「スタートアップ企業を作ったの。ちょっと話をさせて」――。2017年9月、イスラエルの商都テルアビブで開催されたスタートアップ企業の祭典、「DLD Tel Aviv Innovation Festival 2017」で声を掛けられた。声の主は、60~70歳と思しき初老の女性だ。ナノテクノロジーを専門とする企業で、新しい繊維素材の開発などを目指しているという。女性は一通りの説明を終えると、炎天下をものともせずに次の話し相手を求めて人混みに消えていった。

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「DLD Tel Aviv Innovation Festival 2017」の会場の光景

 イベント取材で、こうした光景に出くわしたことは今までなかった。よくよく聞くと女性本人が創業者というわけではないようだったが、年齢層を含めてイスラエルのスタートアップコミュニティーは裾野が広い。そう感じた瞬間である。

起業家養成機関でもある国防軍の「8200部隊」

 イスラエルは、スタートアップ大国として名を馳せている。同国のベンチャーキャピタル(VC)であるバーテックス・ベンチャーズによると、毎年800以上のテクノロジー企業が新たに生まれており、1997~2016年に米ナスダックに上場したイスラエル企業は100社超。米国企業以外ではトップの数だという。2017年のスタートアップエコシステム(生態系)ランキングでは、テルアビブが世界第6位に入っている(米スタートアップゲノムの調査)。

 同国が有望なスタートアップ企業を次々と生み出せる背景には、様々な環境要因が指摘されている。有名なところでは、国防軍の諜報機関でもある「8200部隊」の存在だ。サイバーセキュリティ分野を中心に優秀な起業家を続々と輩出する。8200部隊出身者が形成するネットワークは、スタートアップ企業を支援する役割も果たす。

 手厚いVC投資も挙げられる。1990年代に国策として始まったVC優遇策「ヨズマ・プログラム」を源流とするVCが規模を拡大。今では年間50億ドルがVCからイスラエルのスタートアップ企業に流れ込んでおり、国民1人当たりに換算すると米国の倍以上に及ぶ。豊富な投資マネーが、スタートアップ企業の成長エンジンになっているわけだ。

 しかしこれだけでは、イスラエルがスタートアップ大国として成功している説明には不十分だろう。イスラエルに1週間滞在して筆者が肌で感じたのは、同国コミュニティーの懐の深さだ。外部の人間に対しても、オープンな気風を持っていると言い換えていいかもしれない。

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