動かないコンピュータForum


動かないコンピュータ・フォーラム 第33回

システム・コストの節約は一筋縄ではいかない

動かないコンピュータ・フォーラム 主宰者
中村 建助=日経コンピュータ編集

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 やみくもなコスト削減はシステム・トラブルを招きかねない、と言って間違いないでしょう。ITコストの削減に当たっては、十分な検討が必要です。みなさんからは、システム・コストの削減に当たっての留意点について非常に参考になるご意見をいただきました。

無条件でバラ色のコスト削減はない

 システム・コストの削減に当たっても、周到なプランが必要だというご意見を二ついただきました。システム開発における企画の重要性はよくいわれることですが、新規開発だけでなくシステム・コストの削減に当たっても、当初のプランが重要だというご指摘はその通りだと思います。通常、企業が経費削減をスタートさせる場合には、「一律30%カット」といった手法を選択肢がちですが、こと情報システムに関してはこの手法は向いていないのではないでしょうか。

 7月16日には、システム・コストの削減の原則的な方針について参考になるご意見をいただきました。ご指摘の「トレードオフ」という点は、コストの削減に当たって常に考えるべきだと思います。

 システムコストの削減というのは、その削減により現サービスレベルよりレベルが下がってしまうリスクを頭に置く必要があります。例えば、流行のアウトソーシングですが、自社でのシステム運用と異なり、簡単に業務変更による運用やサブシステム系の更新を行う事ができなくなる認識は必要です。つまり、コストカットの殆どは、ある自由さとトレードオフな関係という認識がユーザに必要ということです。

 トラブルの多くは、このトレードオフがどの点に出るかをユーザ若しくは対応部門が自分の目で検証しきれていないがために発生していると分析します。その分析のための費用ときちんと第3者としての分析者を確保する事からはじめ、必要最低限な機能を縮退方向に持っていかないための方策を練る必要があります。

 こういった点をうやむやなまま進めた場合、トラブルは必然として発生しているようです。つまり、単にコンサルを1つの会社に発注するのではなく、その結果を分析し、指摘できるような相手を見つけ、戦略的に組み合わせて利用するようなしたたかさが必要だと思います。
(30代、システム・インテグレーター、コンサルタント)

 7月17日にはシステムアナリストの青島さんからご意見をいただきました。システムに対する考え方を変えずに、システム・コストだけを削減しようとしても、成功しないという青島さんのご指摘も有用なものだと思います。システム投資と企業収益の関係を完全に把握するのは難しいと思いますが、システム・コストの削減に対する圧力の強い今だからこそ挑むべき課題なのかもしれません。

 これまでと同じ装備のままで、エンジンの排気量だけ小さくするようなコスト削減では、動かなくなるのはあたりまえ。バブルで染み付いた中流意識から抜け出せないで、破産する人も増えていると聞く。企業でも、同じ。抱え込んでいるものを選別して、捨てなければなりません。捨てる技術(勇気)が必要です。

 SWOT分析やバランス・スコアカードで、真に利益貢献できる強みとなるIT資産のみにギリギリまで絞り込んで、最小の投資で最大の効果を得る。開発であれば、要求機能を絞り込む、既存システムであれば、捨てて手作業に戻すなどの荒療治も必要。バブル時に、便利になれば、効率化できればと思い作ったシステムが、逆に人間の機動力を奪っていませんか?そのシステムで、本当に利益が出ましたか?今一度、考え直してみてはいかがでしょうか。
システムアナリスト 青島弘幸
(40代、ユーザー企業、システム企画部門)

 7月17日には、短期的なシステム・コストの削減が招きがちな問題についてのご指摘がありました。

 日曜朝の番組で、石破防衛庁長官の言葉の中にとてもうなずける話があった。日本は、戦闘機や戦車をアメリカ等から比べると5、6倍の高コストをかけて自前で作っているのは驚きであった。その際に税金の無駄使いと批判された長官は、「コンセント理論という考え方があり、基になるところを他国にゆだねてしまうと、本当に必要になったときに、法外な値段で買わされるというものだった」。

 コスト削減に関しても上記のコンセント理論が適用できると考えている。こういった条件に該当するシステムを他社にゆだねると、システムをゆだねた会社に主導権をにぎられる。こういった部分に関しては、非効率、高コストであっても自社で保有し、一定期間で交換できるものや、他社で代替が効くものは、なるべく低コストで実現できるように開発時に努力すべし。
(30代、ユーザー企業、情報システム部門)

