動かないコンピュータForum

第45回 ERPパッケージの功罪は大きい-その2

動かないコンピュータ・フォーラム 主宰者 中村 建助=日経コンピュータ編集

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 前回の「動かないコンピュータ・フォーラム」では、業務改革に関連して導入されることの多いERPパッケージ(統合業務パッケージ)が、依然として企業の情報化に大きな影響を与えていることについて取り上げました。今回は残りのご意見を紹介します。

 1月14日に、実際に業務改革と並行してERPパッケージを導入した経験をお持ちの企業の方からのご意見がありました。



 私が所属している会社でも、SCMの改革プロジェクトが動いており、情報システムの抜本改変が行われています。しかし、プロジェクトは難航を極めています。その背景には、経営トップの現場を見ないかけ声、変革を受け入れず、内部だけに固執する旧態依然の現場、経営者、現場に迎合し、複雑・大規模化しすぎたシステム・システム部門等が挙げられます。

 今こそ、業務・システムのシンプル化、また、豊田佐吉の言葉「障子を開けてみよ。外は広いぞ」が求められているのではないのでしょうか。

(30代、システム・インテグレーター、システムエンジニア)


 ご指摘のあったSCM、つまりサプライチェーンの最適化はシステム化を伴う業務改革のなかでも難易度が高いものだと思います。現場の業務をどう変えるのか。社内だけでなく取引先を含めたデータのやり取りをどうするのか、需要予測などの機能をどこまでシステムで実現するのか、その場合にどこまで精度を高めるのか。改革の成功までに乗り越えなければならない課題は数多くあります。

 SCMの改革プロジェクトに取り組みながら、思ったような成果をなかなか挙げることができない企業も少なくありません。ただし、日本が「ものづくり」の国として再生していく上でITを活用するのであれば、記者はSCMの改革は避けて通れないものだと思います。

 不勉強なため、記者は「障子を開けてみよ。外は広いぞ」という言葉は知りませんでした。しかし、ご指摘のように、トップ、現場、システム部門の3者に改めるべき部分があるのは確かだと思います。

 1月15日にはこのようなご意見がありました。



 ERPというパッケージソフトは、MRPという経営管理手法がベースとなっている。そうであればERPの適用にあたってまず最初にMRPをどこまで適用するかの検討が行われなければならない。それなくしてERPを業務改革に適用するというのは本末転倒である。

 しかし、日本のERP関係者でMRPの勉強をしたことがある人間はどの程度いるのであろうか。MRPの日本語文献もなく、MRPと混同している人も多い状態では、ERPによる業務が機能しないのは当然のことではないかと思う。

(40代、その他、コンサルタント)


 「?」をつけていらっしゃいますがMRP、すなわち資材所要量計画が、ERPという概念の元になったというご指摘はその通りです。ERPに関係するベンダーなどに知識不足の面があるのも、その通りだと思います。

 実際にはMRPはおろか、実務のごく基本的なことを理解せずにERP導入にかかわっている“専門家”もいるようです。ERPパッケージを利用したある会計システムの導入プロジェクトでは、貸借対照表の貸方と借方の区別がつかないコンサルタントがいたという話を、記者は聞いたことがあります。

 あまりに良くできた話ですので、果たして事実なのかわかりません。ですが、ERPパッケージの導入に当たって、ほとんど実務経験のない若手社員を大量に動員する風潮が一方で存在する以上、この話もまんざらありえないとはいえません。

 ERPパッケージのような複雑なソフトを扱える専門家が少ないという事実が、「動かないコンピュータ」が増える一つの要因であることは間違いありません。

 もう一つ1月15日には、ユーザー企業の方から、次のような率直なご意見がありました。



 当社は、ERPを導入しています。会計、機器販売、人事。会計と機器販売は、R/3なのですがつながっていません。人事は、別のERPとなっています。ERPでなくて、単体のパッケージ?また、SFAもシーベルで導入したのですが、作り直しです。

 トップには、うまく説明して、ERPを導入したということで、費用削減になったとかいう評価なんですが、本当でしょうか?新規の開発がぐっと減少しました。高額な保守料金負債を抱えて、大変です。乗りかえもできない状況です。

(その他、ユーザー企業、システム企画部門)


