動かないコンピュータForum


動かないコンピュータ・フォーラム 第36回

住基ネットはシステム共同化の失敗例なのか

動かないコンピュータ・フォーラム 主宰者
中村 建助=日経コンピュータ編集

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 【「日経コンピュータ Express Mail 2003/09/11」にて、今回の新テーマを9月11日中に公開予定、と予告しましたが、事情により1日遅れとなりましたことをお詫びします。】

 8月25日から住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)が本格稼働した。個人情報に関するセキュリティが問題になることが多い住基ネットだが、今回は住基ネットをシステム共同化の一例として考えてみたい。

 実は住基ネットは、全国の地方自治体が共同で利用し、その運用費も全国の地方自治体が分担して負担している。この点から考えれば、全国の地方自治体が共同利用しているシステムと捉えることもできるからだ。

 ご存知の方も多いだろうが、住基ネットは、これまで各市町村が独自に管理していた住民基本台帳に全国共通の住民票コードを割り振ってネットワーク化したもの。目的は「住民サービスの向上と行政事務の効率化」である。住基ネットのデータベースは、氏名・性別・住所・生年月日の4情報と住民票コードと、これらの情報の変更履歴を管理する。このデータベースにアクセスすることで、市町村の枠を超えた本人確認が可能になった。

 本格稼働に伴って、住民基本台帳カード(住基カード)というICカードを希望者に配布するようになった。住基カードは、住基ネットに登録してある人間について、本人かどうかを確認するために利用する。また地方自治体が、住基カードを使った独自のサービスを展開することも可能だ。(詳しくは「住基ネットの全面活用は遠い」をご参照ください)。

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もともと共同化は難しい

 もともとシステム共同化は、いろいろなメリットがありそうに見える割には実現が難しいといわれる。簡単にいうと、多数の利用者が参加するシステム共同化は難しい。その理由は業務の異なる複数の企業が同じシステムを使おうとすると、業務要件の調整に手間取るということだ。ほとんど同じような業務を処理しようとしても、企業が異なれば微妙な違いがある。またシステム共同化といった場合には、共同化に参加する企業からの要望が異なっているときに、利害調整を進める強制力を持った調整機関が存在しないことが多いからである。

 システム共同化の難しさについては以前、この動かないコンピュータ・フォーラムで取り上げたことがある(第14回「システム共同化の成否はどこか」第15回「わかっちゃいるけどまとまらないからの脱却」、いずれも日経コンピュータ読者限定です)。

 もっとも住基ネットの導入は、通常のシステム共同化とは異なり、法律に則ったものである。導入への強制力は相当強い。それに住基ネットは、それほど複雑なシステムではない。複雑な要望があるとも思えない。

 全国の市町村であれば、住民基本台帳に登録している住民の、氏名・性別・生年月日・住所の4情報と住民票コードを管理して、都道府県に差分のデータの更新を送信していけばいいだけだからだ。全国に47ある都道府県での作業も難しいものではない。都道府県内の市町村から送られてきたデータを管理して、県内全体の住基ネットで管理するデータの差分の情報を、地方自治情報センターが管理する全国サーバーに送信すればよいだけである。

 こういった点から考えると、こと住基ネットに関して言えば、それほど共同利用は難しくないように見える。

実際の意思決定機関はどこなのか

 しかし、実態はそれほど簡単ではない。住基ネットを巡るいくつかの事実がこのことを証明しているように見える。

 まず現実に、住基ネットへの接続を拒否したり、一部の住民についてしか住基ネットへデータを送信していない自治体が存在していることである。長野県のように、住基ネットへの接続の見直しを公言している自治体も存在する。個人情報の保護について不安があるからというのが、これらの自治体が住基ネットに慎重な姿勢を見せる理由である。

 なぜこういった問題が起きるのだろうか。住基ネットをシステム共同化事例と考えたときに最大の問題だと思えるのは、システムの使い勝手や改善項目について、利用者である地方自治体の相違をまとめる機関が存在していないことである。そのため、一度問題が発生すると簡単には解決できないのである。

