「全世界のインターネット・ユーザーは、誰もが特別な作業なしで多言語ドメイン名のサイトにアクセスできるようになった。米ベリサインが独自に開発したWeb Based Navigationというサービスによって、従来の技術的な問題が解消したからだ。このサービスに伴うDNS(ドメイン・ネーム・システム)の仕様変更について、ICANNからコメントを求められたが、問題ないと考えている。どこかのお墨付きをもらわないといけないものではないという認識だ」--。

 米ベリサインのドメイン名管理部門で多言語ドメイン名を統括するニール・エドワーズ副社長は日経コンピュータの取材に応じ、インターネットの世界を賑わせている“大問題”について、こうコメントした。大問題とは、一民間企業である米ベリサインが、インターネット全体の基幹システムであるDNSに独自の機能拡張を行ったことだ。

 エドワーズ副社長のコメントにあるように、「誰もが特別な作業なしで多言語ドメイン名のサイトにアクセスできるように」するため、米ベリサインは1月3日、突如としてWeb Based Navigationサービスを開始。同社が2年前から発行している「日本語.com/.net」、「中国語.com/.net」などのサイトに、誰もがアクセスできるようにした。

 具体的には、この方法が問題になっている。今回米ベリサインが、DNSの仕組みに機能拡張をする形で、多言語ドメイン名を実現させたからだ。通常は、パソコンなどから日本語などが混じったURLをリクエストしても、DNSサーバーが多言語に対応していないため、エラー・メッセージが戻ってくる。しかしベリサインの新サービスは、そのエラーを同社のサーバーが拾い、独自にアルファベットのURLに変換して、対応するページを表示させるのだ。

 しかし、多言語ドメイン名の技術的な仕組みは現在インターネット技術の標準化団体であるIETFが標準化作業を進めており、最終段階に至っているものの、まだ完全には終了していない。さらに、その最終案では「クライアント・サイドで多言語ドメイン名に含まれる各国言語をアルファベットに変換し、アルファベットにしか対応していないDNSの仕組みを変更せずに多言語ドメイン名を実現する」となっている。

 今回の米ベリサインの新サービスは、この方針に真っ向から正対するやり方だ。同社は新サービスの技術的な詳細を明らかにしなかったが、DNSサーバーが返すエラー・メッセージを“利用”する時点で、明らかに「DNSの仕組みを変更している」と言える。「不明なドメイン名に対してはNotFound(404エラー)を返す」ことが、本来のDNSの仕様である。

 さらに問題視されているのは、この新サービスは同社が管理する「多言語.com/.net」のみに対応し、「日本語.jp」など他社の多言語ドメイン名は対象外である、ということだ。多言語ドメイン名を入力したときの振る舞いに統一性がなくなってしまう。

 インターネットの世界的な管理組織であるICANNは1月6日、米ベリサインのサービスに懸念を表明するコメントを出した。具体的には、ICANNの上位に位置しインターネット全体のアーキテクチャを議論する組織、IAB(Internet Architecture Board)に対して、ベリサインのサービスの妥当性について調査を求めた。

 冒頭にある米ベリサインのエドワーズ副社長のコメントは、このICANNの懸念に対して答えたものだ。同副社長はさらにこう続けた。「昨年11月ごろにICANNの鍵となる人々へ直接説明したが、特にネガティブなコメントはなかったし、やるなという通知もなかった。ICANNのコメントを受けてIABにも再度説明したが、プロトコルの利用に関する改善を1カ所求められただけ。具体的には言えないが、その部分は改善する。基本的に我々はインターネット・ユーザーにとって正しいことをしているという自負がある」。

 ところが両者の主張は食い違う。IABは1月25日に調査結果を公表した。それによると、「ベリサインの取り組みは、セキュアなDNSの発展にリスクをもたらし、DNSの仕組みに混乱を生じさせるものだと強く感じる。(中略)DNSのインフラストラクチャを完全な状態に戻すためにも、ベリサインがすべてを元通りに戻すことが最善だと信じている」としている。

 IABの答申を受けたICANNのスチュアート・リンCEOは1月27日、米ベリサインに対してIABのコメントに対する返答を求めた。いまのところベリサインからの返答はない。

井上 理=日経コンピュータ