写真1 YOZANが利用する無線
LAN基地局(奥)とWiMAX端末

 2月のYOZANを皮切りに,6月のライブドア,7月の平成電電が出資するジャパンワイヤレスと,面展開した公衆無線LANサービスの提供計画の発表が相次いでいる。3社に共通するのは将来,「WiMAX」の採用を視野に入れていること。YOZANとジャパンワイヤレスは,WiMAXと無線LANを組み合わせたサービスにすると明言。ライブドアは現時点では未定としながら,WiMAXの採用をにおわせている。

 WiMAXとは,数k~数十km程度のエリアをカバーし,20MHz幅を占有した場合は最大75Mビット/秒で通信可能な次世代無線通信システム。FWA(固定無線アクセス)用途とモバイル用途の2種類の規格があるが,現時点で実用化しているのはFWA用途の「IEEE 802.16-2004」である。当面はこのFWA型WiMAXが,無線LANの面展開をサポートする役割を担いそうだ。

無線LANとWiMAXの組み合わせから

 具体的には,公衆無線LANサービスのバックボーンに,FWA型WiMAXを利用する形態が考えられる。例えばYOZANは「ビルの屋上にはWiMAX基地局を,電柱にはWiMAXの電波を受信できる無線LAN基地局を設置して,年内にサービスを始める」(高取直・代表取締役社長)としている(写真1)。

 一般に無線LANアクセス・サービスを展開するには,基地局まで1本ずつ光ファイバなど高速回線を引き込む必要がある。ある公衆無線LAN事業者は「有線の高速回線のコストが公衆無線LAN事業のネック。1基地局当たりの見込み利用数が相当ないと,基地局の設置には踏み切りにくい」と漏らす。これが,公衆無線LANサービスのエリア展開が進まなかった原因の一つになっていた。WiMAXをバックボーンにすれば,無線LAN基地局までを無線化でき,有線回線はWiMAX基地局までだけで済む。

 光ファイバの配線が難しい場所は,都市部でも少なくない。こうした場所に光ファイバを引き込むと,多額の工事費がかかってしまう。バックボーンを無線化すれば,無線LAN基地局を迅速かつ安価に設置できる。

“モバイル版WiMAX”による無線ブロードバンドの面展開も

 さらにWiMAXには,モバイル用途で携帯電話やPHSのデータ通信に近い感覚で使える「IEEE 802.16e」がある。FWA版とは異なり標準化が済んでおらず,完了は今年10月の予定だ。このモバイル版WiMAXを携帯電話基地局のように設置して,無線LANを使わずに無線ブロードバンド・サービスの面展開を実現しようとする通信事業者も現れている。

 例えば関西電力は,無線LANの面展開は基地局の設計が難しいため事業化が困難と判断。無線LAN技術を使わないモバイル版WiMAXによるサービスの検討を開始している。FWA版WiMAXによるサービスを提供予定のYOZANも,モバイル版WiMAXの標準化が済んで機器の準備が整い次第,インフラをモバイル版WiMAXへ更改。WiMAXネットワーク上でPHSデータ通信の高速化版のように使えるサービスを計画している。


写真2 KDDIの渡辺文夫部長

 大手通信事業者も続々とモバイル版WiMAXの検討を表明している。NTTの和田紀夫社長は7月12日,定例会見でWiMAXを検討していることを表明。KDDIは6月に「IEEE 802.16eの伝搬実験に成功」と発表済みだ。実験を担当するKDDIの渡辺文夫au技術本部ワイヤレスブロードバンド開発部長は,「1年前から実験の準備を進めていた」と長期計画の一環であることを明らかにした(写真2)。

 ただし標準化が済んでいないモバイル版WiMAXは,実際の機器の通信速度や消費電力はほとんど見えていない。いつごろ商用サービスが可能になるのか,そもそも国内で使いやすい規格になるのか未知数と言わざるを得ない。

WiMAX最大の課題は国内の周波数分配

 WiMAXサービス実現に向けたもう一つの課題は,国内の周波数分配だ。WiMAXフォーラムは2.5GHz帯,3.5GHz帯,5.8GHz帯を標準周波数としているが,この中には国内ですぐにWiMAXで利用可能な周波数帯がない。現時点で唯一WiMAXサービスに使えそうなのは,国際標準ではない4.9G~5.0GHzのいわゆる4.9GHz帯と,5.03G~5.091GHzだけだ。

 しかしこの周波数帯は利用条件がくせ者だ。無線LAN(IEEE 802.11j)などと共有するため,複数の機器が同時に通信しても干渉しない仕組みを実装するよう省令で決められている。4.9GHz帯でのWiMAXサービスを予定するYOZANは,「現行の仕組みでは,通信状態の確認動作が頻繁すぎ。そのためスループットが安定しない恐れがある」(小坂井正哉執行役員通信事業本部事業推進部長)と懸念を示す。「通信速度を維持できる施策を総務省に希望したい」(同)と設備規則の見直しなどを求める予定だ。

 しかも4.9GHz帯はFWA用途での利用がメインで,モバイル用途での利用は難しい。ビル陰や屋内などにいるユーザーが通信するには,壁などの障害物を回り込みやすい電波である必要があるからだ。そのため実用化には,2.5GHz帯や3.5GHz帯といった低い周波数帯の電波の分配が求められる。WiMAXの業界団体が現在,ITU-R(国際電気通信連合無線通信部門)に対して2.5GHz帯や3.5GHz帯をWiMAXへ割り当て可能にするよう要請しているのもこうした事情からだ。

 国内で今後利用できる可能性が最も高そうなのが,第3世代携帯電話のプランバンド(今後割り当て予定の周波数)となっている2.5GHz帯。現在は利用者がいないため,ITU-Rにおける議論の結果次第では早期に利用できる可能性がある。

 しかし,周波数の分配が決まってもすぐに利用できるとは限らない。WiMAXサービスの提供を希望する事業者間で,周波数割り当てを巡る争いが勃発するのは必至。総務省の舵取りが,WiMAXサービスの早期実現の可否を握っている。

(白井 良=日経コミュニケーション

【「面展開」した公衆無線LANの真価を問う】の特集ページはこちらをご覧下さい。