前編に続き、デジタルマーケティング領域での新機軸を打ち出した日本将棋連盟のプロ棋士遠山雄亮五段のインタビューを掲載する。電王戦をはじめとするコンピュータと人間の対決が大きな関心を集めている将棋界。「非常に早くからAI(人工知能)との戦いを繰り広げてきた」(遠山五段)特異な組織ともいえる。

 遠山五段は「将棋ソフトは既にシンギュラリティ(人工知能が人間の能力を上回る技術的特異点)に到達した」と言う。では、コンピュータの進化を経て、プロ棋士の戦い方はどう変わってきたのか、そしてこの後どう変わろうとしているのか。さらに将棋をこれから学ぶ人たちに裾野を拡大するために、コンピュータはどのように貢献できるのだろうか。

(聞き手は松本 敏明=ITproマーケティング


日本将棋連盟のプロ棋士遠山雄亮五段
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1970年代に開発が始まったとされる将棋ソフトの実力は、もう現役のプロ棋士を脅かすほどに進化している。公の場の対局で将棋ソフトが現役のプロ棋士を何回も破っており、その実力はもう疑う余地はない。

遠山五段は前編で「10局戦ってプロ棋士がコンピュータに10対0で負けることはないにしても、5対5の相星になるのも難しい」と言っていた。

では現在のプロ棋士は、どのように将棋ソフトの現状を受け止めているのか。筆者が将棋ソフトについて抱いている感情を切り口に聞いてみた。

私も将棋を指すのですが、数年前にスマートフォンで動く将棋ソフトにほとんど勝てなくなりました。それまでは将棋ソフトに負けることがほとんどなかっただけに、非常に悔しいと感じました。なぜ、将棋ソフトに負けるとこんなに悔しいのでしょう。

 さらに将棋界の頂点にいるプロ棋士が公の場で将棋ソフトに負けることにも悔しく感じます。多くの将棋ファンが同じように感じているのではないでしょうか。

遠山:負けて悔しいのは、将棋ソフトに負けることに慣れていないからではないでしょうか。これまで慣れていないことを受け入れていく必要があるでしょう。

 人間がコンピュータに負けた時は大きなインパクトがありました。2013年3月30日の第2回電王戦第2局で、男子の現役プロ棋士が公の場でコンピュータに初めて負けた後、その棋士のブログは炎上したのです。私は(プロ棋士がコンピュータに負けることは)仕方ないことだと思っていましたが、人間がコンピュータに負けることの象徴として扱われてしまいました。

 しかし、2016年の第1期電王戦で現役のプロ棋士が2連敗したときは、「よくがんばった」「残念」「ソフトに慣れていなかった」という声が大勢となりました。3年のうちに人間がコンピュータに負けることに慣れてしまったのでしょう。

筆者は30年以上前から将棋ソフトと戦い、最近までほとんど負けませんでした。長年にわたって負けないという優越感があり、それが崩壊することがつらいのではないかと自己分析しています。

遠山:それもあるでしょう。さらに考えられるのは一度コンピュータに負けると、もう自分は二度と追い付けないと思ってしまうところもあると思います。

 しかし、必ずしもそんなことはありません。2013年の第2回電王戦でプロ棋士が通算1勝3敗1持将棋で負け越した後、2015年の電王戦FINALではプロ棋士が3勝2敗で勝ち越しました。その1回戦で斎藤慎太郎五段(当時、現六段)はコンピュータ相手に自分の描いた筋の通りに指して勝ち切りました。

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