これまでの気象観測技術では予測不可能とされてきた、夏場のゲリラ雷雨。ウェザーニューズはその予報にもビッグデータの活用で挑み続けている。2008年に始めた「ゲリラ雷雨防衛隊」の募集が全ての始まりだ。気象観測に人の目や体感といった“感測”データを用いるという、当時の常識を覆す取り組みである。しかも“センサー”となるのは全国の「普通の人」たちだ。

 防衛隊の発足から7年目を迎え、予測にも磨きがかかってきた2014年、感測データの解析に新兵器が投入された。それが「雲画像解析システム」であり、2014年のゲリラ雷雨予報では大活躍した。

●2014年夏のゲリラ雷雨対策に、人工知能(AI)を駆使した雲の画像解析システムを初導入した
●2014年夏のゲリラ雷雨対策に、人工知能(AI)を駆使した雲の画像解析システムを初導入した
写真撮影:北山 宏一
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 ウェザーニューズでは隊員から灰色の雲の報告が位置情報と共に届き始めると、同じエリアにいる隊員に対して「監視体制強化指令」のメールを出す。すると次々と雲画像が報告され始める。

 隊員はゲリラ雷雨をもたらしそうな怪しい雲を見つけたら、すぐさま自分のスマホアプリから雲の写真を撮ってウェザーニューズに送信。その雲画像データをシステムが自動判定し、隊員に「安全」「注意」「危険」といったお知らせを返す。

 これらの多数の報告にウェザーニューズのゲリラ雷雨解析予測システムの結果を加味する。有料でゲリラ雷雨の「スマートアラーム」を契約している登録者には、ゲリラ雷雨が降り出す30分前までには通知が届くようになっている。

雲画像の機械学習が予報を変える

 雲画像解析システムが備える最大の特徴は、ゲリラ雷雨の判定を自動化している点である。肝になるのが、ファジー理論やいくつかの技術を応用してウェザーニューズが独自に開発した人工知能(AI)による機械学習だ。雲の色や形といった画像のパターン認識に、最近注目を集める機械学習の手法を適用させた。

 数ある機械学習の対象領域のなかでも特に画像に注目したのは、ウェザーニューズの気象予報は様々な画像を見て実施するものが多いからだという。

 2年前からAIの研究を開始した羽入拓朗氏は最初の1年間、ウェザーニューズの米オクラホマの拠点に滞在。オクラホマは竜巻予測で有名だが、そこで羽入氏は世界的にも珍しい、雲の画像認識と機械学習という難しいテーマに取り組んだ。羽入氏の研究成果は、2014年の雲画像解析システムに採用された。

AIイノベーションセンターの羽入拓朗リーダーは、ファジー理論などを使った雲の色や形の機械学習を研究中
写真撮影:北山 宏一

 2014年は2013年に比べて、隊員からの報告数が大幅に増え、過去最多の49万通に上った。防衛隊長は「隊員が送ってきてくれた雲画像をシステムで瞬時に自動判定するので、隊員のモチベーションが一層上がったのではないか」と見ている。

 隊員へのアンケートでも「来年も画像解析があれば報告しようと思うか」との問いに対し、90%の人が「報告する」と回答している。評価は上々で、精度も実用に耐え得るものであることが証明された。

 こうした実績が認められ、それまでは羽入氏が独りで取り組んできたAIIP(人工知能によるイメージ処理)プロジェクトは、2014年末に「AIイノベーションセンター」という新組織に格上げされた。羽入氏がリーダーに就任している。

 もっとも、雲画像の機械学習は容易ではない。雲は空との区別がつきにくく、そもそも「何が雲なのか」をコンピュータに学習させるには、数多くの雲画像を覚えさせ、雲の特徴を捉えられなければならない。

 そんなとき、ウェザーニューズのサポーターから寄せられる日々の雲画像が大いに役立った。機械学習には素材となる「雲画像ビッグデータ」が欠かせないのである。

気象予報士の分析には限界が来る

 この調子でいけば、2015年には雲画像を含むさらに多くの情報がウェザーニューズに届けられるだろう。観測データが増えれば、予報の精度はさらに上がるはずだ。

 だがここで、大きな課題が浮上する。増え続ける観測ビッグデータを社内の気象予報士が見切れなくなる日が必ず来るということだ。羽入氏は「その日は決して遠くはない」ことを見越して、AIによる気象予報に活路を見いだそうとしている。

 今でも多い日には2万~3万通もの報告が来るが、特にゲリラ雷雨の予報は時間との闘いになるだけに「多くの報告のなかから『この雲を見ておけばいい』といった画像の取捨選択をAIが判断してくれるところまで持っていきたい」と話す。

 そうなれば、降り出し前の通知メールをさらに速く出せるようになるだろうし、予報にかける人員を減らせるかもしれない。また、若手の気象予報士が熟練の域に達するまでの期間を、AIがサポートすることも考えられる。まさにビッグデータ時代の新しい気象予報の幕開けを感じさせる。雲画像解析システムは、その記念すべき第一歩というわけだ。