オンライン小売りの米アマゾン・ドット・コムが、自然・有機食品小売り大手の米ホールフーズ・マーケットを、総額137億ドルで買収すると発表した。ホールフーズは2015年時点で米国・カナダ・英国に合計400を超える店舗を擁し、消費者から多くの支持を集めるグルメ・オーガニックフード販売店の一大ブランドである。

 アマゾンが買収を発表したホールフーズは、扱う製品の性格上、商品単価や客単価が高く、良質な顧客層の獲得に成功している企業だ。

 そんなホールフーズの買収を通じて、同社の良質な(新しい業態に前向きで消費性向も高い)顧客を対象に、これまで積み重ねてきたリアルとサイバーを融合させる実験をいよいよ本格的に展開する。それがアマゾンの狙いだとすると、これは同社にとっての壮大な「戦い」の幕開けのようにも思える。

どうして日本はIT利用が遅れたのか

 アマゾンといえば、言わずと知れたオンライン小売りの巨人であり、日本でも「日本最大の書店」という事実さえもはるかに超えた存在である。また、その巨大な情報システムを背景に生まれたAWSは、クラウドコンピューティング業界で大きな地位を占めている。

 こうしたアマゾンをはじめ、グーグルやフェイスブック、あるいは北米ではネットフリックスも含めた、GAFAやFANG、またはハイパージャイアントとも称される企業たちは圧倒的なトラフィックを有している。そしてその規模は、もはやネットワーキングの物理的な構造さえも変えるほどである。

 実際、ISP同士のピアリングや海底ケーブルの敷設計画は、既にこうした企業との接続で想定されるトラフィックを前提に立案されている。そしてそれを取り込まなければ事業機会は得られず、また対峙の方法を間違えれば設備はパンクする。もはやデータセンターやインターネットエクスチェンジなどのインフラビジネスにおいても、文字通り死活問題なのである。

 一方、その影響力を、日本社会は過小評価しているように感じる。例えばホールフーズの買収にしても、「アマゾンがサイバースペースでやることがなくなったからリアルに向かうのでは」「米国は景気がいいから買収も金額が大きいのでは」といった声が、筆者の周囲でさえしばしば聞かれる。いずれも間違いではないが、そうした指摘は、的を外していると言わざるを得ない。

 このギャップの正体は何なのか。振り返ってみると、筆者は本連載を通じて、いつもこの問いを意識していたような気がする。あるいは、普段のコンサルティング業務や政策立案の支援、さらには将来の日本を案じる子育て中の親としても、常に考えている。

 どうして日本はIT利用が遅れてしまったのか、そしてこの遅れは取り戻せるのだろうか─。問題意識とは、つまりそういうことだ。

スマホはなくてはならないものか

 本連載でも何度か触れているが、日本のIT利用は、米国や欧州に比べて遅れている。もはや中国には抜かれたようだ。アジアの新興国にも猛烈に追い上げられていて、抜かれるのは時間の問題だろう。

 これは感覚的な問題ではない。例えばパソコンによるブロードバンドインターネットの利用を考えてみよう。試しに国内最大手のオンライン小売り事業者の売上高を、デパートの上位事業者と比べて見ると、前者の規模が驚くほど小さいことに気づくはずだ。あるいはもっと単純に、買い換えサイクルやその需要を織り込んだうえで、パソコンの家庭向け出荷状況を推計してみれば、全世帯でまともに使われているような事業規模でないのは明らかだ。

 こうしたIT利用の遅れを埋めたのが、スマートフォンである。昨年あたりに普及率が7割に近づいたことから、そろそろ飽和が見え始めたと言える。しかしその用途は、人が社会で生活する際に不可欠となる様々な機能まで十分に浸透していると、果たして言えるだろうか。すなわち、食べ物を買ったり、どこかへ移動したり、または医療・ヘルスケアや金融サービスといった分野で、スマートフォンは「なくてはならないもの」として定着しているだろうか。

 こうした問いを立ててみると、必ず浮かぶのは「バックヤードでのIT化は日本でも進んでいるはずだ」という反論だ。筆者自身もそう考えていたし、今でもその考えを全否定はしない。しかし実際は、例えば表計算ソフトが業務資料のひな形のような「ITとして残念な使われ方」が蔓延している。日本社会のすべてがそうとは言わないが、ITの形式的な導入は進んだものの、業務そのものを変革するための武器として使われているとは、お世辞にも言えない。

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