この世の中に、IT関連のコストほど、価格体系が不明確なものはない。価格が明らかになっているのは、比較的安価なハード/ソフトだけ。企業にとって最大の関心事であるシステム構築/保守サービスや大型ハード/ソフトの価格/料金は、「個別見積もり」と「値引き」のベールに包まれ、闇の中だ。
あきらめていては駄目だ。ITコストにかかわる謎を一つひとつ解き明かさない限り、これ以上のコスト削減やROI(投資対効果)向上は難しい。
ユーザー企業60社以上と、主要ベンダーへの徹底取材をもとに、ITコストの実態を白日の下にさらす。

(戸田 尚樹、栗原 雅)

読者限定 【本特集の“予習”】を読む

 Part 1:見積もり編 カラクリを理解して適切な提案を引き出す
        Q1.システム構築費の内訳は?
        Q2.システム開発費はどう決まる?
        Q3.工数はどうやって見積もる?
        Q4.やっぱり最後は「人月」なのか?  ほか
 Part 2:人件費編 技術者料金はピンキリ、相場を知って賢く使う
        Q25.ITエンジニアの相場はいくら?
        Q26.コンサルタントはなぜ高い?
        Q27.エンジニアの単価はどう決まる?
        Q28.プログラム言語で単価は変わる?  ほか
 Part 3:交渉・契約編 落とし穴を察知し、予算オーバーを防ぐ
        Q34.値引きはどこまで可能なのか?
        Q35.「2:4:2:3の法則」はIT業界の常識?
        Q36.予算はどの程度余裕をみる?
        Q37.初めて付き合うベンダーは安い?  ほか
 Part 4:ハードウエア編 原価と値引きの実態を今後の調達に生かす
        Q46.6万7000円サーバーの原価はいくら?
        Q47.デルのサーバーは日米どっちが安い?
        Q48.デルも値引きをしてくれる?
        Q49.パソコン価格はまだ下がる?  ほか
 Part 5:ソフトウエア編 体系の勘どころを押さえ、適材適所で活用する
        Q66.「R/3」はなぜ高い?
        Q67.ERPパッケージはいくらする?
        Q68.ERPパッケージのバージョンアップ費は?
        Q69.「国産パッケージ」は本当に安い?  ほか
 Part 6:サービス編 内容と料金を照らし合わせ、必要なものを取捨選択
        Q82.保守料でベンダーは儲けている?
        Q83.ハードの保守料はいくらぐらい?
        Q84.ソフトの保守料には何が含まれる?
        Q85.1年目も保守料が必要なのはなぜ?  ほか


【無料】サンプル版を差し上げます本記事は日経コンピュータ2003年6月16日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。本「特集」の全文をお読みいただける【無料】サンプル版を差し上げます。お申込みはこちらでお受けしています。なお本号のご購入はバックナンバー、または日経コンピュータの定期ご購読をご利用ください。

Part 1:見積もり編
カラクリを理解して 適切な提案を引き出す

システム構築で避けて通れない最初の難関――。それが見積もり作業だ。ベンダーが出してくる見積書には謎が一杯。同じ案件に対して、異なるベンダーから金額のケタが違う見積書が出ることも珍しくない。果たして、ベンダーはどのような根拠に基づいて見積もりを出しているのか。

Part 1では、システム構築の「見積もり」に関する24の謎を解明する。構築費の内訳や開発費の算定基準がわかれば、見積書の見方が変わってくる。より少ないコストで優れた提案を引き出す道も開ける。

 Q1.システム構築費の内訳は?

 システムの構築費は、三つの項目に大別できる。(1)完成したシステムを動かすハードウエアの費用、(2)同じくシステムの動作に必要なソフトウエアのライセンス費、そして(3)システム(アプリケーション)の開発費――である。

図●システム構築費の内訳

 20年ほど前のメインフレーム全盛期、ハード費、ソフト費、システム開発費の比率は、「3:1:6(1.5:0.5:3)」というのが相場だった。オープン・システムが主流になった今では、これが「1:1:3」に変化している。ハード費が占める割合が低下した分、ソフト費が増えた。

