長年にわたり裁判で争ってきた米Microsoftと米Sun Microsystemsが,ついに全面的に和解した。しかも,今後は10年の長期契約のもと技術協力を進め,両社のサーバー製品の相互運用性を高めるという(関連記事1関連記事2)。両社の間にいったい何が起きたのか。

 今回の合意でSunが手に入れたのは,裁判での主張が認められたことを意味する和解金とライセンス料である。Microsoftが手に入れたのは,SunがMicrosoftを今後は訴えないという約束である。両社が手に入れたのは,互いのサーバー技術を連携させるソリューションの可能性である。和解に伴う製品の統廃合の可能性は,短期的にはなさそうだ。

「Sunは降伏したのか?」

 記者会見では,「Sunは降伏したのか?」という意地悪な質問も飛んだ。今回の発表は,Sunが今後はMicrosoftを訴えない約束をしたという意味では,「SunもMicrosoftの軍門に下ったか」という見方もできなくはない。

 ただし,「互いに製品の悪口を言い合うことは今後もある」(McNearly氏)という関係は続きそうだ。SunはMicrosoftの資本を受け入れて傘下に入ったわけでもなく,裁判に負けたわけでもないからだ。MicrosoftのCEO,Steve Ballmer氏は「両社は今後も激しく競争を続ける。だが,両社の協力関係は,両社の顧客にとって大きな利益となる」と述べている。

 つまり,両社は従来の「殴り合い」の関係から,現代的な「競争と協調」の関係に移行すると言っているのだ。

 両社がどのような技術協力をするかの詳細は未発表だが,すでに作業は進んでいると見ていい。記者会見の席上で,MicrosoftのBill Gates氏と,SunのGreg Papadopoulos氏という両社の技術トップどうしが数カ月に渡る話し合いを続けてきたことが明らかになっている。また,SunのXeonプロセッサ搭載サーバーでのWindows認定が即日公表されたことからも,以前から具体的な作業が進んでいることが分かる。

Sunにとってのメリット――新ソリューションの可能性

 Sunは何を手に入れたのか。同社は経営困難な時期にあるが(関連記事),現金を受け取るために和解したと見るのは早計だ。

 今回Sunが受け取る和解金,ライセンス料の合計は19億5000万ドル。一方,Sunの手持ち資金は2003年会見年度末時点で57億ドル。和解金は巨額ではあるが,それがなければ即座に危機に陥るわけではなく,またそれだけで困難から脱出できるわけではない。McNearly会長が以前,買収疑惑を否定して「Sunを買収できる規模の会社はない」と述べているように,Sunは自力で立ち直るしかないのだ。

 従って,Sunにとってのメリットを検討するには,和解金だけではなく,Microsoftとの合意がSunのビジネス拡大にどのように有効なのかを見るべきだ。

 和解金の意味は,裁判でSunの言い分が認められたということにある。SunがMicrosoftを1997年に訴えたのは,ビジネス上の利害からではなく,ライセンス契約という約束をMicrosoftが守らなかったとSunが考えたからだ。裁判ではSunの主張は大筋認められたが(関連記事),実効性はなかった(関連記事)。つまり「WindowsにSunのJavaをバンドルする」という本来の目的は裁判では達成できなかった(ただし,SunはPCメーカーとの直接交渉により新出荷PCの過半数にJVMを搭載するという成果を出している)。裁判という問題を和解金で片づけたことで,SunとMicrosoftはビジネス上の実効性がある戦略を打ち出すことが可能となる。

 では今後,どのような戦略が打ち出されるのか。

 一つはサーバー製品の連携だ。発表文では,「Active DirectoryとSun Java System Identity Serverが情報を共有できる」という例を挙げて説明している。MicrosoftのActive Directory技術を利用して構築したネットワークと,LDAPやLiberty Alliance仕様をサポートするSunの認証サーバーを連携させることは,従来では考えられなかった。このような,Sunのサーバー・ハード/ソフトと,MicrosoftのWindowsクライアントを組み合わせたソリューションは,Sunにとって新たなビジネスの開拓となる。

 もう一つは,Java技術と.NET技術の連携である。従来のSunとMicrosoftの関係からは,両方の技術を連携させたソリューションは生まれようがなかった。

Microsoftにとってのメリット――「競争と協調」の相手を得る

 Microsoftは何を手に入れたのか。それは「健全な競争の相手」である。

 裁判を終結させることは,Microsoftの側にとって大きな意味がある。米国内での司法省との裁判では自らの言い分を通したMicrosoftだが,今は欧州で独禁法違反の問題を抱え,厳しい風当たりにさらされている(関連記事)。Sunと手を結ぶことは同社の敵を減らすことにつながり,独禁法違反問題に関するMicrosoft側の得点になる。逆の言い方をすれば,今回の合意の結果,Sunのビジネスが阻害された場合には,Microsoftにとって独禁法問題での失点となる。これは,今回の合意を理解するうえでの大きなポイントだ。

 そして,サーバー分野での技術提携は,Microsoft側にとってもビジネス拡大のチャンスとなる。従来のSunとMicrosoftは,訴訟を抱えていたこともあり,ビジネス上の合理性を逸脱するほど関係が悪かった。例えばSunはMicrosoftに対して独自仕様のJVM(Java仮想マシン)をSun純正仕様に変えるよう要求してきたが,Microsoftはそれを拒み,ついに裁判となった。1997年当時のバージョンのJVMがいまだに搭載されているのはこの影響である。

 また.NETでは様々なサード・ベンダー製プログラミング言語製品をサポートすると発表したものの(COBOLやLispすらラインアップに上っている),Java言語との接点だけがない。.NET用のJava言語製品としては「J#」が一応あるものの,「J++後継」との特殊な位置づけの製品であり,実際に使っている人の話を聞いたことがない。

 従来のIT業界では,こうした時には不合理な部分を含む競争は当たり前だった。相手をとことんやっつけない限り,自分もいつか危ない目に合うからだ。だが,今のIT業界を取り巻く環境は,昔ながらのやり方が合わなくなっている。標準技術の重要性が高まり,「1社だけの独自技術」だと思われてしまうと採用してもらえない。独禁法違反の裁判の成り行きいかんで致命的なダメージを受ける危険もある。

 こうした意味で,Microsoftの最大の悩みは仲間がいないことだった。同社が最も必要としていたのは,競争と協調の関係にある健全なライバルだったのだ。ただし,SunとMicrosoftが,それぞれ相手の期待通りの役割を果たすかどうかは,もちろんまだ未知数である。

(星 暁雄=日経BP Javaプロジェクト)

■筆者の執筆したコラム「【分析】MicrosoftとSunが和解,いったい何が起こるのか」では,本記事の内容に加え,「ユーザーにとってのメリット」「今後,.NETとJavaはどのように連携・共存するか」について分析しています。合わせてお読みいただければ幸いです。