動かないコンピュータForum

第46回 ATMの障害はなぜ続発したのか

動かないコンピュータ・フォーラム 主宰者 中村 建助=日経コンピュータ編集

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 今回の「動かないコンピュータ・フォーラム」では、1月に続発した金融機関のATMのシステム・トラブルについて考えてみたい。

 すでにこのフォーラムでは、第38回「公的ITインフラのトラブルはどこまで許されるのか」、第39回「障害を避けられないものとして対策を練るべき」、第9回の「システムは止まることもある」、第10回の「『可用性はビジネスに応じ判断すべき』だが『ATMは止めるな』」として、金融機関のATMのダウンに関連したテーマを取り上げてきた(第9回と第10回は日経コンピュータ読者限定です。ご了解ください)。しかし、これだけ短期間にこれだけ多くの金融機関のATMで何らかの異常が生じたことは過去にもほとんど例のないことだ。

 そこで、今回は、ATMのシステム・トラブルの影響の是非ではなく、純粋になぜ、ここまでトラブルが頻発したのか、という点絞って考えを進めていきたい。

 今回も、いつものように皆さんからのご意見をお待ちしています。ご意見を書き込まれる方は、この画面の一番下の方にある「Feed Back!」を使ってお書き込み下さい。「コメントを書く」という文字の部分をクリックしていただければ、ご意見の記入欄が別画面で現れます。

統合ATM関連でトラブルが続発

 まず、今年に入って続いたATM関連のシステム・トラブルを簡単に振り返る。

 まず小規模とはいえ、1月4日に三つの銀行のATMでトラブルが発生した。ATMを使った取引の一部に異常が生じたのである。

 二つの銀行のトラブルのキッカケとなったのは、全国の銀行間のATMを接続する「統合ATM」という中継システムの導入だった。島根銀行と八十二銀行では、統合ATMの導入に伴う作業の過程で何らかの問題が生じて、ATMを利用した取引の一部が、2~3時間にわたって利用できなくなった。

 同じ日には、京都銀行でもATMを使った取引の一部ができなくなった。この日から、京都銀行はNTTデータが提供する「地銀共同センター」に基幹系システムを移行させたが、刷新に伴う初期トラブルが発生して、数時間にわたってATMを使った取引の一部が利用できなくなるなどした。

 ATMに関連したトラブルの影響範囲が一気に拡大するのは1月11日のことだ。この日、東京三菱銀行、二つの信託銀行、21の地方銀行で統合ATMを経由した取引が成立しにくくなる現象が発生した。このトラブルは約8時間にわたって継続した。

 さらに1月26日には、日本全国の金融機関の大半のATMで、他の金融機関との取引が成立しにくくなった。影響を受けた金融機関の数は約1700に達する。トラブルは5時間にわたって続いた。キッカケとなったのは、同じ日にりそな銀行、埼玉りそな銀行で起きたシステム・トラブルだった。りそな銀行と埼玉りそな銀行におけるトラブルは、電源の瞬断に伴うシステムの再起動の際の人為的な手順ミスなどが原因だった。

 また、これら二つの全国的なトラブルが起きた間の1月17日には、千葉銀行でATMが4時間にわたって利用できなくなった。ほとんどの銀行が何らかのトラブルを経験したといって過言ではない。

 ただし、トラブルは多発したが、ATMが長時間にわたって停止するといった社会生活へ大きな影響を与えるものではなかった。なお、金融機関のATMを巡るトラブルについては、日経コンピュータ2月9日号の「動かないコンピュータ」拡大版として誌面で詳しく紹介している。よろしければご覧ください。

共同化の進展によるトラブルの増加は必然

 これだけのトラブルが多発した遠因ともいえるのが統合ATMの導入である。

 1月4日のトラブルは統合ATMの導入に伴うものだし、1月11日に起きた全国の20を超す金融機関におけるATM関連のトラブルも、統合ATMの導入にミドルウエアを対応させたことがトラブルの原因となった。統合ATMに対応させたミドルウエアには、1月11日になると顕在化する不具合があったのである。「たられば」の話であるが、ミドルウエアを統合ATMに対応させなければ、今回のトラブルは起きなかったことになる。

