「いい分析結果が出たのに、現場で使ってもらえない」「話すら聞いてもらえない」──。

 データ分析の結果を「人の勘と経験よりも優れた意思決定の手がかりを提供できる」とビジネス部門に説明しても、なかなか首を縦には振ってくれない。現場にはプライドがあり、長年自分たちが運用してきた業務プロセスを簡単に変えようとはしない。まして、業務を知らない“よそ者”から「改革しよう」と言われても、簡単には受け入れられない。それが現実である。

 データ分析に定評がある大阪ガスでも、データ分析の結果をビジネス部門に受け入れてもらい、現場の意思決定や業務プロセスに組み込んで活用してもらえるようになるまでには、かなりの時間と工夫を要する。

 パワーポイントで分析結果の数字やグラフだけ見せても、現場の担当者はピンと来ない。報告会の場で「すごいね!」と賛辞の言葉をかけられても、それでおしまい。現場の業務や行動が変わる保証はない。

 大阪ガスのデータ分析専門組織である「ビジネスアナリシスセンター」は、そうしたつらい思いを十年以上も経験してきた。今では考えられないような話だが、それがビジネスアナリシスセンターの歴史における真実である。

 ビジネス部門が抵抗勢力になっているわけではない。「変えることを拒否しようとするのは人間のさが」であり、ある意味、仕方がないことだ。

ビジネス部門が聞く耳持たず、門前払い

 大阪ガスのビジネスアナリシスセンターは数々の失敗を経験しながら、「どうすればデータ分析結果を現場に使ってもらえるのか」「現場の意思決定プロセスや業務プロセスを変えてもらえるのか」を学んできた。

 ビジネスアナリシスセンターや、所長を務める著名なデータサイエンティストである河本薫氏の名が世に知られるようになったのは、ここ数年の話。それ以前は社内でも存在感が薄く、「データ分析で業務改革やイノベーションを起こし、会社に貢献する」というミッションを掲げてはみたものの、現場にはなかなか理解してもらえなかった。データ分析を懐疑的に見る向きさえあったという。

現場にデータ分析結果を「使わせる力」の大切さを訴える、ビジネスアナリシスセンターの河本薫所長
(撮影:宮田 昌彦)
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 こうした苦い経験を通して、河本所長はデータサイエンティストには「三つのチカラが必要だ」と結論づけた。「見つける力」「解く力」「使わせる力」である。

 データサイエンティストは問題を「解く」だけではなく、「データ分析で業務改革できるテーマを『見つける』ことから始まり、データ分析で得られた結果を現場に『使わせる』ところまでもっていけなければ、会社に貢献できない」と河本所長は主張する。

 データサイエンティストは単に分析問題を「解く」だけではなく、現場に「使わせる」までが自分の責任範囲と認識すべきだという。自分の仕事を「解く」ことに限定してしまうと、仕事の幅が広がらない。何より、会社に貢献できない。データ分析の手法を用いて「解く」ことは、あくまでも目的達成の手段であって「成果」ではないからだ。つまり、分析結果を現場に使ってもらえなければ、成果はゼロだといえる。

 河本所長はビジネスアナリシスセンターのメンバーに仕事をアサインするとき、各自に「見つける」「解く」「使わせる」を一気通貫で任せることにしている。メンバーが若手の場合は最初のうちだけ河本所長もビジネス部門との会合に同席する。徐々にメンバー自身に任せる範囲を増やしていき、本人が三つのチカラを総動員して最後まで担当しているプロジェクトをビジネス部門と共にやり遂げるように仕向けていく。

 若手に1つの案件を最初から最後まで任せるのは、リスクを伴う。それでも河本所長はメンバーを育てるため、覚悟を決めた。「メンバーには分析結果を現場に使わせる最後の局面まで経験させる。それで初めて大きく成長できる」と河本所長は考えた。

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