日本医師会は,診療報酬明細計算システムORCA(仮称,Online Receipt Computer Advantage)を開発した。2001年の7月に試験運用を開始し,2002年3月に本運用に移る予定である。日本医師会はORCAをオープン・ソース・ソフトウエアとして配布する。そのため,会員の医師がORCAを自由に使用できるだけでなく,システム・インテグレータがORCAを商品として販売することや,改良することも可能だ。日本医師会の常任理事 西島英利氏と日医総研 主任研究員 上野智明氏にその狙いを聞いた。(聞き手は高橋 信頼=日経オープンシステム)

---なぜ,医師の団体である医師会がコンピュータ・システムを開発したのか

日本医師会
常任理事
西島英利氏
西島氏:一つには,現在メーカーが販売している専用のレセプト・コンピュータが高価だということがある。現在,専用のレセプト・コンピュータは400万~500万円。2年に1度の診療報酬の際に,新しいソフトウエアを買わされる。さらには「この古い機種は今度の診療報酬改定ではサポートしません。買い換えてください」となる。

 また,医療機関からの要望が,なかなかシステムに反映されない。例えば,事務処理には県や診療科によって違いがあるが,メーカーは対応してくれない。

 このような状況は,レセプト・コンピュータ市場の70~80%がメーカー3社で占められるという寡占状態になっていることが,要因の一つとなっていると考えられる。

 ORCAのソフトウエアは,オープン・ソース・ソフトウエアとして配布する。診療報酬などのマスター・データも含まれている。

 価格は大幅に下がると予想している。ORCAはソフトウエアが無償であり,一般のパソコン上で動作するので,50万円から150万円程度でシステムを構築できると考えている。

 寡占状態もなくなるだろう。オープン・ソースにすることで,これまで,参入してこれなかった,地域のソフトハウスや,ベンチャ企業もレセプト・コンピュータに参入できるようになる。システム関連の部分はC言語だが,レセプト処理部分は従来からレセプト・コンピュータの開発によく使われてきたCOBOLで書かれている。レセプト・コンピュータを扱ってきたソフトハウスが参加しやすい。インテグレータ,ソフトハウスがこのソフトウエアを売ってもいい。より使い勝手がよくなるように改良してもいい。そのかわり,改良した内容は公開する必要がある。

---Linuxを採用した理由は。

日医総研
主任研究員
上野智明氏
上野氏: ORCAは,サーバー・マシンとクライアント・マシンで構成する。現在は,サーバー,クライアントともLinux。本運用が始まる2002年には,クライアントはWindows版とMacintosh版も用意する。OSが何かは,ユーザーから見れば本来関係ないこと。Linuxは,Windowsより安定しており,セキュリティも高い。それが選択の理由だ。

 また,日本医師会でセンター・システムを運用する。最新の診療報酬データをダウンロードできたり,ネットワークを介して医療機関のデータのバックアップを取れるようにする。このセンター・サーバーも多分Linuxになる。

--普及の見通しは。

西島氏: ORCAを採用するかどうかは,各医療機関に任されている。一切強制はしない。医療機関は全国に約10万カ所あるが,どれだけの医療機関が採用するかどうか予測できない。

 ただ,各医療機関の期待感はものすごく大きい。ORCAの説明に各地を回っているが,説明会はほとんど満員だ。これまでも他のテーマで講演してきたが,こんなことはいまだかつてなかった(笑)。裏返せば,それだけ今の専用レセプト・コンピュータに対する不満が大きかったと言えるだろう。

 オープン・ソースでやっているから,あきらめない限り成功するだろうと思っている。導入側にとってのコストは極小だから,あとは,会員からのニーズを取り入れてよいものにしていけば,採用しない理由はなくなる。幸いにして改善の要望には事欠かない。医師会という,会員が主体の団体だから,遠慮のないさまざまな意見が上がってくる。

 そもそも,レセプト・コンピュータの開発が最終目的ではない。医療のIT化を進めるというテーマの中で,第一段階として出てきた。ネットワーク化が必要だ,そのためには端末がいる,医療機関で最も使われているのはレセプト・コンピュータだ,ではレセプト・コンピュータからスタートしよう,となったわけだ。