内部の視線構造から生まれる空間

――ファサードのデザインではモニュメントをつくろうという意識はあるのですか。

 自分ではあまりモニュメント意識は持っていないですね。アラン・コフーンという評論家が「Oppositions」(1978年春号)で「形と姿(Form and Figure)」という論文を書いており、その中で興味深い分析を行っています。形態は本質的に意味を持たないけれど、姿は形態に文化的な意味を付与したものだと。古典建築では、文化的意味を様式として理解しやすいですが、現代建築では文化的意味は多様ですから、従って姿も多様になっているのではないでしょうか。

 私の場合は、その場所にとって望ましい外からの見え方と、中にある様々な要素間の視線の構造から1つの姿をつくっていくことが多い。つまり、外からどう見えるかも建築にとって大事ですが、中に入ったときの空間をどうつくるかが、さらに重要だということです。その両者を、絶えずチェックしながらつくっています。

――視線構造から生まれる空間とはどのようなものですか。

 例えば「マサチューセッツ工科大学 メディア研究所(MITメディアラボ)」(2009年)があります。建て主のニコラス・ネグロポンテさんから「大きな家をつくってほしい」という要望が最初にありました。とはいえ、5階建てですから、住宅の居間や寝室をつくるのとは違います。大きな家とはどういうことかと考えて、どこにいても自分が全体の中のどの場所にいるか認識できることを重要視して、パーティションの少ない透明な空間をつくりました。

「マサチューセッツ工科大学 メディア研究所(MITメディアラボ)」(2009年)は、学科や専門分野を横断し、技術開発やデザイン、芸術活動を行うための施設(写真:槇総合計画事務所)
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MITメディアラボでは、大空間の中で自分の居場所を認識できることを重視した空間構成とした(写真:槇総合計画事務所)
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 内部のラボは、全部ガラスのスクリーンでできていて、自分がいる場所と残りの空間の関係が、水平性、垂直性、斜め性で認識できます。隣やその先の空間が見通せるので、大きな空間の中にいるという意識を向上させてくれると思っています。

 設計には、いろいろな作法があって長年やっていても難しいですね。

その3に続く

槇 文彦(まき・ふみひこ)
槇 文彦(まき・ふみひこ) 1928年東京都生まれ。52年東京大学工学部建築学科卒業。米国クランブルック美術学院およびハーバード大学大学院の修士課程を修了。SOM(スキッドモア・オーウィングズ・アンド・メリル)、セルト・ジャクソン建築設計事務所などに勤務。ワシントン大学とハーバード大学で都市デザインの准教授を務める。65年に帰国し槇総合計画事務所を設立。79~89年、東京大学工学部建築学科教授。93年にプリツカー賞、国際建築家連合(UIA)ゴールドメダル、99年高松宮記念世界文化賞建築部門、2011年米国建築家協会(AIA)ゴールドメダル、13年文化功労者(写真:山田 愼二)
出典:日経アーキテクチュア 2016年4月20日公開
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