動かないコンピュータForum

第51回 フォーラム中間総括 撲滅に立ちはだかる相手は多岐

動かないコンピュータ・フォーラム 主宰者 中村 建助=日経コンピュータ編集

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フォーラムの主旨と参加ルールへフォーラム・トップへ

 前回の「問題の本質は非IT、最後は罰則強化か-その2 」で「動かないコンピュータ・フォーラム」も50回を数えました。フォーラムそのものも2002年4月にスタートして丸2年を超えました。

 少し変則的な内容になりますが、今回のフォーラムはこれまでの内容を振り返ってみたいと思います。

みずほ銀行のトラブルが重なる

 動かないコンピュータ・フォーラムの最初の企画は、「「NOと言えるインテグレータ」」(第1回から25回までのフォーラムは、日経コンピュータの読者の方専用です。ご容赦ください)でした。当時は、私ではなく現在、日経ビズテックの編集委員を務める谷島が担当していました。システムの開発プロジェクトが迷走することを防ぐためには、顧客にNOといえる強いインテグレータの存在が重要ではないか、という問題の提起です。

 ちょうどフォーラムが始まった2002年4月に、みずほ銀行のシステム統合の失敗によるトラブルが起きました。このトラブルが大きな話題となったこともあって、フォーラムには大量の書き込みがありました。実際のご意見は、「正しくNOと言ってこそプロ----「ユーザーも正しいNOを(その1)」、正しくNOと言ってこそプロ----「ユーザーも正しいNOを(その2)」、「正しくNOと言ってこそプロ----「ユーザーも正しいNOを(その3)」にあります。

 その後もフォーラムでは、「NOと言えなかった、みずほ銀行」、「求む、みずほの再生策」といったテーマで、みずほ銀行のトラブルについて議論を進めました。そして、これらのテーマについて、みなさんからのご意見をまとめたものが、「「みずほ」問題を考える(その1)」、「「みずほ」問題を考える(その2:権限と責任)」、「「みずほ」問題を考える(その3:トップと信頼関係を築く)」、「みずほ再生策、異論続出」になります。

 みずほ銀行のシステム・トラブルによって、情報システムが経営に与える影響の大きさが改めて明らかになった製でしょうか、その後世間一般の「動かないコンピュータ」への関心が高まったような気がします。

 あのシステム・トラブルから2年が経過しました。現在、みずほ銀行はシステム統合作業を進めており、年末までには終了するはずです。現在のみずほ銀行にとっての課題は、すでにシステム統合を終えた他のメガバンクとの時差をいかに解消していくのかでしょう。

 続いては、システム・ダウンの問題が議論のテーマになりました。「システムは止まることもある」がそうです。総括編は「『可用性はビジネスに応じ判断すべき』だが『ATMは止めるな』」です。

 システム・ダウンの問題については、「大規模化するネット障害にどう立ち向かうか」、「公的ITインフラのトラブルはどこまで許されるのか」、「ATMの障害はなぜ続発したのか」といったテーマで、その後も何度か議論してきました。

 システム・ダウンをなくすことは不可能、危機管理の観点を含めてどれだけのコストをかけてダウン対策を取るのかが重要、という点についてはフォーラムでも意見がまとまりつつあるように思えるのですが、何かまだ重要な論点を提出し切れていない気がしています。もっぱら、記者の力不足が原因だと思うのですが、いずれ機会があればまた考えてみたいと思っています。

経営、コスト、セキュリティ、2007年・・・戦うべき相手は多い

 フォーラムでは金融機関に関する問題ばかり取り上げてきたわけではありません。経営、コスト、セキュリティや、いわゆる2007年問題までテーマにしてきました。

 経営と動かないコンピュータの関連について最初に正面から取り上げたのは、「なぜ情報システムは理解されないか」です。「業務改革と「動かないコンピュータ」の関係について考える」、「中堅・中小企業の情報化はなぜ失敗するのか」といったテーマもありました。

 これらのテーマは、「IT無知への処方箋(上)----地道に理解を広げる」、「IT無知への処方箋(下)----経営者が分かる仕組みを作る」、「ERPパッケージの功罪は大きい」、「ERPパッケージの功罪は大きい-その2」、「いずこも同じ人材不足とトップの重責」といった総括編につながります。

 コストの問題について取り上げたのは、「システム・コストの節約は「動かないコンピュータ」を呼ぶか」とその総括編である「システム・コストの節約は一筋縄ではいかない」です。

 熟年技術者のリタイアが情報システムの開発・運用の現場に大きな影響を与えることになるという、いわゆる2007年問題についても取り上げました。「生保を襲った時間の壁と2007年問題から考える」がそうです。この問題の総括編は、「分かれる2007年問題への評価」と「分かれる2007年問題への評価(その2)」ですが、総括編をまとめながら2007年問題に対するみなさんからの反響の高さを感じました。

 これらのテーマについては、まだ問題点を整理しきれていない気がします。経営やコスト、2007年問題については、今後の動かないコンピュータ・フォーラムで再度、取り上げていきたいと思います。

 読者の方からのご指摘で気付いたのですが、フォーラムのテーマを見ても、情報システムにおけるセキュリティの問題が重要になってきたことを痛感します。冒頭に記した直近のフォーラムは「個人情報漏洩・流出を考える」に対する総括編でした。少し前になりますが、「防衛庁データ流出事件裁判で残った謎を考える」というテーマと、これに対する総括編の「「下請けは不可欠」に甘えてはいけない」もありました。

