」というアナリストの言い分を素直に受け入れると、同社の価値は瞬時に失われてしまうでしょう。

 アナリストは「他の会社と同じ過ちをするな」と言っているのですが、Sunは「自分にしかできないことをする」と主張しています。Sunが自分の主張を通すには、何らかの技術的な優位性を打ち出す必要があります。

 では、Sunはどこで優位性を確保しようとしているのか。

 一つは半導体技術。一つはソフトウエア。もう一つはネットワークです。

 どれか一つが成功すれば、Sunは息を吹き返すでしょう。みな失敗すれば、抜本的なリストラが必要になるでしょう。Sunは他社と同じようなやり方ではなく――つまり経営的、財務的なテクニックでもなく、また「IAサーバーとLinux」でもなく――研究開発(R&D)という「賭け」によって業績を復活させようとしているのです。

 半導体技術では、1チップ上に複数のCPUを実装する技術をアピールしています(米サンが新プロセサ設計「Throughput Computing」を発表。「5年後にスループットを30倍に」 http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/ITPro/USNEWS/20030226/8/ )。半導体パッケージの中にハイエンドのコンピュータ・システムを実装する――このやり方がうまくいけば、「Intelにはできないこと」を実現できるかもしれません。Intelと違い、量産品を作らなくてもいいからです。

 ソフトウエアでは、SunにはJavaという重要な資産があります。ただし、Java技術を売って対価を取る戦略は、成功しない、ということが既に分かっています。Java技術は産業界の共有財産と見なされていますし、そこにJavaの価値があります。Java技術を独占すれば、Javaの価値は失われてしまいます。

 そこで出てきた戦略は、Javaブランドを「てこ」に、新しい市場を開拓するという案です。Javaの新たな普及策を打ち出し、Java市場を広げたうえで、その市場の一部をSunが取る、という作戦です。これについては、筆者はこの6月に記事を書いています。

 ITバブルの崩壊後、従来型のIT産業を相手にしているだけでは――つまりMicrosoftや、IBMや、HPと、縮小傾向にある市場の横取り合戦を繰り広げるだけでは――大きな成長は難しい、と見ているのでしょう。

 一方、ネットワーク分野での競争優位性をどこに求めるか。同社は、サーバーの集合体であるデータ・センターの付加価値を高めるための技術として、データ・センター全体を仮想化する「N1」を発表しています。

 このソフトウエア戦略とネットワーク戦略がうまく組み合わさると、サーバーがSPARC/Solarisであっても、IAサーバー/Linuxであっても、共通のソフトウエア環境とネットワーク管理環境を提供できるようになります。これは、SPARC/Solarisサーバーがどうなろうと――たとえ衰退したとしても、また努力のかいあって復活したとしても――有効な戦略です。実際、最近のSunは、「ソフト開発環境がJavaで、ネットワーク管理環境がN1である以上、IntelとLinuxでも良いのだ」とか、「DellよりSunの方が安い」といった発言をしています。

 以上見てきたように、苦しい台所事情の中でSunがやっていることは、半導体技術によるサーバーの競争力向上と、Java技術を軸としたソフトウエア/ネットワーク環境の改革を軸にした戦略です。

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 今のサーバー・ビジネスに対する多数派の考えは、IAサーバーやLinuxの台頭で、「コンピュータがコモディティになる」というものです。

 しかし、以上見てきたSunの戦略は、コモディティへ向かうコンピュータ産業の大勢とは別の方向を目指しているように見えます。同社のマクネリCEOは、よくコンピュータを発電所に例えています。発電所が供給する出力をコンセントから利用するように、データ・センターのコンピュータ資源を遠隔地から利用するような利用スタイルが定着すれば、コンピュータは「発電所の設備」と同じ位置づけになります。特殊で高額なコンピュータの需要が生まれるのです(もちろん、低価格のサーバーもSunは持っています。低価格な機種を多数入れるモデルと、ハイエンド機を少数入れるモデルのどちらが優れているか、という問題に、やがてユーザーは直面することになります)。

 新しいプロセッサ技術を取り入れた高性能サーバーを、データ・センター上に多数配置して、そのコンピュータ資源を従量課金(従業員1人あたり年間100ドル、といった)で利用する、といったモデルです。

 この考え方を実現するには、コモディティでは到達できない性能のサーバー機、なんらかの分散コンピューティング技術(それはWebサービスかもしれませんし、Sun Ray端末のようなやり方かもしれません)、分散環境の管理技術(つまりN1)などを組み合わせる必要があります。その上のアプリケーションは、おおむねJavaで作ることになります。特殊なコンピュータであっても、コモディティとしてのコンピュータであっても、ソフトウエア開発者が扱う対象は同じJava API群ということになります。

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 さて、Sunの戦略はどこまで成功するのか? 普通のやり方では、同社の未来は面白い方向には向かいません。では、普通ではない戦略を実行できるかどうか?

 多数派の意見は「大いに疑問だ」になると思いますが、筆者は「要注目である」という意見を持っています。直接の根拠は、この6月のJavaOneに参加して、同社のソフトウエア戦略を取り仕切る人物であるジョナサン・シュワルツ副社長の切れ者ぶりを目撃したことです。

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 余談めいた話になりますが、IBMの前CEOのガースナー氏が書いた「巨像も踊る」を筆者は連想しています。ガースナー氏が着任した頃、IBMの収益を支えていたメインフレームは危機に瀕していました。ガースナー氏は、メインフレーム事業を延命させつつ、新たな収益源を作ろうとしました。短期的にはメインフレームの値下げ。長期的にはメインフレームのCMOS化による価格対性能比の改善と、ソフトウエア戦略の整理統合、サービス事業の拡充、などの戦略です。

 SunとIBMはまったく似ていない会社ですが、戦略だけをとりだして見れば、収益を支えるサーバーの延命と、新たな収益源の開拓(つまりソフトウエア事業へのテコ入れ)という点で共通している、と言えなくもないかもしれません。

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 Sunの挑戦がどんな結果に結びつくのか。その結果は私にとっても他人事ではありません。Sunの去就はJava技術の将来を左右するかもしれないからです。

星 暁雄=日経BP Javaプロジェクト

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