 情報システムはモノとは違います。買えばすべてが終わるわけではありません。一時期、報道のあった官公庁の安値入札の例を見ても分かるように、一時的な開発費や設計費用が安いという理由でベンダーを選んだからといって、トータル・コストが最も安くなるかどうかは分かりません。使い勝手の悪いシステムが完成すれば苦労するのはユーザーです。

 最近では多くの企業がシステム投資の半分以上を、新規開発ではなく維持・運用にかけているという現実があります。新規開発の際には、どういったシステムを自分たちが開発するのか、社内スタッフによる開発比率をどうするか、ベンダーには何を任せるべきなのかについて、特に真剣な議論が必要になっていると思います。

システム開発者が戦うべき

 7月14日には、不合理なシステム・コストの削減にどう立ち向かうべきかについてのご意見をいただきました。

 「不合理なコストの削減要求に対しては強く異を唱える」の一種ではあるが、ただ叫んでいても経営者には判断しようがない。やはり「明確なシステムの目的設定」から始まって「この機能の実現、維持には云々の理由によりこれだけの費用」をきちんと説明できるようにし、カット若しくは安価な代替案では赫々のリスクがある旨の理論武装が必要と思う。
(40代、ユーザー企業、情報システム部門)

 システムの重要性を一番理解しているのはシステム部門のはずです。システム・コストの削減ばかりが強調されがちな時代こそ、より強く社内にシステムの本当の価値を訴えることが求められるのではないでしょうか。コスト削減も重要な目標ですが、無謀なシステム・コストの削減を受け入れて「動かないコンピュータ」が誕生すれば、コスト削減効果を消すほどの問題が発生しかねません。

 今なおシステム部門には、業務部門の無茶な要望を聞いてシステム化する「無口な縁の下の力持ち」というイメージが残っています。「無口な」システム部門のままでいては、本当に必要なシステム投資を中止することのデメリットを伝えることはできません。システム部門の「理論武装」に大いに期待します。

 7月14日には、正に「寸鉄人を刺す」というべきご意見がありました。

 ・Oracleを使わない。・SAPを使わない。・コンサルを使わない。これだけで、コストは大幅に削減できます。
(20代、ハード・ソフトベンダー、システムエンジニア)

 このご意見とは対照的に、世の中では、OracleのデータベースとSAPのERPパッケージ(統合業務パッケージ)であるR/3を使い、システムの導入に当たってコンサルタントにかなりの部分を依存するプロジェクトが増えています。

 こうした開発プロジェクトのなかには、製品やコンサルティング会社のブランドに頼った、あるいはBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)という言葉に、当事者が陶酔してしまったものもあるようです。実際に、しばらく前には、「有名な製品ならトップの了解を得やすい」という話を聞くことがよくありました。こういった経緯でプロジェクトが進めば、システム・コストが必要以上に膨らんで当然です。

 さらに信じられないことですが、企業のマネジメント層のなかには、巨額のシステム投資を実行している自分に陶酔してしまう人がいるといます。「100億円のプロジェクトをこなして一人前」「社史に名前を残した」といったことが理由なのだそうです。いかに効果的な投資を行うかは重要ではないのです。このような考えで進むプロジェクトは、甘い見積もりでスタートしたにもかかわらず多額の追加投資が発生することが少なくありません。

 一方でシステム・コストを削減しようといいながら、もう一方で懸命にシステム・コストを浪費しようとしているように見えるというと言い過ぎでしょうか。システム・コストの削減に当たって、こういった不合理なプロジェクトを撲滅することの効果は大きいでしょう。

 なお、コンサルタントと「動かないコンピュータ」の関係については、以前このフォーラムの第16回で「失敗とコンサルタントの関係」というテーマで取り上げました。日経コンピュータ5月15日号の特集「コンサルティング会社に異議あり」でも、コンサルティング会社のあり方について考察しています。よろしければこれらをお読み下さい。

 やはりコストの問題は奥が深い。またいつかこのフォーラムでも、システム・コストと動かないコンピュータの問題を考えてみたいと思います。

 今回、総括記事の公開が当初の予定より遅れましたことを、お詫びします。