動かないコンピュータForum

第44回 ERPパッケージの功罪は大きい

動かないコンピュータ・フォーラム 主宰者 中村 建助=日経コンピュータ編集

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 今回も皆さんから非常に参考になるご意見を頂ました。本当に有難うございます。

 業務改革と「動かないコンピュータ」という、一朝一夕には解決しそうにない問題についてにもかかわらず、示唆に富んだご意見をいただいています。この問題を提起した第43回の「業務改革と「動かないコンピュータの関係について考える」でERPパッケージ(統合業務パッケージ)の導入実態について触れたせいか、ERP導入の是非についてのご意見を多くいただきました。改めて、ここ10年来のERPパッケージの導入ブームの影響を感じました。

 まず、1月9日には次のようなご意見がありました。



 私の知っているあるソフトウェア企業は、業務の最適化変更とERP化を2つに分けて対応していた。

 ERPの持つそれぞれの癖に左右されて、本来の最適化に支障がきたす事を恐れたからだ。その際、最適化という作業にISO9000の取得を絡め、余計な帳票や承認を極力廃すという業務リストラクチャをISOのチェックに引っ掛けて行ったわけだ。当然、コンサルなど雇っていない。このやり方は、後から見ても大変正しかったようだ。

 ISO9000を含む製造やシステム構築の品質の確保自体、市場の要求であり、避けることの出来ないものであり、そこには現場の声が反映される。さらにその熱意を全社含めた形で吐き出させることにより、うまくまとめていた。この事例の場合、似非コンサルによる掻き回しや下らない分析より、全社一体となる契機を与え、うまくフェーズ別けをしたことに勝因があったようだ。正直、多くの中程度の企業まではこういったやり方の方が、馬鹿コンサルを雇うより、ERPによる恩恵を受けやすいのではないだろうか...

(30代、システム・インテグレーター、システムエンジニア)


 中堅企業までとの制限はあるものの、いきなりのERPパッケージ否定論です。業務改革にISO9000を活用すべきではないか、というご意見ですが記者にとっては先日のある取材を思い出して、強い印象を受けました。

 実は先日とあるネット・ビジネス専業にお邪魔したのですが、その企業もISO9000をシステムの開発から保守に大きく活用していらっしゃったからです。不勉強かもしれませんが、これまで記者はISO9000の取得をキッカケにして業務改革を進めている企業の例を聞くことはあまりありませんでした。様々な事情からISO9000を取得したものの、「実際には文書が増えただけだった」という声を聞くこともあります。ISO9000には、記者の知らない可能性があるようです。

 もう一点、「ERPの持つそれぞれの癖に左右されて」しまうというご指摘は重要だと思います。にもかかわらず、現実にはユーザーではなくコンサルティング会社やベンダーの意見ERPパッケージが選定され、しかも選定の理由も、「以前、別のプロジェクトでも扱ったことがある」、「競合ベンダーとは別のERPを選ばないと差異化できない」といった非合理的なケースがあります。

  前回の提起編で、ブームの観を呈している「全体最適」という言葉に対して、個人的な意見を述べたせいでしょうか、1月11日には業務改革と「全体最適」について触れたご意見をいただきました。



 情報システムは単なる手段に過ぎません。問題は人間であり、例えばERP導入であればそれを改革の呼び水にすることができるか、利害調整の単なる道具に堕するかで結果は分かれます。そもそも積極的に業務改革を望む人間が果たしてどの程度いるでしょう?

 政治でもそうですが、改革は既得権益や既存業務への経営資源配分や業務量の変更を意味します。人事、決済、承認権に対して放棄を迫り部門の業務負荷率を変え、存在すら否定するわけです。相対的に部門、社員レベルでは負の印象が強くなるのは当然です。誰もが企業全体の競争力強化のために私心を捨てる覚悟を有してはいませんし評価システムも機能しません。

 全体最適化はこの文脈で初めて生きてくるわけです。すなわち企業全体のスループット(収益)を最大化するには内外の環境変化に即し業務を改革し続ける必要があり、目標と達成するための戦略と手段(戦術)と要する経営資源投入の妥当性の評価と基準を明確に定義し、その意思を全社員に表明し共有化し続けることが重要と考えます。

(30代、ハード・ソフトベンダー、コンサルタント)


 おっしゃることはその通りだと思います。ただし、業務改革を進める上で情報システムの導入だけで多額の費用が必要であり、システムの導入費用だけで企業経営に大きなインパクトを与えるのも事実です。特に米国などに比べて、営業利益率の低い日本ではこの傾向は顕著ではないでしょうか。

 また、情報システムの導入だけのために多くの方が会社人としてのすべてをかけているのも事実です。マクロな視点ではご指摘の通りですが、記者はこういったミクロな立場にもこだわりたいと思っています。

 1月12日には、ERPパッケージと手作りのシステム開発は分けて考えるべきだというご意見をいただきました。



 記事では、ERPパッケージの導入難航と目的未達成を例に上げられているが、作り込みの業務システムとは別けて考えた方が良いと思う。

 一般には目的設定⇒シナリオ考案⇒業務プロセス設計⇒情報システム構築が業務改革を伴う際の本来手順だが、ERPパッケージ活用の場合は逆の手順でなければ長所を生かせないし馴染まないはずだ。

