場所に適した建築の作法を

――4WTCのガラスをはじめ、世界各地で様々な素材表現をしています。

 素材は建築の姿にとって大事です。4WTCは、ガラスの持つポテンシャルを重視して、光の反射によって鋭敏に表情を変えるガラスの彫刻を目指しました。ガラスという素材が人の目を楽しませてくれるものだという経験が、自分にあったからです。「遠くから、建物が見えませんでした」とよく言われますが、見る角度によって表情が変わっていき、ある光の状況では消えてなくなるんです(笑)。

ハドソン川越しに見る。「4WTC」のカーテンウオールは天候や光の関係で、時には消えたように見えることもある(写真:槇総合計画事務所)
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グラウンドゼロには、高さ297mの4WTCのほか、高さ541mの1WTCが完成している(写真:槇総合計画事務所)
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――アガ・カーン・ミュージアムでは石ですね。

 カナダ・トロントの「アガ・カーン・ミュージアム」(2014年)では、建て主のアガ・カーン4世から「イスラム建築は歴史的に光に対してセンシティブだから、そういう建物にしてほしい」という要望がありました。それで、世界で一番白いといわれているブラジル産の石を使っています。この石を探し出すのに2年ほどかかりました。

 2層の建物ですが、壁の上部を傾斜させることで、光の具合で自然に上下の見え方が分かれるようになっています。石という素材を徹底的に追求した作品です。

カナダ・トロントの「アガ・カーン・ミュージアム」(2014年)。光を大切にするイスラム建築に敬意を払い、白い石を用いて光の移ろいを表現した(写真:槇総合計画事務所)
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アガ・カーン・ミュージアムの内部。中庭を中央に配している(写真:槇総合計画事務所)
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――金属系の素材も積極的に仕上げ材に使っています。

 そうですね。シンガポールの国立放送センター「メディアコープ」(2016年)では、表層が全てステンレスです。これもステンレススチールの反射性を重要視してデザインしました。

シンガポールの国立放送センター「メディアコープ」(2016年)は、劇場や放送センター、メディアコープ本社という3つの機能を形態で表現した(写真:槇総合計画事務所)
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メディアコープは、反射性を持つステンレスで全面を仕上げている(写真:槇総合計画事務所)
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 一方、インドの「ビハール博物館」(2016年)の外壁にはコールテン鋼と砂岩を使用しています。日本でコールテン鋼を使った作品は、もう少しきれいな仕上がりですが、インドではそれはできないし、しないほうがよいだろうと。少したけだけしくてよいかと(笑)。また、敷地が広く、すごい生命力のある木が周辺にあるので、木々を残しながら建物をつくる面白さがあります。

インドの「ビハール博物館」(2016年)では伝統的な製鉄技術を踏まえ、外装はコールテン鋼と砂岩を組み合わせた(写真:槇総合計画事務所)
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ビハール博物館の設計では、5.6ヘクタールの広大な敷地内の既存樹木を残し、展示棟や子ども博物館、エントランス棟などを分散配置(写真:槇総合計画事務所)
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 土地に対して、どういうふうに建築の表現をすればよいかというと、皆違うんです。その面白さが段々と分かってきました。与えられたところで何をやればその場所らしいものができるかを考えてデザインを決めていきます。