事業の軸となる「世界観」のデザインは、時代によって大きく変わる。創業当時から「社会的課題の解決」を標榜してハードウエアを中心にソリューションを提供してきたオムロンとしても、インターネットで誰もがどこでも簡単に情報を入手できる今、ネットワークとの連携なしに新たな事業への展望は開けない。ネットワークで大きく変わってきた代表的な事例が、1960年代から取り組んできたヘルスケア事業だ。

「健康であり続ける仕組み」を作る

 オムロンが、創業者・立石一真の「健康工学」という発想に基づき健康医療機器の研究に取り組み始めたのは1960年代のことだ。1973年には電子血圧計でヘルスケア事業に参入し、78年には家庭用デジタル血圧計を発売した。

 当時、血圧は病院で測るものだった。しかし、「外出先の病院という特殊な状況でなく、日常生活の中での血圧値が重要」という意見が注目されはじめていた。家庭用デジタル血圧計はその要望に応えたものだ。

 その後も、自動で加圧・排気をする「デジタル自動血圧計」や、測定原理に革新をもたらした「オシロメトリック式血圧計」など最新技術を取り入れた製品を投入して、社会的課題の解決を目指してきた。今ではヘルスケア事業はオムロンの中核事業の一つとなっている。

 2011年に私は、このヘルスケア事業を担うオムロン ヘルスケアの執行役員に任じられた。この事業はそれまで代表取締役を務めていたソフトウエア会社やEMS(Electronics Manufacturing Service)会社はもちろん、その前に担当した鉄道事業や電子マネー事業ともほとんど接点がない。ヘルスケアビジネスの予備知識もなかった私には、事業の軸となる世界観も手探りで見つけなくてはならなかった。

 私がヘルスケアにおけるサービス事業を任された背景にあったのは、オムロンが得意とするハードウエアを中心に、多様化する社会課題を解決する仕組みを作ることだった。オムロンのヘルスケア製品を使ってできることは血圧や体重を測るまでで、血圧を下げたり、体重を減らしたりといった最終目的は達成できない。健康であり続ける仕組みを作るためには、ハードウエアだけでなくその上で動くサービスとの一体化が求められている。

 まずはハードウエアとしての「QCD(品質、コスト、納期)」を担保することは必要条件で、さらに顧客満足を高めるために「QCD×S」の「S」つまりサービスや仕組みを創ることが十分条件となってくる。この「S」を創る上では、パートナーとの共創が望ましい。鉄道事業で、駅を「街への入り口」と考えて広告会社やコンテンツ会社へ共創の範囲を拡げられたことの再現だ。

 共創のアライアンスを組む相手を選ぶ際には、提携するレイヤーやノウハウ、会員数、出資金額、人員などさまざまな要素でマトリックスを描いて比較してみた。その結果、ITやサービスレイヤーに強みを持ち、オムロンのヘルスケア技術を求めていたNTTドコモをパートナーに選んだ。

 こうして2012年7月にドコモ・ヘルスケアが発足し、初代の代表取締役社長に就いた。

NTTドコモをパートナーにヘルスケア事業の世界観をデザイン
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