 すなわち、ERPパッケージ機能把握⇒業務プロセス候補洗出し⇒シナリオ候補洗出し⇒目的選定が適切な手順となる。創り出すのではなく、選択するのが本質だからだ。これに倣わないから成功しない。

 尚、ERPパッケージ採用には5点の覚悟が必要である。第1にナンバー1やオンリー1になれない事。第2にERPと運命を共にする事。第3に自社の流儀は完全に捨て去る事。第4に完全なるトップダウンで業務改革を進める事。第5に作り込み以上に事前調査に時間・労力・コストが必要な事。

(30代、ユーザー企業、情報システム部門)


 ERPパッケージの機能を把握した上でなければ、ERPパッケージの導入に成功しないというご指摘は重要だと思います。それだけに、ERPパッケージを導入するに当たっては、企業にとって最もふさわしいERPパッケージは何なのかを選ぶ眼力が求められるのではないでしょうか。

 ところが現実には、コンサルティング会社などの外部ベンダーにERPの選定を任せ、そのベンダーがあるERPパッケージを選ぶ。そして、同じベンダーがそのERPパッケージの導入も請け負うというケースがあります。すべてがそうだとはいいませんが、こういった手法でどこまで、そのユーザー企業にあったERPパッケージが選べるのか記者は疑問に思っています。

 「尚、ERPパッケージ採用には5点の覚悟が必要である。第1にナンバー1やオンリー1になれない事。第2にERPと運命を共にする事」というご指摘ですが、記者はここにある種の諦観を感じました。それとも、皮肉なのでしょうか?

 このご意見は、ユーザー企業のシステム部門の方からですが、自社にERPパッケージを導入されているのもしれません。もしそうであれば、本当に「ERPパッケージと企業が運命を共にする」という言葉の意味は重いと思います。

 1月14日には、システムアナリストの青島さんからご意見をいただきました。



 情報システムの変革を伴わなくても、業務改革は難しい。この困難を少しでも和らげる手段として、情報システムが機能できれば申し分ない。それが、情報システム先行型であっても、後方支援型であってもいい。例えば、ナレッジマネジメントを導入し、全社員がノウハウを共有し業務遂行できるように業務改革したくても、情報システムの支援無くして実現は困難であろう。

 ところが、悲しいかな多くの業務改革失敗事例では、原因を情報システムに課している。「組織や人が変われなかった、業務改革が失敗した」というより、「システムが。。。」と言うほうが痛みが少ない。ノウハウ共有化に向けて組織や人を変革することができなかったと言うより、情報システムが機能しないので、当初の目的であるナレッジマネジメントが機能しないというわけだ。

 情報システムを業務改革の有効な手段とできるか、スケープゴートにするかは、組織の変革に対するガバナンスの成熟度に関係し、ITを経営という大きな文脈の中でとらえているかどうかによる。

システムアナリスト 青島弘幸 http://www.geocities.jp/aoshima_systems/

(40代、ユーザー企業、システム企画部門)


 「ITを経営という大きな文脈のなかでどうとらえているか」。これも大きな問題だと思います。記者は「ITガバナンス」という言葉は嫌いですが、ITを経営の中でどう捉えるのかというのは本当に重要な問題だと思います。

 ごく最近、あるコンサルタントの方とお話しする機会がありましたが、このときに「システム部門“悪”論」という話がありました。荒っぽくかいつまむと、ベンダーと癒着したシステム部門が既存システムを延命させるために、業務改革が進まないというものです。

 システム部門がベンダーと癒着していることが事実かどうかではなく、こういった言葉で経営陣を口説いて、システム部門を外した形でERPパッケージなどの導入が進むケースが多いというお話から、「システム部門“悪”論」という言葉を伺いました。

 このお話を伺いながら、記者は「システム部門“弱”論」という言葉が頭に浮かびました。システム部門が“悪”かどうかは別として、長年当事者として企業のシステムを扱ってきたにもかかわらず、外部からの意見で企業のIT活用の根幹にかかわる部分から外されてしまう。

 おそらく「動かないコンピュータ・フォーラム」をお読みなのは、システム部門あるいはITベンダーの方だと思います。ITと経営が不可分のものになっているにもかかわらず、長年企業の情報システムを支えてきたシステム部門の立場が弱いものになっています。

 ERPの導入ブームはこの問題と関係していると思います。ERPパッケージの導入に当たっては、システム部門が蓄えてきたノウハウではなく、「コンサルティング会社による膨大なインタビュー」や「ベスト・プラクティス」に基づいた標準機能に沿ってシステムを構築することが多いからです。

 ERPパッケージの導入が依然として進む中で、果たしてシステム部門はこの現状をどう受け止めるべきなのか、これも大きな問題だと思います。

 業務改革と「動かないコンピュータ」という大きなテーマだったせいか、力の入ったご意見が多く、今回の総括編もいささか長くなってしまいました。今回も総括編を2回に分けることにします。後編については、来週早々に公開する予定です。