 住基ネットの旗振り役は総務省だった。しかし、費用を負担して実際に運用するのは全国の地方自治体である。総務省は旗振り役ではあっても、全国の地方自治体に対する強制力は持たない。

 しかも、頼みの法律にも抜け穴がある。少なくとも現時点では住基ネットへの接続を拒否する自治体などに対して、強制的に住基ネットへ接続させる方法はない。住基ネットへの参加は法律に則ったものだが、市や県などの行政機関が法律で定めた住基ネットへの参加を見合わせた場合の罰則規定がないからだ。「行政機関が法を破るようなケースを想定していなかった」というのがその理由である。

 結局、住基ネットへの参加については、各自治体の裁量に任される部分が増えてしまう。

 それだけではない。現実には、住基ネットを安全に運用する体制を用意するのが難しい小規模な地方自治体が存在する。これらの自治体で、住基ネットを安全に運用させるための解決策はない。

 長野県が住基ネットからの接続を見直す大きな理由に、小規模な自治体における安全性が確保されていないということがあった。住基ネットの改善を主体となって進める機関が存在しない問題は大きい。

小トラブルからも仕様の不備が伺える

 簡単な業務に利用されている住基ネットだが、その使い勝手も十分に検討したものだとは言い難い。

 住基ネットの本格稼働に際して、小規模なシステム・トラブルが発生した(詳しくは「住基ネットが静かに本格稼働,ただし運用ミスでトラブルも」をご参照ください)。このトラブルから、その事実が分かる。

 本格稼働当日の朝、各地方自治体のシステム担当者が、住基ネットを使って本人確認をしようとしたところ、住基ネットで管理する住民全員のデータを管理する全国サーバーにアクセスが集中して、システムの応答速度が遅くなってしまったのである。

 本人確認に当たって、住所を打ち込まずに氏名と生年月日だけを住基ネットに入力したことが全国サーバーにアクセスが集中した理由だった。住所を打ち込んで確認していれば、確認しようとした人物が住んでいる自治体の住基ネットのサーバーで本人確認が可能だった。

 地方自治体で住基ネットを利用する担当者には、システムを操作するときに住所を打ち込む習慣がないのだという。同じ自治体内部の住民に関するデータを入力した経験しかないので、自明である住所については意識しないというのが、その理由である。

 このトラブルからも、住基ネットの仕様が必ずしも地方自治体で住基ネットを利用する担当者の声を反映したものではないことが分かる。最初から、地方自治体の職員に住所を打ち込む習慣がないことを知った上でシステムを開発していたのなら、こういったトラブルが起きたとは考えにくいからである。

年間200億円の運用コストが必要

 繰り返しになるが、住基ネットの運用コストは、都道府県が負担するものである。全国サーバーを運用する地方自治情報センターへの支払いも、全国の地方自治体が案分して行っている。

 住基ネットの構築には350億円を超すコストをかかっている。さらにシステムの運用のために毎年190億円近くが必要だと言われている。にもかかわらず、少なくとも個別の地方自治体を見たときに、運用コストに見合う導入メリットは見えてこない。

 こういった議論を意識したのか、旗振り役の総務省も、最近では「電子政府の構築に不可欠な個人認証システムの基盤として住基ネットが不可欠」なことを強調するようになった。果たして住基ネットは、これだけの費用をかけてまで地方自治体が導入すべきシステムだったのだろうか。

 さて、ここからが本題です。住基ネットをシステム共同化事例として考えた場合、果たして今の姿は成功といえるのでしょうか。それとも失敗なのでしょうか。住基ネットを成功させるためには、どのように変えていくことが必要なのでしょうか。

 またシステム共同化をスムーズに成功させるために、住基ネットの現状からどのようなヒントを得ることが可能でしょうか。以上の点について、皆さんからのご意見をお待ちしています。


今回のテーマへの投稿は9月26日(金曜)午後6時で締め切らせて頂きました。ありがとうございました。みなさまのご意見を基にした総括記事は、10月1日水曜に当サイトで公開する予定です。