世界有数の携帯電話機メーカーである英ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ(ソニーエリクソン)。ヨーロッパでは2004年後半に多数の携帯電話事業者が第3世代携帯電話(3G)サービスを始める見通しで,同社も既に試作機を多くの事業者に納めている。商品マーケティング部長のウォーカー氏にロンドンの本社で,3Gならではの魅力や市場動向について聞いた。(聞き手は杉山 泰一=日経コミュニケーション)

--ヨーロッパではどの携帯電話事業者も,NTTドコモと同じW-CDMA(欧州では「UMTS」と呼ぶ)方式で3Gサービスを始める見込みだ。ソニーエリクソンはいつからW-CDMA方式の3G携帯電話機を発売するのか。

 2004年初めに,「Z1010」という製品を発売する。実はこの製品の試作機は,2003年の初めから順次,多くの携帯電話事業者に納入。テストを繰り返してきた。各社から好意的な評価を受けている。
 バッテリーの持ち時間が若干短いという点に関しては,現在の平均的な消費者のニーズを満たせるかどうか発売してみないと分からない。しかし,従来の携帯電話機にはない特徴を持っている。連続利用時間だけで低く評価されることはないだろう。
 特に,Z1010で採用したW-CDMA方式は次の二つの機能が魅力的だ。一つは,ビデオのようなデータ量の大きい情報を素早くダウンロードできること。もう一つは,データ通信をしながら,同時に通話もできる「マルチアクセス」という機能である。
 マルチアクセス機能はものすごくエキサイティングだ。例えば携帯電話で話をしている最中に,電話機の画面上に何かの映像を流せる。これで話に花が咲くかもしれない。
 さらに,こうした使い方には短距離無線通信技術「Bluetooth」を使ったヘッドセットが,完璧にマッチする。Z1010はBluetoothヘッドセットに対応しており,通話をしながら画面を見ていろいろなコンテンツを利用することができる。

--「W-CDMA」という新技術の素晴らしさをアピールするだけで,消費者は従来の携帯電話サービスをやめて,3Gサービスに飛びつくものか。

 いや,そんなことはない。消費者にとって,3GやUMTS(W-CDMA)という言葉は何の意味も持たない。3G技術そのものは,今あるサービスをより使いやすくする方向で,使われるべきだと思う。
 消費者が新サービスを選ぶときに重視するのは,何ができるかということと,サービス自体のブランド力だ。だから携帯電話事業者は,消費者が混乱しないようにできることを徐々に増やしていき,ブランド力を高めていく必要がある。
 その典型的なサービスの一例が,英ボーダフォンとグループ会社十数社が提供しているブラウザフォン・サービス「Vodafone Live!」だ。ボーダフォン・グループはもともと強いブランド力を持っている。その上,Vodafone Live!に関する大量の広告キャンペーンをヨーロッパ中で展開している。また,彼らが提供するどの携帯電話機でもVodafone Live!を利用できる。
 Vodafone Live!は今のところ,3G携帯電話向けではなく従来方式の携帯電話向けのサービスである。しかし,徐々に機能強化が進み,同時に3Gでも使えるようになるのだろう。
 Vodafone Live!と比べると,NTTドコモと提携したヨーロッパの携帯電話事業者が提供中のiモードは,利用者数の拡大という点では少し不利だ。ドコモの提携先は,大半が各国のナンバーワン会社ではない。しかも,会社ごとに異なる広告宣伝活動をしている。携帯電話機に搭載するWebブラウザも,ヨーロッパでいま主流となっているものとは異なる仕様になっている。つまり,利用できる電話機のラインナップが限られてしまう。
(注:欧州版iモードの利用者数は,2002年3月のサービス開始から1年半で100万。Vodafone Live!は2002年10月開始から1年で300万である)

--日本とは違って,ヨーロッパの携帯電話事業者は,メーカーの製品開発計画にほとんど口出ししてないように見える。このことが,携帯電話の新しいサービスの普及を阻害することになってはいないか。

 一概にそうだとは言えないだろう。
 たしかに日本では,携帯電話事業者の発言力がかなり強い。でも,日本は市場が大きいからそれでいい。携帯電話事業者ごとの仕様に合わせた携帯電話機を作っていても,メーカーはビジネスになる。
 しかし,ヨーロッパは国ごとの市場は小さい。しかも,NTTドコモのように市場シェアが6割近くもあるような強大な携帯電話事業者はほとんどいない。大半の国では,ナンバーワン会社であってもシェアは3割くらいしかない。だから,メーカーが独自に開発した製品を,複数の携帯電話事業者が調達する構造になっている。
 現在,メーカーの中でも特にフィンランドのノキアの影響力が非常に強い(注:ノキアの市場シェアは4割近くある)。もっとも,そうは言っても最終的にサービスを提供するのは携帯電話事業者なので,特定メーカーが市場の方向性を決めてしまうことはないだろう。
 ヨーロッパの携帯電話事業者は,携帯電話機のラインナップで他社との差異化を図るのは難しい。だからこそ,ブランド力向上が欠かせないともいえる。ヨーロッパにはいま,英ボーダフォン,仏オレンジ,独Tモバイルの3強がある。3社ともヨーロッパ各国にグループ会社を作り,ブランド力とサービスを強化する戦略を取っている。
 こうしたグループ戦略は,利用者にとって大きなプラス。使い勝手を損なうことなく,携帯電話のいろんなサービスをどこに行っても使えるようになるからだ。また,メーカーにとってもよい。一度にたくさんの製品を納入できるようになるからだ。

出典:英ソニーエリクソン
ウォーカー部長
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