前回までの工程で、対話フローとインテントとの関連付けを行い、ユーザーとの対話の流れを可視化した。今回は、会話を実際の発話情報にしていく。そのために、(5)入力音声の検討、(6)出力音声の検討、(7)対話モデルの作成という三つの工程を進める(図1)。これで、VUI設計フローが完了する。

図1 VUI設計の全体像
今回は、入力音声の検討、出力音声の検討、対話モデルの作成について解説する
[画像のクリックで拡大表示]

工程(5)入力音声の検討

 (5)入力音声の検討では、VUIシステムへの入力となるユーザーの入力音声を検討する。発話内容の検討、スロット取得の設計、入力音声のローカライズという三つの手順で取り組む。

(5)-1 発話内容の検討

 発話内容の検討では、ユーザーからの様々な言い回しパターンを検討し、VUIシステムがそれらを解釈できるようにする。

 発話内容を検討する際、ユーザビリティーの向上を念頭に置くとよい。ユーザーがVUIシステムと会話するとき、ユーザーによっていろいろな言い方がある。ユーザーが言いやすいように発話し、VUIシステムが理解すればユーザビリティーは高まる。

 逆に特定のパターンでしかVUIシステムが理解しなければ、ユーザーの不満は大きくなり使わなくなるかもしれない。そこで、いろいろな言い回しを検討し、定義しておく(図2)。

図2 発話内容の検討
[画像のクリックで拡大表示]

 いろいろな言い回しを検討すると書いたが、実際には非常に難しい。

 従来のGUIシステムの開発と比較して考えてみよう。次々ページの図3を例に説明すると、Emailの項目に入力されたデータは「@が含まれている」「半角英数字記号のみ」、Passwordの項目については「半角英数記号のみ」という前提で処理できる。入力データのチェックロジックを設けて、これらの条件に合うものだけを受け付けることも可能だ。また「Sign in」がクリックされれば「入力終了」の合図となる。

図3 Web画面の入力項目例
[画像のクリックで拡大表示]

 一方VUIでは、ユーザーがどのような発話をするか分からない。台本で記載したセリフは発話の一つのパターンにすぎず、想定した通りにユーザーが発話すると仮定すべきではない。同様の意図を持った発言であっても、一言一句同じ言い回しになるとは限らない。

 貯蓄VUIアプリを例に取ると、ユーザーは「貯蓄金額を知りたい」と発話したり「お金いくらたまってる?」と発話したりする可能性もある。さらに敬語、「えーっと…」という言いよどみ、意図しない中断、曖昧な返事など多種なパターンがある。

 だからといって、「貯蓄金額を知りたい場合は、貯蓄金額を教えてと話してください。貯金を実行したい場合は例えば1000円を貯金してと話してください。途中でヘルプを知りたい場合は…」のような注意をアプリ起動時に長々と読み上げるようでは、誰も使わないVUIシステムになるだろう。

 入力音声の検討で念頭に置くのは、ユーザビリティーの向上である。それは「ホスピタリティーの精神」ともいえる。

 ホスピタリティーとは「丁重なもてなし、もてなしの心」という意味である。

 相手(ここではユーザー)を信頼し、細かな指示のような会話はせず、決まった言葉以外の会話であっても聞き入れて解釈する。言葉に不備があったときは、言い方を変えたり、どこが分からなかったかを伝えたりする。同じことを返答する場合は毎回同じ応答はせず、相手に応じてランダムな回答をする。

 このような要素がVUIに必要なホスピタリティーである。「決まった言葉以外の会話であっても聞き入れて解釈する」がポイントになる。

 それを実現するには、ユーザーが発するであろう多様な文章やフレーズ、単語を設計に盛り込む。貯蓄VUIアプリの貯蓄残高を求める残高確認インテントを例に取ると、次のような発話内容を想定しておくとよい。

「貯蓄金額を教えて」
「いくらたまってる?」
「いくらあるか教えて」
「貯蓄いくらある?」
「金額いくらある?」
「貯蓄金額知りたい」
「貯蓄金額は?」
「へそくりたまってる?」

 提供する情報に合わせて、こうした言い回し(発話サンプル)を洗い出しておく。

 ではどのくらいの数の発話サンプルを用意すればいいか。目安となるのは、1インテント当たり30個以上である。単純なインテントであってもこの程度を目安にし、複雑なインテントの場合はもっとバリエーションを増やしておきたい。

 ただし、ユーザーの発話を完全に網羅しなければいけない、というわけではない。完全に網羅できれば理想的だが、音声入力のバリエーションは無限にある。実際には、VUIシステムを公開したあとに、ユーザーが発話した内容を分析し、必要であれば発話サンプルを追加していくことが求められる。

この先は有料会員の登録が必要です。有料会員(月額プラン)は初月無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら