先行きの見えない現在、ムダなシステム投資をする余裕はない。機器本体の価格だけでなく、その保守料金も値切る。いったん買った機器は故障するまでとことん使う。サポート切れになっても使い続ける。新規開発はなるべく安く上げる――。これまでの発想を転換し、「ITコストで削れる部分は徹底して削る」という姿勢が今こそ企業に求められている。アートコーポレーション、青梅信用金庫など主要企業の取り組みから、ITコスト節約の秘訣を探る。

(坂口 裕一)

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“先進”節約企業アートコーポレーションの実態
運用コスト従来システムを使い続ける
ハード管理コスト使い回す仕組みをつくる
通信コスト新サービスをいち早く採用


【無料】サンプル版を差し上げます本記事は日経コンピュータ2003年5月5日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。本「特集」の全文をお読みいただける【無料】サンプル版を差し上げます。お申込みはこちらでお受けしています。なお本号のご購入はバックナンバー、または日経コンピュータの定期ご購読をご利用ください。

 もったいないな―。『アート引越センター』の名称で知られるアートコーポレーションの広瀬雄司管理部情報システム課長は、こうつぶやいた。1996年のことだ。

 アートコーポレーションは当時、基幹系システム用に日本IBMのAS/400(現在のiSeriesに相当)を2台利用していた。1台を本番機、もう1台をバックアップ機とし、本番機に障害が発生したら即座に業務に必要なデータをバックアップ機から参照できる体制をとっていた。

 「もったいない」という広瀬課長の言葉は、このバックアップ機に対して出たものだ。“出番”がまったくなかったからである。「90年にAS/400を導入してから6年以上が経過し、システムのバグはほぼ洗い出されていた。システムがダウンすることは皆無に近かった」(広瀬課長)。

 そこでアートコーポレーションは、バックアップ機の撤去を決めた。AS/400のリプレース時期である2000年に、同社は2台とも新マシンに替えた。1台は従来通り基幹系システムの本番機。もう1台はバックアップ機ではなく、日本IBMのグループウエア「Notes/ Domino 6」の専用機とした。基幹系システムのバックアップは、テープによるバックアップだけに切り替えた。

 企業にとって生命線といえる基幹系システムのバックアップ機をなくすというのは、思い切った決断である。だが広瀬課長は、納得ずくの判断であることを強調する。「AS/400の信頼性が高いのだから、このバックアップ体制で十分。会社としてリスクがあることも承知しているし、経営層にも了解をもらっている」(広瀬課長)。

 AS/400を2台使うのだから、運用コストはこれまでとほとんど変わらない。だが、バックアップ機をなくす代わりに新たなホスト機を増やしたことになり、実質的に大幅なコスト削減となる。同社はテープを遠隔の拠点に運ぶバックアップ方式も検討したが、結局見送った。「月額500万円のコスト増になる。利益を圧迫してまで行うことだろうかと考えた結果だ」と広瀬課長は説明する。

 「多額のシステム運用費が経営を圧迫している」、「景気低迷の折り、ムダなITコストをかけられない」…。ユーザー企業はいま、お題目のように「ITコスト削減」を標榜している。だが、各社が本気でコスト削減に知恵を絞っているかというと、はなはだ疑問が残る。

 自社のシステム運用体制をもう一度見直してみよう。コストを節約できる余地は、本当に残っていないだろうか。十分使えるシステムをすぐに替えてしまうといった“ムダ”が、実は結構残っているではないか。

 アートコーポレーションは、ITコスト節約のために思い切った行動をいとわない“先進”節約企業だ。決して、同社の業績が低迷しているわけではない。2002年9月期の売上高は380億円。厳しい競争のなか、引っ越し事業は年率5%以上伸びている。それでも同社は「ムダなコストを可能な限り排除する」という姿勢を崩さない。

 先進節約企業は同社のほかにもある。いまこそ、これらの企業にITコスト削減の秘訣を学ぶべきだ。

“先進”節約企業
アートコーポレーションの実態

 引っ越しシーズンのピークを迎えた4月1日。アートコーポレーションの千葉支店では多くの社員が仕事に追われていた。

 騒然とするオフィス。その一角で、ある社員が少し暗いディスプレイに向かって、黙々と伝票のデータを入力している。省スペース型パソコンのように見えるが、いかにも古そうだ。よく見るとキーボードの配列がパソコン用のものとは少し違う。マウスやCD-ROMドライブも見当たらない。

 実はこの機械、パソコンではなく日本IBMのホスト用端末「3477」である。ホスト用端末は画面の表示とキーボードからの入力操作しかできない。ハードディスクやアプリケーションは搭載しておらず、計算処理はネットワークで接続したホスト側で行う。

