設立2年で受注数は11件

 白井や平原にとっては、日本ではおいそれとお目にかかれない大規模プロジェクトに関わる機会が生まれるメリットがある。

 これまで受注に至っている11件のうち、10件を台湾のプロジェクトが占める。

 好景気に沸く中国や台湾のプロジェクトは、日本に比べて規模が大きい。8件は、延べ面積が1万m2を超える。中には、延べ面積が18万m2に及ぶオフィス集積地のマスタープランもある。

台湾・台北市内で建設を予定している、IT系新興企業などのオフィス集積地のパース。H2Rアーキテクツは、マスタープランを担当した。建物の延べ面積は18万m2。長期滞在型ホテルなども配置している(資料:H2Rアーキテクツ)
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 商談の際、発注者から「初めてなので小さなプロジェクトしか紹介できないが、それでも構わないか」と聞かれたので、どの程度の規模か尋ねたら「2万m2だ」と言われて目を丸くしたこともある。

 「規模だけではなくデザインも、現在の日本では考えられない、ざん新なアイデアが望まれている。30代の日本人設計者にとって、チャンスの大きい市場だと思う」と白井は言う。

 3人に共通するのは、20代を海外の建築設計事務所やデベロッパーで過ごしたことだ。白井はオランダのOMA。平原は米国のスティーブン・ホール建築事務所。ロンハオは香港のデベロッパーで働いたことがある。

 こうした実績に加え、メンバーの1人であるロンハオのような現地台湾の事情に精通した営業マンがいたことで、順調な受注につながった。事務所設立2年目にして既に黒字化を達成。「比較は難しいが、日本にいる同世代の設計者としては経済的に恵まれている方だと思う」と白井は話す。

 ただし、台北や北京の設計料は日本より安い。同規模の建物で比べると、台湾の設計料は日本の3~5割程度。しかも、報酬は米ドルで受け取っており、ドル安基調では実入りが減る。それでも、中国や台湾国内の大型プロジェクトの数は、日本を圧倒しており、こうした設計料の安さを吹き飛ばすだけのパワーがある。

 東京での受注はまだないが、白井は東京で売り上げを立てることを喫緊の課題とは考えていない。まずは、大きな発展が見込める台湾や北京での実績をしっかりと築き上げるのが先決。それをベースに東京での仕事を少しずつ増やしていけばいい。それでこそ、リスク分散の意味が出てくる。

 20代のうちから海外事務所で修行を積み、30代後半になって東アジアの3都市に拠点を置いた事務所を旗揚げする──。これも、就職氷河期時代を身をもって経験した世代だからこそ考えついた、新しい生き方かもしれない。(本文、敬称略)

出典:日経アーキテクチュア 2012年1月13日公開 平凡なのにすごい 現代の腕利き
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。