「自分の強みと弱みは何だろう?」「いま従事している職種のプロとして,自分のスキルはどんなレベルにあるのだろう?」

 ITエンジニア1人ひとりが直面するこうした疑問に答えるとともに,日本のIT業界における職種構成やスキルレベルなどの実態を把握する。そのための一助として,日経ITプロフェッショナルが参画するITスキル研究フォーラム(略称iSRF,日経BP社,ザ・ネット,日経BPマーケティングの3社が共同運営)は,2002年から全国のITエンジニアを対象にスキル実態調査を続けてきた。

 昨年は2万人以上のITエンジニアにご参加いただき,調査結果の詳細を日経ITプロフェッショナルの特集記事「ITエンジニア2万人のスキル実態調査」(2004年10月号)として掲載した。今年は新たに組込みエンジニアも対象に加え,第4回目となる調査を実施中である。昨年に引き続き,ここでは現時点での調査結果(有効回答は約7000人)から興味深いものを選び,中間結果としてご報告したい。

回答者の3割をプロマネが占める

図1●回答者の職種分布(有効回答7085人)
図2●各職種のITエンジニアが挙げた「将来の希望職種」
図3●職種別に見た,各スキルレベルの構成比率(カッコ内は各職種の平均レベル)
図4●年齢層ごとに見た,職種別の平均レベル(カッコ内は各職種全体の平均レベル)
 まず,回答者の職種分布を見てみよう(図1[拡大表示])。調査では,ITスキル標準(ITSS)で定義された11職種,および,iSRFが独自に定義した「品質保証」の合計12職種から,回答者が現在従事している職種を1つ選択してもらった。

 最も目を引くのはプロジェクトマネジメントの多さである。全回答者約7000人のうち,実に31.3%を占めた。以下,アプリケーションスペシャリスト(26.2%),ソフトウェアデベロップメント(12.2%),ITスペシャリスト(9.5%)が続いた。

 一口にプロマネと言っても,必ずしも大規模プロジェクトの全体を統括するマネジャーだけでなく,サブシステムを担当するチームレベルのマネジャーやリーダーも含まれる。また,アプリケーションスペシャリストなどの他職種とプロマネを兼務しているITエンジニアの多くが,本調査では職種をプロマネと回答した可能性もある。

 とはいえ,システム開発や運用・保守の実務を担うどの職種よりもプロマネが多く,回答者全体の3割を占めるという結果に,「なぜこんなにプロマネがいるのか?」と思った読者も多いかもしれない。昨年の調査でもプロマネの構成比率は最多(24.3%)だったが,この傾向がさらに強まっていることがうかがえる。

 プロマネという職種は,ITエンジニアの今後のキャリア計画においても大きな位置を占めている。「将来の希望職種」に関する調査結果を見ると,実際に多くの職種のITエンジニアが“プロマネ志向”を持っていることが分かる(図2[拡大表示])。プロマネを除く11職種のうち実に9職種では,希望職種の第2~3位にプロマネが入った(どの職種も,希望職種の第1位は現在と同一職種)。なかでもアプリケーションスペシャリストは,約3割がプロマネを目指している。プロマネ以外で,これほど多くの職種の回答者が希望職種に挙げているのはコンサルタントぐらいである。

 以上の調査結果を見る限り,プロマネの構成比率は最も高いし,将来の希望職種としてプロマネを目指すITエンジニアも多い。

 だがこれは,ある意味で非常に意外な結果である。というのも,IT業界では依然として「プロマネ不足」を指摘する声が多いからだ。実際,JISA(情報サービス産業協会)が今月発表した「情報サービス産業白書2005年版」によれば,会員企業の9割以上が「事業展開上,不足している人材」としてプロマネを挙げている。

ハイスキルの人材は決して多くない

 では,こうした状況をどうとらえればよいのだろうか。ITエンジニア自身が抱くプロマネ像と,企業が期待するプロマネの人材像に大きな違いがあるのだろうか。

 このことをスキルレベルに注目して考えてみた。図3[拡大表示]は,全回答者のレベル分布,および各職種の回答者のレベル分布を示したものである。ITスキル標準で定められた「レベル1~7」と,レベル1に達していない「未経験レベル」の8段階で評価した。さらに回答者全体および職種ごとのレベルの平均値(以下,平均レベル)も算出している。

