「それでは10分後に会議を始めます。『Google スプレッドシート(以下スプレッドシート)』に今日までの実績を入力したので確認しておいてください」。

 富士フイルムホールディングス連結子会社のシンガポール事業所で働く担当者は、「Google ハングアウト(以下ハングアウト)」のチャット機能でタイムラインにこう入力した(図1)。担当者は、印刷関連の設備機器やソフトウエアを扱うグラフィック事業部門に所属している。

図1 Google Apps for Workを導入した海外現地法人の分布図
グローバル全社で情報共有ツールを統一 ※法人数は2016年3月時点。富士ゼロックスとその関連会社を除く(画像・写真:富士フイルムホールディングス)
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 ハングアウトは米グーグルの提供するグループウエア「Google Apps forWork」のビデオチャット機能のこと。やり取りしている相手は、日本本社の担当者に加え、マレーシアの拠点の担当者も含む。アジア・オセアニア地域での、当該月の販売実績についての会議を開くところだ。

 富士フイルムホールディングスは2016年1月に、ハングアウトをグループ全体が標準で使うビデオ会議システムとして採用した。それまでは、他社の専用システムを使用していたが、取引先の企業が、特別に指定する場合を除いて、グループ全社全世界をハングアウト利用で統一した。Google Appsfor Workの利用料金は、1ユーザー当たり月500円(税別)。この価格でメールやカレンダーなどの機能も使える。

 導入したユーザー数は、富士フイルムグループ全体で約3万5000人(富士フイルムと連結子会社の合計、富士ゼロックスとその関連会社は除く)。利用料金の合計を単純計算すると、年間2億1000万円となる。実際の導入価格は非公開だが、「ハングアウトへの移行で、費用は以前より格段に安くなった」と富士フイルムホールディングス経営企画部IT企画グループの横山立秀グループ長は語る。

 グループウエアを移行した狙いは、海外現地法人との間の情報共有のやり取りを効率化する働き方改革「Work Style Innovation(ワークスタイルイノベーション)」にある。「遠く離れた拠点にいる担当者と、日本本社の担当者とでやり取りできるようにした」(横山グループ長)。

 会議では、ハングアウトだけではなく、表計算ツールのスプレッドシートも利用する。それぞれの現地法人の担当者が、扱っている製品の販売実績や収益に関するデータを全て入力。データを変更するとスプレッドシート上のデータが更新、遠く離れた拠点の担当者が参照できる。

 ハングアウトでディスカッションしながら、生産計画と需要予想の変動を照らし合わせる。計画の修正が必要かどうかを検討していく。

 現地に移動するための時間や交通費などのコストを削減でき、販売施策や生産計画を迅速に変更できる。「3~4拠点の担当者が、製品の需給データを共有しながら同時に会議できるようになった。これまでは不可能だったことだ」と横山グループ長は話す。

バラバラのツールを統一

 Google Apps for Work導入の背景には、グローバル事業の拡大がある。

 医療診断機器や光学デバイス、記録メディアなど、多岐にわたる領域で事業を展開している富士フイルムホールディングス。海外売上高は2015年3月期で1兆4661億円で、全体の58.8%を占める。

 海外企業のM&A(合併・買収)による新規事業の進出にも積極的に取り組んでいる。2015年3月31日時点では、連結の海外現地法人が273社ある。「これらの拠点のグループウエアは、統一されていなかった。」(横山グループ長)。

 Google Apps for Workの導入以前は、日本本社と各現地法人で別々のメールやビデオ会議システムを使っていた。IT部門を設けている現地法人もあり、それぞれの拠点の担当者が個別に導入していたためだ。

 調べてみると、富士フイルムホールディングスの連結対象子会社全体では、合計で六つの製品を利用していた。「社員の海外駐在や異動は頻繁に起こるが、そのたびに使用するメールシステムも変更する必要があり、面倒だった」(横山グループ長)。

 Google Apps for Workを導入開始したのは、2012年のことだ(図2)。「事業会社の富士フイルムで利用していたグループウエアなどの保守切れのタイミングに合わせて、刷新プロジェクトを始めた」(横山グループ長)。

