環境は時間とともに育成されていく

――ヒルサイドテラスとは規模や目的が大きく異なりますが、ニューヨークの「4ワールド・トレード・センター(4WTC)」(2013年)も集合体ですね。

 そうです。我々だけで集合体をつくるのではなく、設計の一員として参加することもあるわけです。2001年の9・11同時多発テロで崩壊した「世界貿易センタービル(WTC)」の跡地である「グラウンドゼロ」のマスターアーキテクトはダニエル・リベスキンドです。真ん中に大きな「メモリアルパーク」があり、そのまわりに4棟の建物を計画しています。

 4WTCの設計では、集合のコンセプトが何かということを意識して、それに対して建築がどうあるべきかを考えていきました。慰霊のメモリアルパークを意識し、自分たちのデザインをできるだけ静かにするにはどうすればよいかを重視しました。

 NHK WORLDの「J-Architect」という番組で、ある市民がこの建物について次のようにインタビューに答えていました。「建築の素晴らしさを感じる。この場所で不運にも命を落としてしまった人々の魂や都市の美しさを映し出している。この場所を訪れるのが好きだ。温かい気持ちになり、ものすごく感動する」。結果的に市民には好評で、歓んで(よろこんで)もらえているようです。

「4WTC」(2013年)の全景。槇氏はガラスの彫刻をイメージした(写真:槇総合計画事務所)
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4WTCは、2001年の同時多発テロで崩壊した世界貿易センタービル(WTC)の跡地「グラウンドゼロ」に計画された(写真:槇総合計画事務所)
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――集合体をつくるときに何かルールはあるのでしょうか。

 はっきりとしたマニュアルがあって、その通りにつくればいい集合体ができるというものではありません。経験の中から、こういうことをすれば人間が歓ぶとか歓ばないとか、その積み重ねです。ただ、繰り返しになりますが、つなぎの空間がすごく大事だということはいえると思っています。

 もう1つは、やはり時間をかけることが重要な場合が多いと思います。

 ニューヨークのメモリアルパークでは、ランドスケープデザイナーが「木が大切だ」と言って、4~5年かけて別の場所で育てたものを植樹しました。慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス(1994年)では理事が最初に10万本の苗を寄付してくれて、20年たって今の姿になっています。ヒルサイドテラスも、建て主の朝倉徳道さんたちが「ゆっくりやりましょう」と言ってくださったのが幸運でした。時間をかけると、それなりにいろいろな考えが浮かびますから。

 環境は、ポンとつくって完成するわけではありません。一気につくってできましたというのは、よほどの天才じゃない限り無理です。環境は、時代とともに育成されていく必要があるということです。