 まず回答者全体の平均レベルは3.1。ITスキル標準で「エントリレベル(スキルの専門性が未確立で,上位者の指導のもとで課題を発見・解決できるレベル)」と定義されたレベル1~2と,未経験レベルを合わせると,全体の実に約43.4%に達した。

 プロマネも例外ではない。ITスキル標準ではもともと,プロマネは高度な専門性が必要として,レベル3以上のスキルしか定義されていない。ところが今回の調査では,回答者の3割近くがレベル2以下にとどまっている。こうした傾向は程度の差こそあれ,コンサルやITアーキテクトなどの職種にも見られた。

 職種によって平均年齢が異なることを考慮し,年齢層ごとに職種別の平均レベルを比べたのが図4[拡大表示]である。特に36歳以上の年齢層では,プロマネはコンサルやITアーキテクトと並んで,平均レベルが他職種よりも明らかに高い。ところが,30歳以下の年齢層では他職種との格差が小さく,25歳以下では,むしろ低い方である。

 ここまで見てきて言えることは,専門性を確立し,自ら課題を発見・解決できるプロマネ,ITスキル標準で言えばレベル3以上のスキルを持ったプロマネは決して多くない,ということだ。本調査でプロマネの構成比率が高かったにもかかわらず,IT業界でプロマネ不足が指摘される理由の一端はここにある。

現状を知ることがキャリア形成の第一歩

 だが,筆者はここで「スキル不足のプロマネが実は多い」ということを強調したいわけではない。また,今回の調査でレベル2以下だったプロマネの回答者は,自分のスキルレベルを過大評価していた,とも思っていない。

 「たとえ経験は浅くても,現時点でのプロマネとしてのスキルがどのレベルにあるのか,自分に不足しているものは何なのか,といったことを,きちんと把握しておきたい」。こういった前向きな考えで調査に参加された方が多かったのではないか,というのが筆者の考えである。現状を知ることが,今後のスキルアップやキャリア形成への第一歩になるからだ。

 ここまではプロマネの話題を中心に進めてきたが,前出の図2を良く見ると,そのほかの職種についても,ITエンジニアのスキルアップやキャリア形成に対する様々な考え方が浮かびあがってくる。

 例えばITスペシャリストは,現在の職種を続けたいという回答者が4割強いるが,ITアーキテクトとプロマネになりたいと考えている回答者も,それぞれ約2割いる。ITスペシャリストとしての専門性を高めていくか,より幅広く技術力を身に付けてITアーキテクトを目指すか,マネジメント力を磨いてプロマネを目指すか,という3本のキャリアパスが見えてくる。

 一方,システム構築後の運用・保守工程を担うカスタマサービス,オペレーションの2職種では,希望職種として,ITスペシャリストやプロマネといった職種を挙げている回答者が多い。オペレーションについては,開発にも携わりオペレーションを考慮したシステム設計を行う,あるいは大規模アウトソーシング案件などでプロマネとして活躍したい,という希望を持つ回答者も含まれているようだ。

 本調査では,単にスキルの実態を分析するだけではなく,こうしたITエンジニアのキャリア形成に対する見方などを浮き彫りにしたい。こうしたキャリア形成のために,どのようにスキルを高めていけばよいのか,を明らかにしていくことも,本調査の大きな意義だと考えている。

 最後に,ここまで読んでいただいた方々にも,ぜひ本調査「ITエンジニア・組込みエンジニア スキル調査(第4回)」に参加していただきたい(無料の無記名アンケート方式です)。繰り返しになるが,現時点での自分のスキルがどのレベルにあるかを把握し,自分の強みと弱みを知ることは,今後のスキルアップやキャリア形成を考えるうえで欠かせないからである。

 なお,本調査の集計・分析結果の概要は,改めて本欄(記者の眼)でレポートし,日経ITプロフェッショナルの10月号で詳細を報告する予定である。実は,本調査では「現職の直前に就いていた職種」についても質問しており,職種転換の理想と現実を比較する,といったことも試みたいと考えている。また今回は,経済産業省とソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC)が今年5月に公開したばかりの「組込みスキル標準(ETSS)」に基づいて,組込みエンジニアのスキル実態も調査している。組込みエンジニアの方々もぜひご参加いただきたい。

(吉田 琢也=日経ITプロフェッショナル)