図2 グループウエア導入の流れ
2年間で3万5000ユーザーに導入
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 同社では、グループウエア刷新で新たに導入するツールとして、Google Apps for Work以外にも複数の製品を候補に挙げて検討していた。このうち、クラウド型のグループウエアとして候補に残ったのが、Office 365とGoogle Apps for Workだった。両者のコストを詳細に比較して、より導入・利用コストの安いGoogle Apps for Workに決定した。

 2012年9月に米グーグルと、グローバルのどの拠点でも同一価格で利用できるように、契約を結んだ。この時点で北米などの一部の海外拠点では、既に利用を開始していたので、そこに追加する形となった。2013年度には、アジア・パシフィックや南米地域、国内グループ会社の一部などに、導入を進めた。

 事業会社の富士フイルムをはじめとする国内主要子会社にも、2014年2月に導入を開始し、約半年で刷新プロジェクトを進めた。

 それまで使っていたメールやカレンダーなどのツールからの移行に加え、データ移行なども並行して進めた。現在は、欧州地域の拠点を除くグローバル全域で利用している。

 欧州ではデータ保護の規制があり、導入が遅れているが、2016年度中に導入を進める予定だ。

社内イベントで事例共有

 もちろん、グループウエアを導入しただけでは本来の目的である働き方の改革は進まない。「生産性を向上させるための、具体的な施策を示す必要がある」(横山グループ長)。

 そこで同社が開催したのが、より良い利用方法を参加者全員で検討し、社内で共有するためのイベント「GoogleFesta」だ。人事部門とIT部門が協力して企画した。

 初回のイベントを開催したのは、2015年3月。東京都内にある事業会社の富士フイルム本社に、約400人の社員が集まった。ハングアウトやスプレッドシートなどをはじめとするGoogle Apps for Workの活用事例を、互いに紹介し合った。

 遠く離れた海外拠点とバーチャル会議で、販売施策や生産計画などを決定する事例などを共有。各事業部門からの参加者がそれぞれの部署での活用方法をプレゼンテーションするなどした。その後、1カ月に1度程度、国内の主要な事業所8カ所で同様のイベントを開催し、1年間で累計約4000人が参加したという。

 2016年3月1日に都内で開いた同イベントでは、国内のある事業部がハングアウト専用のヘッドセットを、部内全員に合計約60個配った事例が紹介された(写真)。

写真 2016年3月1日に開かれた「Google Festa」の様子
社内で活用アイデアを募る、イベントで全社共有
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 マイクとイヤホンを搭載する市販のヘッドセットで、1個1000円程度。ハングアウトを利用した遠隔地との会議を、普及させることを狙った事例紹介だった。「国内でも、西日本と東日本の拠点間で会議を開く際に、わざわざ移動する必要が無くなった。移動にかかる交通費だけではなく、無駄な時間を削減できたと評判は良い」(横山グループ長)。

 ハングアウト以外の機能の活用も進めている。例えば、連絡事項の共有に使うのがSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)機能の「Google+」だ。

SNS機能でスケジュール調整

 Google+には、指定のメンバーのみが閲覧できる「コミュニティ」作成機能がある。プロジェクトに携わるメンバーだけをコミュニティに登録すれば、メッセージをその登録者のみに届くように設定できる。メールのようにその都度、送信する宛先を選択する必要もない」(富士フイルムICTソリューションズ システム事業部ITインフラ部の船田俊二氏)。

 会議の連絡や日程調整などは、コミュニティ機能を使う。会議に使う資料をアップロードしておけば、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末を使って参照できる。

 会議の報告内容や議事録は、このコミュニティ機能かハングアウトのチャット機能を使っている。週次や月次の定例会議の報告を、コミュニティ機能のタイムラインに登録することで、共有できる。

 営業部門の従業員が日報報告に利用しているのが、アンケート作成機能の「フォーム」だ。アンケートの質問項目を自由に編集できるので、作業日報を入力できるように作成する。

 フォームを通じて入力した日報は、スプレッドシートに自動でデータを収集できる。日報を管理する部長クラスの従業員が結果を収集しやすくなる。

 これまで、営業の担当者は日報を登録するためにその都度、オフィスに移動する必要があった。当時の日報登録システムは、社内環境からしか使えなかったためだ。

 フォームの機能を使うことで、オフィスや事務所に戻らなくても、自宅のPCやスマホ・タブレットなどモバイル端末からでも、簡単に入力できるようになったため、無駄な残業の削減が見込めるという。