Bulletproof SSL and TLSはこの分野では有名な本です。取り上げている話題が新しく、しかもどんどん改訂されて内容がアップデートされています。原著者のIvan Ristićさんは、これを「生きている本」と表現しています。

 Ivanさんが作った「Feisty Duck」という英国の出版社ではプリントオンデマンドでこの本を印刷しています。内容に細かく修正を入れ続けているため、刷るごとに内容が変わっています。原稿のフォーマットにDocBookというXML仕様を採用しており、内容をどんどん継ぎ足したり削ったりして作っているのです。

 会社を辞めたあとは、オーム社でお世話になった著者や翻訳者に会いに行っていました。「マスタリングTCP/IP SSL/TLS編」の監訳者の一人である齋藤孝道先生にご挨拶にうかがったとき、「Bulletproof SSL and TLSの翻訳本を出したい」と話したところ、「いい本だから監訳をやるよ」というお返事をいただきました。

 こうして2015年10~11月頃、この本の翻訳をやることになり、Feisty Duckと翻訳権の交渉を始めました。「あなたたちと同じやり方で本を作れるのは自分たちだけだから翻訳させてほしい」と伝えたのです。ただ、最初は「本当に大丈夫か?」という反応でした。出版社として活動を始めたばかりだったので当然です。最後は齋藤先生に「ちゃんとした人がやっているから大丈夫」というレターを書いてもらって、ようやく翻訳権を取れました。

 12月にラムダノートを立ち上げ、会社の登記を済ませてすぐに契約書をやり取りしました。2016年4月にロンドンブックフェアがあり、それに合わせてロンドンに行って「よろしくお願いします」とご挨拶しました。

 私達が翻訳したバージョンは、彼らが2015年版と呼んでいるものです。最初に出た原書よりも数十ページも増えています。日本の普通の出版社では、特定のバージョンの翻訳だけを出版することは可能だと思いますが、彼らと同じように改訂に追随していくのは困難でしょう。

 当初は、TLS 1.3に対応した日本語版を2016年末に出す予定でした。TLSの仕様が1.3になりそうな状況になっており、Ivanさんは「TLS 1.3が出たらそれに合わせて改訂する」と宣言していたからです。せっかく日本語版を出すのだったら、最新の仕様を取り込みたいと思っていました。

 ところが、TLS 1.3の議論がなかなか終わりません。現在は、2017年内にTLS 1.3が出るかどうかという状況です。そこで、日本語版として出版した「プロフェッショナルSSL/TLS」では「紙の書籍とPDFのセット」と「PDFのみ」の2種類を用意し、TLS 1.3が出る前に買った人に対してはPDFのアップデートでTLS 1.3に対応することにしました。こうしたことを自由に決められるのが、自分で本を作って自分で本を売っている利点です。