 ハード費の比率が下がったのは、価格破壊が急激に進んだからだ。これに対して、ソフトの価格(ライセンス料/月額使用量と保守費用)は、ここ20年でそれほど大きく変わっていない。逆にオープンの時代になって一つのシステムに使うミドルウエアやツールの数は増えた。このことがシステム構築費全体に占めるソフト費の比率を高めている。「オープン系ソフトのベンダーは儲け過ぎ」との不満がユーザー企業から絶えないのは、このためだ。

 システム開発費が全体に占める割合は、昔も今も全体の6割程度と変わっていない。この背景には、「日本企業は、パッケージよりも独自開発のアプリケーションを好む」という事情がある。米国では、ハード費、ソフト費、システム開発費の比率は「1:2:2」が相場とされている。

 もちろん日本企業もERPパッケージ(統合業務パッケージ)などを使えば、開発費の比率は下がる。そのためには「過度のカスタマイズは禁物」であるのは言うまでもない。

 Q2.システム開発費はどう決まる?

 ほとんどのユーザー企業はシステム(アプリケーション)の開発を、外部のシステム・インテグレータやソフト・ベンダーに依頼している。この開発費ほど、ユーザー企業にとって謎が多いものはない。実態を明らかにしよう。

「単価×工数」と言うものの…

 今回、本誌はユーザー企業から数十の見積書を独自に入手した。そのほとんどで、システム開発費は「直接費」と「間接費」の二つの項目に分類できる。

 ここで言う直接費とは、見積書では「エンジニアの単価×工数」で内訳が記載されている部分。要は、システムの開発にかかる人件費である。

 もう一つの間接費とは、システムを開発する上で必要な経費のこと。開発拠点として借りたオフィスの賃借料や開発用マシンのレンタル料、エンジニアの交通費などが、ここに含まれる。直接費と間接費の比率は「8:2」程度が多いが、なかには「6:4」というケースもあった。

 間接費は実費精算が原則なので、そこでベンダーが儲ける余地はない。ベンダーは直接費から利益をねん出することになる。

 当たり前の話だが、ベンダーが顧客に提示している「エンジニアの単価」はベンダーの“販売価格”。(1)原価、すなわちベンダーがそのエンジニアに支払う人件費(労務費)や販売管理費(販管費)の案件ごとの配分に、(2)ベンダーがその案件で得る利益を上乗せしたものになる。

 直接費の構造を考えるときに、もう一つ忘れてはならないのは、(3)リスク費である。リスク費とはプロジェクトで問題が発生した場合に備えた、一種の予備費のことだ。例えば、新技術を積極的に採用するプロジェクトは、リスク費を多めに確保する。ほとんどのベンダーは、工数を“調整”することで、リスク費をねん出する。エンジニアの単価を引き上げると、すぐにユーザー企業にわかってしまうからだ(詳しくは「Q16:『リスク費一律20%』は本当か?」を参照)。

図●システム開発費の内訳

1億円案件の原価は5200万円

 こうして見ていくと、「エンジニアの単価×工数」と、いかにも実費のような形式で示される直接費は、(1)労務費や販管費などの原価、(2)利益、(3)リスク費の三つに分解できることがわかる。

 それでは直接費のうち、本当の原価である(1)労務費や販管費はどのぐらいなのか。ベンダーは利益やリスク費をどの程度みているのか。

 この点に関して、システム開発契約の実情に詳しい、札幌スパークル システム コーディネーターの桑原里恵氏は、「案件によって大きく異なる」と前置きした上で、「『原価4割、利益も同じく4割、残る2割がリスク費(4:4:2)』というのが一つの目安」と説明する。これは本誌が取材したユーザーの担当者の感覚ともほぼ一致する。

 ここまでの話を、総額1億円の開発案件を例に整理してみよう。1億円のうち、直接費は8000万円。実際の見積書には、「単価100万円×80人月」などと記される。残りの2000万円は間接費である。

 直接費8000万円から、ベンダーは3200万円の利益を確保する。さらに1600万円は、リスク費として万が一の場合の保険とする。エンジニアの人件費と販管費は3200万円という計算だ。これに間接費2000万円を加えた5200万円が、システム開発の純粋な“原価”と言えるだろう。


続きは日経コンピュータ2003年6月16日号をお読み下さい。この号のご購入はバックナンバー、または日経コンピュータの定期ご購読をご利用ください。


出典:2003年6月16日号
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。