 ご意見が事実なら、そのERPパッケージの導入プロジェクトはやはり「動かないコンピュータ」の一種になるでしょう。御社のプロジェクトについては、ここに書き込まれた以上のことは分かりませんが、少なくとも、業務システムのすべてをERPパッケージに切り替えることができるというのは「幻想」だと記者は考えています。

 販売管理や生産管理などの基幹システムをERPパッケージに移行することができなかった、あるいは一部は移行できたものの、既存システムとの併用を余儀なくされているという企業が多いのが現実ではないでしょうか。そのため、ERPパッケージと既存システムを並行して運用せざるを得なくなり、システムの連携に大きな労力を割くことになる。複数のシステムを連携させるためだけの目的で、数億、数千万円単位の追加開発を実行している企業もあります。

 複数のシステムを連携させる機能を持ったソフトに、EAIツールがあります。記者はあるEAIツールのベンダーから、「まるで病院に患者さんがやってくるみたいにウチのソフトを買っていくんですよ」という感想を聞いたことがあります。改革のために導入したERPパッケージによって、企業のシステムがまるで病人のようになってしまう。これも一つの現実でしょう。

 1月16日にはこのようなご意見を頂ました。



 ERPパッケージをコンピュータシステムとして扱われていないと感じます。導入の際に経営コンサルを受けることはあっても、システムコーディネートを考える企業は、大手でも見受けられません。また、こうしたコンサルを請け負う方もコンピュータシステム導入という意識は薄いと感じます。ERP導入時に求められるのは経営に精通したITスペシャリストではないでしょうか?
(30代、その他、コンサルタント)


 「経営に精通したITスペシャリスト」が求められているというご意見はその通りだと思います。しかし、こういった人材がほとんどいないというのが現実ではないでしょうか。と、ここまで書いて思いましたが、「経営に精通したITスペシャリストが不足している」という問題は、ずっと以前から指摘され続けています。

 にもかかわらず、経営に精通したITスペシャリストが増えている様子はありません。なぜこういった専門家が増えないのか、この問題については、いま一度真剣に考えるべき時期が来ているのかもしれません。

1月29日には、次のような長いご意見をいただきました。



 第43回の「業務改革と動かないコンピュータの関係について考える」の記事をはじめて読みました。内容は常に殆どの日本人が討論しているHOWの事ばかり。システムの基礎を誰も知らないし、教えてもらってないからで無理ない。

 まず、Whatについて話をするべきである。業務改革とは何か。動かないコンピューターとは何か私にはわからない。それらの目的は何か?誰の視点から考えていっているのか。

 会社経営者の立場か?株主の立場か?官僚の立場か?顧客に立場か?従業員の誰の立場か?システム部の役割は何か考えてかかれない問題点など、基礎的なことが全然わかってないように思われる。

 話題の問題範囲はなにからなにまでか?

 大学の教授達から、システムの専門家といってる方々が知らないのが問題ではないか。知らない人々同志が討論してどれだけ為に成るのでしょうか?だから、ソフトウェア産業の改善案やインド、中国、ロシアなどのアウトソーシングサービスに対抗する案ありますか? 日本でのIT関連事業者の雇用問題をどのように解決するのですか。もっと基礎的な技術と知識を取得した後で、問題解決案を話しあって下さい。

(60代、その他、コンサルタント)


 ご指摘のように、突き詰めれば「業務改革とは何か」についての合意をきちんと形成した上でなければ、システムの導入を伴う業務改革を成功させるのはおそらく不可能でしょう。

 なお、ご意見の最後の方で触れていらっしゃる中国やロシアなどへのオフショア開発の増加とIT関連の雇用の削減については、別の機会に考えてみたいと思っています。

 1月下旬から相次いだ2003年度第3四半期の決算発表では、「開発単価の下落が業績の悪化につながった」とした大手ITベンダーが続出しました。「開発単価の下落には中国の活用で対抗するしかない」と断言するベンダーも現れています。今年はオフショア開発を巡る問題がよりクローズアップされてきそうな気がしています。

 業務改革と「動かないコンピュータ」については、まだまだ議論できていない問題があると思っています。この問題については整理して、できれば、近いうちに「動かないコンピュータ・フォーラム」で取り上げたいと思います。