 パソコンが普及する1990年前半まで、多くの企業がホスト用端末を利用していた。だが、現在でも利用している企業は珍しい。アートコーポレーションは端末を90年に導入して以来、14年目を迎える現在でも全国の拠点で合計50~60台を利用している。

 端末はLANを介して、別室にある日本IBMの通信制御装置「5494」に接続されている。これも90年から使い続けている“年代モノ”だ。通信プロトコルはIBM独自の「SNA」。多くの企業がプロトコルをIPに統一しているなか、SNAを現在でも使っている企業は極めて稀である。

壊れるまで使い続ける

 アートコーポレーションは冒頭でも紹介したように、機器の購入からシステムの開発、運用までITコストの節約を見事なまでに徹底している。「2001年5月には端末と通信制御装置の保守契約を打ち切った。これによって月間40万~50万円のコストを削減できた。浮いたコストでパソコンをリースすると180台は導入できる」と広瀬課長は説明する。

 アートコーポレーションが進めているITコスト節約の方針は、大きく3点に集約できる(図1[拡大表示])。第1に、IT投資の大枠として投資額を「売り上げの1%以下」と決めている。昨年の売上高(2002年9月期)は380億円なので、1%は3億8000万円となる。

図1●アートコーポレーションのITコスト節約方針

 実際には、同社のシステム・コストは人件費や通信費などをすべて含めても年間2億円強。大手製造業では「情報化投資額は売上高の1%が目安」と言われている。業種が違うことを差し引いても、同社の“節約ぶり”は理解できるはずだ。

 第2に、すでに導入したパソコンやホスト用端末、通信機器は徹底して長く使う。企業のパソコンは通常、3~4年のリース契約を結び、リースが切れたときに新機種と入れ替える。これに対してアートコーポレーションは、「パソコンを本格的に導入し始めたのは1997年1月からだが、まる6年たった当時のパソコンがまだ現役。再リースして壊れるまで使い続ける」(広瀬課長)。再リース契約では、一般的に年間リース料が12分の1となり、コスト・メリットが飛躍的に向上する。

 こうしたことができるのは、アートコーポレーションが旧型パソコンを使い回す仕組みを確立しているからである。ホスト(AS/400)を中心としたシステム構成をとることで、ホスト用端末や旧型パソコンを利用し続けられるようにした。後述するように、ネットワーク機器も旧型と新型を併用できるよう配慮している。

 第3に、最新技術に関する情報収集を欠かさない。「コストを継続して圧縮するには、情報を絶えず収集して、どの技術や製品が使えるか、いつ導入すればよいかなどを検討することが必要だ」と広瀬課長は強調する。

 アートコーポレーションは5年前から、2カ月に1度の割合で10社のベンダーと懇親会を開き、最新の情報を交換したり、提案を受けている。昨年は懇親会の結果を基に、ホストの遠隔バックアップやIP-VPNの導入、Webブラウザからホストにアクセスする仕組みなどを検討した。

節約のリスクを回避

図2●アートコーポレーションは、拠点に旧型パソコンと新型パソコンの両方を導入して、使い分ける。ホスト用端末も故障するまで利用する。故障した際はエミュレータ・ソフトを搭載した旧型パソコンで置き換える

 もちろん、単純に機器を長く利用すればシステム・コストが下がるわけではない。長く使うにつれて故障する割合は高くなる。旧型製品では、ベンダーからの迅速な修理やサポートが受けられない可能性もある。アートコーポレーションはコスト節約を実践するにあたり、こうした制約やリスクを認識したうえで事前に対策を講じた。

 「ホスト用端末はなかなか壊れない。だが多くの場合、長く使うとディスプレイの表示が薄くなってくる」(広瀬課長)。例えば、こうした場合にどうすべきか。アートコーポレーションは端末を修理せずに廃棄し、エミュレータ・ソフトを搭載したパソコンで置き換えることにしている(図2[拡大表示])。

 その際に使うのは、旧型パソコンと決めている。旧型パソコンや故障したパソコンをいったん本社に集め、OSの再インストールやメモリーの増設、エミュレータ・ソフトのインストールを行い、再びホスト用端末として使い回す。現在なら動作周波数133MHzまたは166MHzのPentiumプロセサを搭載して、主記憶が32MBの機種を使うことが多い。「エミュレータを動作させるだけなら旧型パソコンで問題はない。当社の社員は梱包や設置に慣れているので、入れ替え作業はスムーズに進む。支店とのやり取りには自社の運送便を効率的に使っている」(広瀬課長)。


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出典:2003年5月5日号
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