「生き物が相手でもAIやIoT(Internet of Things)を使って作業効率を高められた。この経験をきっかけに、さらなる活用につなげたい」――。近畿大学の谷口直樹 水産養殖種苗センター 種苗事業部長 白浜事業場長代理は人手に頼っていた重労働を、AIで代替した取り組みの成果をこう語る。

 近大は従来、作業員が担っていた養殖現場におけるマダイ稚魚の選別作業に関して、AIやIoTによる効率化に取り組んでいる。第1段階として2018年12月に、機械学習サービスであるAzure Machine Learning(ML)Studioを使い、稚魚を汲み上げるポンプの水量を自動調節するシステムを本稼働させた。同システムは豊田通商および日本マイクロソフトと共同開発した(図1)。

図1 マダイ稚魚の選別の鍵を握るポンプ水量をAIで自動調節
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 和歌山県白浜町にある近大の水産養殖種苗センターはマダイの稚魚を8~10センチメートルまで育て上げ、毎年5~6月と12~1月に近大発ベンチャーのアーマリン近大を通じて養殖業者に販売する。稚魚の供給量は国内シェア約24%だ。同センターが出荷する稚魚は年に約1200万尾に上る。繁忙期は1日最大25万尾を出荷する。「生育不良の稚魚を出荷すると顧客からクレームが入る恐れがある」(谷口部長)ため、選別作業は重要だ。

 現在は作業員が生育不良の稚魚を目視で選別している。谷口部長によると「選別スキルの習得に数年はかかる」。特殊な作業ゆえに人手が集まらない場合は「職員が代わりに作業する」など、労働力の確保や技術の継承が課題だった。

 海面に浮かぶ作業用のいかだの上で稚魚を選別する。いけすの稚魚を海水ごとポンプでくみ上げ、稚魚をベルトコンベアに乗せる。コンベア上を流れる間に作業員が生育不良の稚魚を取り除く。コンベアは4台あり、1台当たり3人がかりで作業する。コンベア上を流れる稚魚は「1秒間に約3尾」(谷口部長)という。

 稚魚を正しく選別するにはポンプの水量調節が欠かせない。選別担当者3人の作業量を超えないよう、コンベアに流す稚魚の数を一定に保つ必要があるからだ。ポンプの水量調節は作業員のなかでもベテランが担っていた。その日の選別担当者のスキルや疲れ具合も加味して適切な量の稚魚を送り込むには、高い技術と経験が求められる。谷口部長は「10数人いる作業担当者のうち、適切にポンプの水量を調節できるのは1人だけで、私も手伝う場合がある」と語る。

 常に適切な数の稚魚をコンベアに流すため、選別作業中はベテラン作業員1人がつきっきりでポンプの水量を調節する。「休憩を除いて1日約6時間、調節用のダイヤル式コントローラーを握って神経をすり減らす作業」(谷口部長)という。

 同氏はAIを使ってポンプの水量調節を自動化できないかと考えた。ベテラン作業員の手が空けば「各顧客に合わせて出荷用のいけすを作る段取りをしたり、網の修理をしたりするなど別の重要な作業を担える」(同氏)。結果的に全体の作業効率向上や、技術継承の課題払しょくにつながる。

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