先日,機種変更をして手に入れたばかりの携帯電話を紛失してしまった。取材相手との連絡に携帯電話を使ってきたため,1日でも電話がつながらないと心配になる。最初のうち,この際だから別の携帯電話会社に乗り換えてもいいかと考えた。その会社が販売している携帯電話機は,どれもデザインが良かったからだ。

 だが結局は,今までの会社の電話機を使うことにした。他の会社に乗り換えると必ず電話番号が変わってしまう。電話相手が家族や友人だけならまだしも,取材相手一人一人に「電話番号が変わりましたのでアドレス帳を変更してください」とお願いするのは気が引ける。こんなとき,電話会社を変更しても元の電話番号をそのまま使い続けられるサービス「番号ポータビリティ」があれば悩まずに済むのに・・・。

 IT Pro読者の中にはご存じの方も多いと思うが,昨年11月から総務省が「携帯電話の番号ポータビリティの在り方に関する研究会」を開催,まさに番号ポータビリティ導入の是非を問う議論の最中にある(関連記事)。2月にはその最終的な結論が出る。今のところ番号ポータビリティを導入する方向に傾きつつある。実現するとなると,携帯電話会社側の準備期間を合わせて2005年ころになる見通しである。

議論の土台となる数字の根拠が分からない

 研究会での議論を追ってみると「ちょっと待てよ」と思うところがいくつもある。例えば,携帯電話会社が「番号ポータビリティのニーズがどれくらいあるか」を語る時の根拠にしているユーザー・アンケート。NTTドコモ,KDDI,ボーダフォン,ツーカーセルラー東京は研究会の開催前に,共同でアンケート調査を実施した。

 導入積極派のボーダフォンは「想定されるニーズは携帯電話利用者全体の50%」とみている。ところが,消極派のNTTドコモやKDDI,ツーカーセルラー東京は「番号ポータビリティを有料化した場合,潜在ユーザーは全携帯電話利用者の10%にとどまる」と全く別の結論を出している。

 それぞれのユーザーを対象とした共同アンケートであるため,調査結果が各社で異なるのは当然かもしれないが,それにしても各社の本音が反映されすぎている気がする。

 また,消極派は「電話番号の移行を短時間でできるシステムを作るとなると,約1000億円くらいかかる。このコストを番号ポータビリティ利用者で負担すると高く付いてしまう」と説明している。番号ポータビリティの実現には,ユーザーの番号変更情報を,新旧の電話会社間で交換する仕組みが不可欠だろう。そのために現在の交換機や課金システムを改造したり,新たにサーバーを設置しなければならない。

 だがこの「1000億円」も,実際にどのような根拠で算出したものかは,どこも公表していない。根拠が示されない巨額な数字だけを出して「コストがかかりすぎる」と主張しても,あまり説得力がないように思う。

 しかも気になるのは,研究会では番号ポータビリティの有料化を前提に議論していることだ。番号ポータビリティの料金水準について研究会では「“利用1回につき1000~1500円以内”を希望するユーザーが最も多い」というアンケート結果を引き合いに出すケースが多い。そして消極派は,「番号ポータビリティ利用者が1000億円を負担する場合,この水準を実現するのは無理」と主張するのである。

メールの移行検討は棚上げ

 携帯電話で電子メールをしている読者も多いだろう。事業者を変えて,番号ポータビリティによって前と同じ電話番号を使えるようになったとしても,携帯のメール・アドレスはどうなるのだろうか? 事業者ごとにドメイン名は違っている一方で,@の左側はユーザーが任意に変更できるようになっている。

 A社からB社に移行した際に,電子メールもA社からB社のアドレスに転送したとする。ところがユーザーがB社を利用したまま迷惑メール対策などでアドレスを変更したら,面倒なことになる。メール・アドレスはユーザーが変更できるために,電話番号よりもはるかに仕組みが複雑になりそうだ。このため,研究会ではメール・アドレスの移行についての検討は棚上げになっている。

標準的な付加サービスではないのか

 筆者は,番号ポータビリティは留守番電話や転送電話のように標準的な付加サービスだと思っている。転送電話などはいつも使うわけではないが,時々とても便利に感じることがある。ユーザーは番号ポータビリティが実現された場合,同じような認識を持つのではないだろうか? こうした付加サービスはどれも無料だったり,せいぜい月額数百円程度だ。

 携帯電話会社は一方で,何万円もする携帯電話機を1円で買えるよう,購入代金を肩代わりしている。いわゆる“販売奨励金”などと呼ばれるものだ。各社が新規加入者および機種変更の1人当たり3~4万円を肩代わりしているとなると,単純計算では市場全体で年間軽く1兆円は超える。こうした余分なコストをちょっとずつ削減していけば,番号ポータビリティ実現にかかる設備コストくらいはまかなえるのではないだろうか。

 ちなみに,携帯電話の番号ポータビリティはすでに,海外では既に常識となりつつある。欧州主要国や香港,シンガポールなどでは導入済みであり,米国でも2003年11月24日から番号ポータビリティが実現した。その米国では,ユーザーには番号ポータビリティの代金はユーザーに直接課金しない模様だ(関連記事)。

 実現すれば便利なことは間違いない携帯電話の番号ポータビリティ。でも,このようにまだ問題は山積みのようである。読者のみなさんからも,ぜひ携帯電話の番号ポータビリティに対してご意見をいただければと思う。

(高槻 芳=日経コミュニケーション)

IT Proに会員登録をされている方は,ぜひ以下のアンケートにご協力をお願いします(回答はお一人様一回とさせていただきます)。結果ページは後日このページからリンクします。

▼追記(2004/2/16):アンケート結果記事を こちらに掲載しました。アンケートへのご協力ありがとうございました。

Q1.あなたはどこの事業者の携帯電話を使っていますか? 複数使っている場合は個人でおもに使っている電話機についてお答えください。

KDDI NTTドコモ・グループ(の携帯電話)
ボーダフォン ツーカー・グループ
PHS 携帯電話/PHSは使っていない

Q2.あなたはいくらまでなら携帯電話の番号ポータビリティにお金を出してもいいですか? 事業者を変更する1回当たりの上限金額をお答えください。

無料 2000円以下 2万1円以上でもよい
300円以下 3000円以下 移行は必要ない
500円以下 5000円以下 分からない
1000円以下 1万円以下
1500円以下 2万円以下

Q3.携帯電話を移行するにあたって,あなたはメール・アドレスの移行をどの程度重視しますか?

メール・アドレスの移行ができなくても,電話番号だけでも移行する
メール・アドレスの移行ができないのであれば,移行はしない
メール・アドレスの移行ができれば,電話番号は移行できなくてもよい
どちらの移行も必要ない
分からない

Q4.携帯電話の番号ポータビリティについてのあなたのご意見をお聞かせください。
ご記入いただいたご意見は日経コミュニケーションやIT Proなど弊社媒体に掲載させていただく場合があります。ご了承ください。

 ご協力ありがとうございました。