顧客からヒアリングして、仕様を決めて、実装して、ハードウエアを買ってきて納品する。朝イチで電車に乗ってとかお客さんのところに行ったりもしていました。工場長と話をして「次はこうしたらどうですか」と提案したり。普通だったら営業活動は上司や営業部員が行うものですが、人数が少ない会社だったのでそうした分業はありませんでした。上司に理解があったこともあり、チャンスだという気持ちのほうが強かったです。

客にサービスすることがなぜ悪いのか

 もっとも、上司とけんかになったこともありました。一番もめたのは、納品の仕様の範囲を超えて納品したときです。開発期間が1週間余ったので、データの簡易ビューアを追加で作って納品しました。サクッと作ったものなので「保証外ですよ」と念を押して使ってもらいました。次の案件を取りたかったのでサービスで作ったのです。

 別に会社には迷惑はかけていないと思っていました。ところが、上司に言わずにやったので「決められたものを決められた通りに納品するのが仕事だろう」と怒られてしまいました。

 そのときに、次の転職のきっかけになる発想が出てきました。そもそも「見積もり」という行為自体に無理があるのではないか、と。決められた範囲のものを納品して、その品質を担保するのはビジネスとして当たり前です。しかし、この鉄則がある限り、サービスを提供しづらくなります。

 どうすれば解決できるか。「発注側に行けばいいのではないか」と思いつきました。ユーザー向けに作ったもので喜んでもらうのだったら、いっそのことユーザー側に行ってしまえばよいのではないか。

 ただ、基本的には会社から自由にやらせてもらっていたので、具体的に転職する気はありませんでした。そんなころ、シチズンの関連会社である河口湖精密(後のシチズンセイミツ、現 シチズンファインデバイス)の工場から「システムを作れる人を探している」と声がかかりました。

 声をかけてくれた人の立場もあるので、断るのも悪いと思い、一応面接だけは受けました。ただ、血の気の多い時期だったので、最終面接で役員と言い合いになってしまい、「別に入らなくていいです」とたんかを切ってしまいました。当然、落ちたと思ったのですが、なぜか合格してしまいました。

 困ってしまい、勤務していた会社の社長に正直に話し、その会社を辞めさせてもらうことにしました。別に会社に不満があったわけではないですが、漠然と「ユーザー側に行くのも手だ」と思っていたからです。こうして、受託開発企業からユーザー企業の情報システム部門に転職することになりました。

出典:ITpro 2017年6月21日公開
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