 さらに、最もトラブルを経験した金融機関の多かった、1月26日のATMの異常は、統合ATMのプログラムの不備が原因だった。特定の金融機関を経由する電文のやり取りに障害が発生すると、システム全体の負荷が高まり、やがては統合ATMを経由する全金融機関の間での電文のやり取りに影響が現れる設計となっていたからだ。

 ただし、記者は統合ATMの導入自体に問題があったというつもりは全くない。統合ATMの導入によって、従来よりも相互利用できる金融機関の種類や数が増えた。金融機関のATMの相互運用が拡大することによる消費者へのメリットは大きい。

 しかもここ数年、銀行を中心とした多くの金融機関はシステムの共同利用を進めている。ATMの相互運用にとどまらず、多くのベンダーが勘定系システムの共同利用を提案している。またオープン系システムを中心として、勘定系システム用のパッケージ・ソフトも数多く発売されている。業務の種類を問わず、システムの共同化やパッケージ・ソフトの利用は金融機関におけるトレンドになっている。

 しかし共同利用やパッケージ・ソフトの採用には問題もある。今回のATM関連のトラブルからは、多くの金融機関が同じシステムやパッケージ・ソフトを利用した場合には、一つのソフトの不具合や共同利用するサービスの障害の影響が広範囲に及ぶことが改めて白日の下にさらされた。パッケージ・ソフトや共同サービスの提供ベンダーは、その品質の強化には非常な努力を傾けているがそれでも完璧なものを作ることは不可能に近い。

 また記者は、システムの共同利用に諸手を挙げて賛成はしていない。複数の企業が同一のシステムを利用する場合には、様々な問題がある。

 具体的な問題については当フォーラムの、第14回「システム共同化の成否はどこか」、第15回「「わかっちゃいるけどまとまらない」からの脱却」(いずれも日経コンピュータ読者限定です)で取り上げた通りである。

 複数の企業が似たような業務を同じシステムで処理すれば、システム・コストを下げることができるのは確かだが、実際には業務を全く同じ形にそろえるのは簡単ではないこと、既存システムとの連携作業が簡単ではないことなどがその理由だ。

 金融機関がソフトやサービスの共同化を進める限り、これらの問題が今後も発生する可能性は否定できないだろう。

相次ぐトラブルは銀行の斜陽産業化の兆しか

 ここで少し話を変えて、現在の銀行とIT投資のあり方について考えてみたい。最近、ある大手システム・インテグレータの社長と元都市銀行出身というコンサルタントと別々に話す機会があったが、この二人から印象的な言葉を聞いたからである。

 インテグレータの社長の言葉というのはこうである。「最近のIT投資動向は業界ごとの単位で好調、不調を把握するのが難しくなっている。勝ち組やITの活用に優れた企業はIT投資にも積極的だし、そうでない企業のIT投資は伸び悩んでいる」と話したうえで、「ただし、銀行だけは業界としてIT投資が低調だ」と付け加えた。

 銀行の内部を知るコンサルタントの言葉はさらに厳しい。「外資系以外の銀行で長く勤めようという社員はどんどん減っている。学生の人気を見ても斜陽産業そのもの。こんな状況で十分なIT投資ができるはずもない」というものである。

 過剰なIT投資はもちろん企業にとって大きな問題だが、体力が弱ったために十分なIT投資が実施できなければまた別の問題が発生することも間違いないだろう。相次ぐATM関連のトラブルは、銀行の弱体化を象徴するものだというといいすぎだろうか。

 ここからが本題です。金融機関のATMでトラブルが続発した原因についてどのようにお考えになりますか。またシステムの共同利用を進めながら、ATMなどのトラブルを減らすためには、金融機関はどのような方針でシステムの開発、運用を進めていけばよいのでしょうか。みなさんのご意見をお待ちしています。

 なお、「動かないコンピュータ・フォーラム」の進行スケジュールの関係で、実際のATMのトラブルから今回のテーマの告知までしばらく時間が空いてしまいました。今度は、できるだけこういったことがないように努力したいと思います。



今回のテーマへの投稿は3月12日(金曜)午後6時で締め切らせて頂きました。ありがとうございました。みなさまのご意見を基にした総括記事は、3月18日(木曜)に当サイトで公開する予定です。