 最近では、「何でもかんでも『動かないコンピュータ』というのはどうなのか」というご指摘を受けることもあります。ただ、ITの世界はどんどん変化しています。動かないコンピュータが生まれる本質的な原因は変わらないのかもしれませんが、事象としての「動かないコンピュータ」はこれまで予測していなかったユニークなものが今後も誕生していくでしょう。記者は、こういった新たな「動かないコンピュータ」も積極的に取り上げていこうと考えています。

「動かない」からの脱出は簡単ではない

 個人的に記憶に残っているテーマは二つあります。

 一つは、谷島の執筆した「失敗とコンサルタントの関係」と総括編の「コンサルタントだけを非難できない」です。これは、本来なら成功請負人とでもいうべきコンサルタントがシステム開発プロジェクトに参加したにもかかわらず、ほどんど成果を挙げられなかったり、動かないコンピュータが誕生することがある、といった内容のものです。

 最終的にこの記事は、日経コンピュータ本誌の昨年5月19日号の特集記事「コンサルティング会社に異議あり」につながりました。特集を執筆したのは私ですが、取材の難しさやその後の反響の大きさを含めて記者として初経験だったことがたくさんあり、記憶に残っています。

 もう一つは、2003年06月に取り上げた、「「オープンソースの不具合で動かないコンピュータ」への読者の反論から考える」と「ベンダーの技術力に異議あり」です。このフォーラムは、日経コンピュータやはり昨年5月19日号の「動かないコンピュータ」に掲載した早稲田大学の履修管理システムについての記事です。

 タイトルにもある読者からの反論というのは、この履修管理システムのトラブルについて、開発の統括/マネジメント/技術力に大きな問題があるにもかかわらず、問題の原因がオープンソースのソフトにあったような印象を与える、という趣旨のものでした。

 記憶に残っているのは、早稲田大学の履修管理システムが依然として問題を抱えているようにみえるからです。早稲田大学に取材した昨年4~5月時点では、このシステムが抱える問題はそれほど大きくないように見えました。ですが実際には、今日現在も早稲田大学の履修管理システムは、当初想定していた状態では稼働していないのです。

 実は、掲載した記事を読んだ限りでは、早稲田大学の「動かないコンピュータ」からの脱出はそれほど難しくないのではないか、という印象を抱いていました。ところが現実はそうなっていない。記事でも問題を捉え切れていなかったことになります。

 こちらのテーマは、「動かないコンピュータ」からの脱出の難しさを実感すると共に、取材力不足を含めて反省することが多いため、記憶に残っています。

動かないコンピュータ撲滅のための10カ条

 実は動かないコンピュータ・フォーラムには前史とでも言うべき記事があります。谷島による「増える動かないコンピュータ」、「続・増える動かないコンピュータ」、「続々・増える動かないコンピュータ(上)」、「続々・増える動かないコンピュータ(下)」といった記事です。

 この記事の中には、動かないコンピュータ撲滅のための10カ条が記してあります。日経コンピュータ本誌を含めて、何度も掲載したことがあるのでご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、改めて以下に示したいと思います。

・自社のシステム構築に関する力を見極め、無理のない計画を立てる

・複数のインテグレータを比較し、最も自社の業務に精通している業者を選ぶ

・経営トップが先頭に立って、システム導入の指揮をとり、全社の理解を得ながら社員をプロジェクトに巻き込む

・要件定義や設計など上流工程に時間をかけ、要件が確定後はみだりに変更しない

・開発の進み具合を自社で把握できる力を身に付ける

・検収とテストに時間をかけ、安易に検収しない

・インテグレータとやりとりする社内の責任者を明確に決める

・システムが稼働するまであきらめず、あらゆる手段を講じる

・インテグレータと有償のアフター・サービス契約を結び、保守体制を整える

・インテグレータを下請け扱いしたり、開発費をむやみに値切ったりしない

 完璧に実行することは難しいですが、
いずれも動かないコンピュータをなくすために重要なことだと思います。

 ただし、この10カ条を日経コンピュータ編集部で作成したのは、1990年のことです。編集部で取材した動かないコンピュータの実例も増えています。現時点ではまだできていませんが、日経コンピュータ本誌とも連動しながら、この10カ条を改訂することができれば、と考えています。

より広い視点から考えていきたい

 そのためには、日経コンピュータ本誌の連載「動かないコンピュータ」の内容の強化と、フォーラムを通じた問題点に対する議論が不可欠のものになると思います。

 現在の動かないコンピュータ・フォーラムは、記者の考えもあって直近の日経コンピュータ本誌の「動かないコンピュータ」で取り上げた事例と連動させる形でテーマを決めることが多くなっています。ですが、フォーラム開設当初からのテーマを今回、まとめて振り返ってみると、少し自分で議論を窮屈に進めているような印象を持ちました。

 また最近、日経コンピュータと「動かないコンピュータ」について複数の取材先と話す機会があったのですが、期せずして「システム構築術ばかり取り上げても本質的な問題は解決しない。経営やマネジメントとの関連についてもっと考えるべきだ」、「稼働トラブルの話が多いが、開発トラブルについてももっと記事にするように努力すべきではないか」という指摘を受けました。今後はこういったことを考慮して新たなテーマを考えていきたいと思います。

 最後に2点。まず改めて、フォーラムにご意見を書き込んでいただいているみなさんに、感謝と今後のご協力をお願いします。

 もう1点はお知らせです。次回からの「動かないコンピュータ・フォーラム」から、弊社のWebサイトであるITProと緊密に連携して、より多くのみなさんからのご意見を募る形に変えたいと考えています。

 今後も「動かないコンピュータ・フォーラム」ならびに日経コンピュータをよろしくお願いします。



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