「新発想」の昇降圧型DC-DCコンバーターIC
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 ロームは、昇降圧電源を必要とする車載ECU(Electronic Control Unit)に向けた昇降圧型DC-DCコンバーター用チップセットを開発し、サンプル出荷を開始した(ニュースリリース)。サンプル価格は1000円(税別)。量産は2019年1月に、月産10万個規模で開始する予定だ。昇圧機能が付いた降圧型DC-DCコンバーターIC「BD8P250MUF-C」と、昇圧機能を実現するドライバーIC「BD90302NUF-C」の2チップ構成である。降圧型DC-DCコンバーターICには、「新発想」(同社)の昇降圧制御技術「Quick Buck Booster」を搭載した。アイドリングストップ対応車におけるクラスターパネルやゲートウェイなどに向ける。なお、発売したチップセットは、2018年5月23日〜25日に神奈川県横浜市パシフィコ横浜で開催された「人とくるまのテクノロジー展2018横浜」で披露したものと同じで、今回はサンプル出荷の開始を発表した(関連記事)

 降圧型DC-DCコンバーターICはそれ単体で使用できるほか、昇圧用ドライバーICと組み合わせることで昇降圧型DC-DCコンバーター回路を構成できる。一般的な昇降圧型DC-DCコンバーターICと比較すると、2つのメリットが得られる。1つは、入力電圧変動に対する高い応答特性が得られることだ。44μFの出力コンデンサーを使用した際の出力電圧変動幅は±100mVと狭い。このため出力コンデンサーの静電容量を従来比で50%削減できる。もう1つは、無負荷時の消費電流が一般的な製品と比べると70%減の8μAと小さいことだ。このため搭載した機器の省電力化を実現できる。

 車載用プライマリー電源に使用するPb蓄電池(バッテリー)では、自動車のアイドリングストップ時などに出力電圧が低下するクランキングという現象が発生する。この現象が発生すると、バッテリー電圧は5V未満に低下してしまう恐れがある。従って、降圧型DC-DCコンバーターICだけでは、5Vの安定化出力を得ることは困難だ。昇降圧型DC-DCコンバーターICが必要になる。通常、昇降圧型DC-DCコンバーターは、2つのスイッチで構成する降圧型DC-DCコンバーターと、2つのスイッチで構成する昇圧型DC-DCコンバーターを組み合わせた4スイッチ構成を採る。入力電圧に応じて、降圧用スイッチと昇圧用スイッチのそれぞれを駆動するPWM信号のデューティー比を個別にきめ細かく制御する必要がある。
 すでに、このタイプの昇降圧型DC-DCコンバーターICをさまざまな半導体メーカーが車載用プライマリー電源向けに製品化しているが、「いずれのメーカーの製品も大きく2つの課題を抱えていた」(同社)という。1つ目の課題は、入力電圧変動に対する応答特性が遅いこと。降圧用スイッチと昇圧用スイッチの両方のPWM信号を制御する必要があるからだ。2つ目の課題は、降圧型DC-DCコンバーターに比べると制御が複雑なため、位相補償回路やプリント基板の設計の手間が掛かることである。

 こうした問題を解決するのが、今回の「新発想」である。同社によると、「実は、クランキングが発生している期間は数msと短い。従って、この期間の変換効率が若干低下して熱が多く発生しても問題ない。無視できるレベルだ」(同社)という。そこで、降圧用スイッチと昇圧用スイッチの両方のPWM信号を制御するのではなく、降圧用スイッチのPWM信号だけを制御する。昇圧用スイッチについてはPWM制御を実行せずに、昇圧比を1.5倍に固定した。つまり、入力電圧が5Vをわずかに下回ったときでも昇圧比は1.5倍であり、必要以上に昇圧してしまう電圧分は、あらかじめ降圧型DC-DCコンバーターで降圧しておく。こうすることで昇圧用スイッチのPWM制御が不要になり、入力電圧変動に対する応答特性を高めることに成功した。変換効率は、昇圧型DC-DCコンバーターが機能する期間だけ5〜10%低下する。

 降圧型DC-DCコンバーターICは単体でも動作する。Pb鉛蓄電池の出力電圧がアイドリングストップ時などに5Vを下回ることがなければ、降圧型DC-DCコンバーターICだけで対応できる。もし5Vを下回るのであれば、昇圧用ドライバーICを外付けすればいい。仮に、昇圧用ドライバーICを外付けすることになっても、電源回路とプリント基板の設計はシンプルのままである。昇圧用ドライバーICには、電源制御回路を搭載しておらず、スイッチ素子とそのゲートドライバー回路だけで構成しているからだ。従って、降圧型DC-DCコンバーターICに内蔵した位相補償回路だけで対応できる。プリント基板設計については、昇圧用ドライバーICの搭載に向けたランドパターンをあらかじめ基板上に作り込んでおくだけでいい。Pb鉛蓄電池の出力電圧特性を測定して、それに応じて昇圧用ドライバーICの搭載を決める。

 このほかBD8P250MUF-Cには、EMI(放射雑音)対策用にスペクトラム拡散クロック変調機能を搭載した。自動車のEMI規制値である「CISPR25」をクリアできるとしている。さらに、同社独自のパルス制御技術「Nano Pulse Control」を搭載したため、AMラジオ帯に影響を与えない2.2MHz動作ながら、最大で+36Vと高い入力電圧でも+5Vの安定化出力を可能にしている。

 昇降圧DC-DCコンバーター構成時の入力電圧範囲は+2.7〜36Vで、出力電圧は+5V。出力電圧の誤差は±2%。最大出力電流は0.8A。降圧型DC-DCコンバーター構成時は、入力電圧範囲は+3.5〜36Vで、出力電圧は+5V。出力電圧の誤差は±2%。最大出力電流は2.0A。パッケージは、BD8P250MUF-Cが24端子QVQFN、BD90302NUF-Cが10端子VSON。動作温度範囲は−40〜+125℃である。どらちも車載用半導体ICの品質規格「AEC-Q100」に準拠する。