「営業力の大塚商会」も成果給は2001年から

 その1社である大塚商会は,早い時期から個人成績の査定に注力している企業だ。特に営業職に対しては,SFA(セール・スフォース・オートメーション)と連動して,売上高や利益のほか,他部門との連携や売掛金の回収など,あらゆる営業活動を多数の評価軸で評価するシステムを構築している。

 しかし,賃金制度の大幅な改革に踏み切ったのは,意外にも2001年と最近のこと。従来は,査定結果を主に昇進の判断基準に用いており,昇進を通じて同年代でも給与各差がつくという仕組みだった。2001年に導入したのは,年度の個人成績を反映した歩合給的側面を持つ「成果給」である。この制度改革に先行して,同社は会社の業績に賞与の一部を連動させる制度も導入している。

 もっとも,新制度には日本企業らしさもうかがえる。個人成績の激しい上下に対して“激変”緩和措置を設けたことである。前年から急激に個人成績を上げたり,逆に成績を落としても,直接に給与に反映させるのではなく,評価ランクを1~2ランク上げる/下げるなどの措置を通じて,昇給/減給に結びつける。急激に給与を変動させるより,段階的に上げ下げする方が「個人の上昇志向,あるいは失地ばん回のモチベーションを高められる」(人事を担当する中島克彦常務)いう考え方だ。

「経営は成果給,営業は段階昇給」を志向するフォーバル

 もう1社は,電話系・事務機器系の販社のフォーバルである。やはり営業力が会社をけん引しており,約350人いる営業担当者が中小企業を中心に顧客開拓に日々まい進する。創業が1980年と比較的若いこともあり,日本のIT系企業の中では,年度の営業成績で支給額が変わる歩合給的な要素が強い方だ。

 現在の制度では,成果給の割合はおおまかに全体の約4割を占める。担当する商品ごとに評価・賃金制度に差異があるのだが,その結果,同社の主力である「FTフォン」ではトップ営業と下位の営業担当者の間では「4半期で150万円程度の賃金格差がつく」(経営管理本部人事部の大内龍一部長)。

 年間で400万円程度の差もあり,トップ営業なら20代で年収1000万円を超える社員もいるという。一方で,同社は「世間より若干高い程度」(大内部長)というが,営業の水に合わずに会社を去る新卒も少なくない。ある経済誌の特集記事で,新卒入社の離職率が高い企業の一つに取り上げたこともあった。

 一方で,今回の取材で少々意外な感じを受けたのが,(1)3年を超えて定着した営業スタッフの退職率は低く「独立するほかは,ほとんど会社をやめない」(大内部長)という点,(2)“勝ち残って定着した営業担当者”の間でも,成果主義より過去の成果・実績などを積み上げて昇給する賃金制度を好む傾向がある――こと。

 (1)については,大内部長によると「営業職も社内での昇級を通じて,キャリアを積んでもらう人事・給与制度を志向した」といい,この点では他の日本企業と大きく変わらないのだ。また(2)については,経営陣は成果主義に,従業員は給与水準の継続性重視に振れる傾向があり,「その意識を上手く擦り合わせるのが,人事部の役割」と大内部長は任じている。

 余談だが,同社の人事制度で面白いのが,最短3年の雇用を前提に新卒を採用する「アントレプレナー制度」。フォーバルで営業職を学んで独立することを前提に新卒を採用するもので,3年の退社なら300万円,5年の退社ならば1000万円の独立資金を出す。4年前に開始したが,「概してポテンシャルが高い社員が入っており,水準以上の数字を上げている」(大内部長)と,その成果に満足げだ。

「数字」主体で評価することの弊害

 保険や不動産の業界では,「コミッション」とも呼ぶ成果給がほとんどを占める営業職(主に契約社員)が常識的だ。それに比べれば,大塚商会やフォーバルに見る賃金制度は,まだそれほど厳しい「成果主義」に振れているとはいえない。

 それは,従来の賃金制度から移行する過度期という面もあるし,大塚商会が指摘したように,極端な給与変動で“劇薬”を与えるだけより,個人のステップアップ(あるいはそのための過程や努力)にも光を当てる方が,会社には長期的にプラスだという判断もあろう。

 「一人の営業担当者の力でどんなITソリューションでも売るのは困難な時代」(大塚商会の中島常務)という背景もある。「内側から見た富士通」の著者の城氏は,「富士通では,営業といえども個人よりチーム営業が主体。しかし,営業部門には,売り上げに対する厳しい目標が設定された一方で,個々の社員に対する『目標管理制度』はほとんど形骸化していた」と,元職場における,チーム営業への成果主義導入の問題点を指摘する。

 営業管理職は,課せられた売上目標の達成へと,部門の営業スタッフ駆り立てる一方,あらかじめ設定した「目標」への達成度で評価するという「目標管理制度」は機能せず,実質的には従来型の,上司の主観による評価が占めていた,というのが城氏の見方だ。そのため,「足を稼いだ営業」や「長期の顧客との関係強化」が軽視され,短期の売り上げ達成に走ったり,必要以上に自社ハードウエアをダンピングするといった,安易な商談獲得がはびこったと指摘する。

IT営業職の方々,アンケートへのご協力お待ちします

 これまでに紹介した話は,企業の人事部門への取材に依存している部分が多い。人事部の方々は当然,「現場の意見を反映しながら,制度改革を繰り返してきた。従業員の満足度は高い」と,大きな効果を訴える。では現場の営業職の方々は実際のところ,どう考えているのだろうか。

(玄 忠雄=日経ソリューションビジネス)