明治創業以来、地元の特産品販売や和食店の運営を手掛けるゑびや。伊勢神宮内宮鳥居から徒歩1分という好立地に店舗を構える老舗だ。

 同社は2017年7月、ネットワークカメラとAzureの画像認識AI(人工知能)サービスを使い、店舗の来客数や性別、年齢などの属性、笑顔・幸福度などの感情データの収集を開始した(図1)。

図1 画像認識AIで来店客数や顧客の属性を分析
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 「ECサイトのようにデータを駆使して、店舗の業務効率化を実現したかった」。ゑびやの小田島春樹 代表取締役は、画像認識AI活用の目的をこう話す。

 小田島氏は2012年1月までソフトバンクで勤務し、人事企画、店舗営業、店舗開発(営業企画)を担当していた。「IT活用を重視している」との言葉通り、ゑびやの専務取締役に就任後は、クラウドPOSレジサービスの「スマレジ」や、クラウド型ファイル共有・同期サービスの「Dropbox」といったSaaSを取り入れるなど、ITによる業務効率化に腐心している。

 出色なのは、飲食店の廃棄ロス削減のために独自開発した来客予測システムだ。小田島氏は「曜日や祝日、天気予報やその他関連データを基に、独自のアルゴリズムによって明日の来客数を予測できる」と語る。

 2016年12月の店舗改装を機に開発に着手。開発言語はRを使っている。「重回帰分析で予測式の係数を出すなどして、来客数を予測している」(同氏)。小田島氏は「これまで勘と経験で食材を発注していたが、来客予測システムのおかげで9割近い的中率が出ている。データに基づいて廃棄ロスを削減できるようになった」と胸を張る。

障壁(1)
さらなる精度向上狙い 画像認識AIを採用

 Azureの画像認識AIサービスを採用した目的は、来客予測システムのさらなる精度向上だ。

 来店客の顔を認識することで、例えば女性の来店が多い月に売れるメニューなどのデータが取れる。小田島氏は「画像解析データを売上データと掛け合わせることで、どのメニューに注力すればよいかも判断できるようにしたい」との展望を描く。

 画像認識AIサービスを探していたところ、2017年5月に東京ビッグサイトで開催されたイベント「店舗ITソリューション」に参加(図2)。ネットワーク監視カメラ向けソフトメーカー、アロバが開発した「アロバビューコーロ」を見付けた。

図2 Azure活用の主な経緯
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 アロバビューコーロはネットワークカメラ、アロバ独自の画像加工技術を組み込んだPC、Azureの画像認識AIサービスを組み合わせた店舗マーケティングサービスだ。

 画像認識AIはコグニティブ(認知)コンピューティング関連のAPI群である「Microsoft Cognitive Services」に含まれる顔認識APIの「Face API」と、感情認識APIの「Emotion API」を活用している。

 ネットワークカメラの映像から顔画像をFace APIとEmotion APIで解析することにより、来店客の属性や感情を把握できる(図3)。

図3 リアル店舗にECサイトの分析手法を取り込む
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 同一人物の顔と判断した場合は来店客数にカウントしない。この機能により、新規顧客かリピーターかも判別する。

 事前に特定人物の顔や付随情報も登録できる。例えば得意客が来店した際に、店員が装着したウエアラブル端末に情報を通知することで、より良い接客につなげるといった応用も考えられる。

 来店客の属性やリピーターかどうかの判断は、ECサイトでは容易だがリアル店舗では難しい。小田島氏はイベント会場でアロバビューコーロを見た瞬間に「これは使えると直感した」と振り返る。

 イベント参加前には「米Googleのサービスなども見たが、ピンと来るものはなかった」(同氏)という。小田島氏はアロバビューコーロの採用を決断し、自社店舗での導入に向け開発を始めた。

 2017年7月には、カメラ画像の解析データ活用を開始。カメラは定点観測用に店舗前に1台、店舗内に1台設置している。

 既に店頭ディスプレイの企画改善で結果が出ている。店頭のディスプレイを簡易なものから、塩サイダーという商品を積み上げるタワーディスプレイに変えたところ、売り上げが5倍増えた。

 これまでだと単に暑かったから売れたといった曖昧な分析で終わっていたが、「解析データから女性の購入率が高まったことが分かった。これらのデータを参考にしていけば、次回の企画時は女性と男性のどちらに売りたい商品かで、適したディスプレイ方法を判断できる」(小田島氏)と効果を挙げる。

障壁(2)
カメラの設置位置に苦慮 試行錯誤を重ね調整

 開発過程で苦労したのは「システムよりも、カメラの設置位置をどうするか」(小田島氏)といったアナログの部分だ。AIに画像を認識させる以上、送信する画像の質は極めて重要になる。

 小田島氏はアロバビューコーロを選んだ理由の一つに、「AIの性能だけでなく、いかに質の高い画像を取得するかといったノウハウを持っていた」ことを挙げる。

 アロバの内藤秀治郎 代表取締役社長は、店舗でカメラを設置する際の注意点について一例を挙げる。「照明や光が当たる位置によっては、顔が白っぽくなり本来の年齢より数値が若く出てしまう」。

 一般に顔認識AIで顔を認識するには、両目がそろった正面画像が最適だ。「店舗の動線などから、どの位置だとはっきり両目の映った画像が取れるかも重要」と同氏は話す。

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