UWB技術を使った国際標準の一つが,日本のグループを中心にしてまとまりつつある。このグループをけん引する人物が,横浜国立大学の河野隆二教授。同氏は情報通信研究機構(NICT)の「UWB結集型特別グループ」でリーダーも務める。産学連携の取り組みを通じて,日本のUWB技術を世界の表舞台に引き上げた同氏に,標準化の経緯や日本の産業界に対する意見を聞いた。(聞き手は加藤 慶信=日経コミュニケーション

――今回,日本が中心となってまとまりつつあるUWB関連の国際標準とは何か。

 低速版の無線PAN(personal area network)「IEEE 802.15.4a」のことだ。特徴は,無線部分にUWB(ultra wideband)技術を使うこと。UWBは,3.1G~10.6GHzの周波数帯を広く,浅く使う。既存の無線技術とも共存可能だし,微弱な電力で通信できる。IEEE 802.15.4aは,温度測定やセキュリティ感知などのセンサーをつないだり,無線ICタグ(RFID)に搭載する用途を想定している。このため,通信速度は最大1Mビット/秒に抑えている。

 こうしたセンサーは将来,100億規模で普及するともいわれている。我々の身の回りにも複数のセンサーが存在するようになるだろう。そうした状況になればセンサー同士の干渉が避けられない。IEEE 802.15.4aでは,お互いの場所を検知して干渉しない仕組みも取り決めている。

――標準化までの経緯を教えて欲しい。

 日本のグループが提案した仕様は二つあった。一つは,私がリーダーを務めるNICT(情報通信研究機構),沖電気工業,富士通でまとめた仕様。もう一つは,日立製作所とYRPユビキタス・ネットワーキング研究所がまとめた仕様だ。まずは,よく似た二つの仕様を,2005年1月の会合前に統合した。

 さらに3月の会合を前に,米モトローラや米フリースケール,米テネシー大学が提案した仕様とも統合した。このため3月の会合では,日米共同の仕様として提案した。この時点で,有力な候補は4グループに分かれていた。欧州勢,韓国勢,ドイツと韓国の共同チーム,そして我々の日米の共同チームだ。

 最大の勢力は欧州勢だった。しかし,欧州勢と我々の仕様は技術的に近い内容だった。そこで3月の会合が始まる前日の夜,私が欧州勢のリーダーに統合を持ちかけ,承諾を得た。会合の当日,最大勢力の統合を知った残りのグループが,我々との統合を打診してきた。こうして4グループに分かれていた提案が,最終的に1本化された。

――実際には,どういった形で1本化を図ったのか。

 本来は多数決で候補を絞り込んでいく。選ばれなかった候補が,残った候補に取り込まれることはない。今回は事前に話し合うことで,お互いの仕様が生き残れるように統合を進めた。具体的には,取り込んだ各候補の仕様を「OR」でつなぐ方法だ。細かい部分は,5月以降,1カ月おきに開催される会合の中で詰めていく。

 誤解しないでほしいが,我々は,後でもめごとになるような仕様を取り込んだわけではない。例えば,送信側の変調方式はAとBの2方式,受信側の変調方式はC,D,Eの3方式から選べるとする。選択する組み合わせによっては通信性能が低下することが分かっている。しかし,相互接続性はどの組み合わせであっても必ず確保できるようにする。

 こうした方法を採れたのも,技術的に近い内容だったことが幸いした。UWB技術を使った無線PANには,もう一つ,高速版の「IEEE 802.15.3a」がある。こちらは最大480Mビット/秒で通信できる。現在は二つの候補がこう着しており,仕様策定に2年以上の遅れが出ている。

――通信規格を定める国際標準の舞台で,日本が主導権を握るのは困難か。

 無線技術をはじめ,日本の産業技術は世界のトップ・クラスにある。ところが,ちゃんと特許を持っていても国際標準にまで持っていけない。結果として,日本企業は高いロイヤリティを払わされ続けている。

 とはいえ,今の日本の企業では,この状況を変えられない。なぜなら,今の日本企業には国際標準の会議に担当者を派遣するだけの資金的な余裕がない。IEEE(米国電気電子技術者協会)は,最終的に多数決で決まる。だから,より多く人材を派遣できた方が有利に働く。

 また,今の日本企業は,たとえ派遣しても勝ち馬に乗ることを目的にしている。やはり資金の問題からリスクを覚悟した投資が困難だからだ。こう着状態にある高速版の無線PANでも,日本のあるメーカーはMBOA方式とDS方式の両方に担当者を派遣している。

 じゃあ誰がやるんだと言えば,私のような大学教授ならできる。その過程では国民が支払った税金の一部を使うことになる。しかし標準仕様に採用されれば,企業はロイヤリティ収入が得られる。今回の低速版の無線PANは,NICTが引っ張って標準化させた成功例の一つだ。

出典:横浜国立大学
河野教授
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