世界150カ国以上に拠点を持つJohnson Controls International(本社米国、アイルランド、中国)は世界で9割以上の高層ビルと取り引きする住宅設備大手。2017年度のグローバルでの売り上げは約301億ドルで営業利益は25億ドルだ。

 日本法人であるジョンソンコントロールズは高層ビルの省エネを推進する自動制御機器や中央監視システム、空調冷熱機器などの施工、保守管理を手がける。同社が運用するVAV(Variable Air Volume、可変風量)方式の空調システムはあべのハルカスや日本橋三井タワー、関西国際空港、六本木ヒルズ森タワー、森アーツセンター、柏の葉スマートシティなどの大規模ビルが採用する。

 ジョンソンコントロールズの谷井裕之執行役員ソリューション開発本部長は「例えば10万平方メートルのビルの天井裏には約1000個のVAVユニットがある。互いに複雑に連動しながら動いており、不具合や故障があると室内の快適性や省エネに影響を及ぼす」と話す。

 同社はVAV方式の空調システムの保守サービスにおいて、Azureの機械学習サービス「Azure Machine Learning(ML) Studio」を使った不具合検知システムを開発した(図1)。谷井部長はシステム開発に至った経緯をこう語る。「従来の保守サービスのメンテナンス業務では熟練技術者がVAVユニットを直接確認する必要があり、不具合箇所の特定にかかる手間や人手不足、技術継承が課題だった」。

図1 空調の不具合検知にAzure Machine Learning Studioを活用
[画像のクリックで拡大表示]

 新たに開発した不具合検知システムは数年にわたって収集・蓄積してきた室温や設定温度、風量、ファンの回転速度といったVAVユニットの稼働データを基に、Azure ML Studioに各ビルの特徴や不具合の発生傾向を学習させた。学習モデルを使って各ビルの稼働データを解析することにより、約30のパターンとして定義した不具合要因との適合度を算出。「不具合箇所の迅速な特定や故障につながる異常の検知が可能になる」(同社の齊藤央サービス企画推進部エネルギーソリューションセンター長)という。

 保守サービスの既存契約顧客には2018年9月から、新しい不具合検知システムを導入したサービスを提供する。新規契約の顧客についても9月から順次提供していく。3万平方メートル以上の大型オフィスビルの新築や改修に合わせて、2020年までに100件の導入を目指す。

障壁(1)
データ同期の仕組みに苦労 不要データ除去し精度向上

 機械学習技術を使った空調システムの不具合検知を目指し、同社は2016年に複数企業に対して新システムの企画提案を求めた(図2)。選んだのはAzureとAzure ML Studio(当時の名称はAzure Machine Learning)を使う富士ソフトの提案だった。採用理由について谷井部長は「機械学習のアルゴリズムの豊富さなど、検討当時に当社の要望に適した機能があったのがAzure MLだった。既にグローバルでAzureを採用しており、将来的に開発した学習モデルを海外展開する際の親和性も評価した」と話す。

図2 Azure ML Studio活用の主な経緯
[画像のクリックで拡大表示]

 2017年3月に富士ソフトの支援を得て開発を始めた。最初に課題となったのはオンプレミス環境とAzureのデータを同期する仕組みの構築だ。従来は温度や風量といった各ビルの稼働データをジョンソンコントロールズのリモートオペレーションセンターに送信していた。「1個のVAVユニットから数件のデータを送信しており、1時間ごとに数万~数十万件になる」(齊藤氏)。

 各ビルから送られる稼働データはリモートオペレーションセンターのSQL Serverに格納する。Azure側では比較的安価で大規模データの保存に向くオブジェクトストレージのBlob Storageを1次受けに採用し、毎日1回稼働データを送る(図3)。次に明らかにノイズと思われるデータは除去(データクレンジング)する。「例えば電源を入れた瞬間のデータは空調が効く前のため室温が高くなる。このようなデータを除外することで精度を高めた」と齊籐氏は語る。データクレンジングは余計なコストの発生防止にも役立つ。

図3 必要なデータのみAzure ML Studioに送りコスト最適化
[画像のクリックで拡大表示]

 さらなるコスト適正化のためデータクレンジングに加え、Azureの仮想マシンで稼働するSQL Serverには機械学習モデルの構築や判定に必要なデータのみ格納する。AzureにはSQL ServerのPaaSであるAzure SQL Databaseがあるが「オンプレミス環境のSQL Serverとの互換性の高さ」などの理由から、仮想マシンでSQL Serverを稼働する方式を選んだ(2018年11月12日時点ではオンプレミス環境のSQL Serverと100%に近い互換性を持つAzure SQL Database Managed Instanceが東・西日本リージョンで利用可能)。

 Azure MLにはジョンソンコントロールズが採用したAzure ML Studioのほかに、Azure Machine Learning(ML) Serviceという別のサービスがある。Azure ML Studioは用途や利用できるアルゴリズムは限られるが、GUI(Graphical User Interface)ベースの分かりやすい操作性を備え、短期間で開発しやすい。

 一方、Azure ML ServiceはGUIではなくPythonのコードを記述して学習モデルを構築する。Pythonの知識が必要になるが自由に機械学習モデルを構築でき、スケールアップやスケールアウトのしやすさも特徴だ。2018年9月に機械学習で定める必要のある各種パラメーターについて、最適なものを推奨する機能「automated machine Learning」も追加された。

 Azure ML Serviceの登場後もAzure ML Studioを使い続けるのは運用を見据えての判断だ。「機械学習は一度モデルを構築すれば終わりではない。継続的な精度向上のためには自分達で学習モデルの構築に利用するデータやアルゴリズムを変更しやすいAzure ML Studioのほうが適していた」(ジョンソンコントロールズ日本法人の地田清和 プロダクトマネジメント部 Tier0チーム チーム長)。

 Azure ML Studioで構築した学習モデルを使い毎日1回不具合要因を判定し、結果をSQL Serverに送る。BI(Business Intelligence)サービスのPower BIを利用し、SQL Serverに格納した判定結果から点検報告書を作成する。営業担当者は点検報告書を基にビル所有者に空調設定の最適化支援をする。故障や異常を検知した場合はビル作業員を派遣する。

この先は有料会員の登録が必要です。有料会員(月額プラン)は初月無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら