世界中のアップルファンが「何だそれは?」と疑問に思うなか、日本人だけは「ついに来たか」と心躍らせた瞬間だったのではないだろうか。2016年9月7日(米国時間)に開かれた米アップルの製品発表イベント。「iPhone 7/iPhone 7 Plus」に搭載した10の新機能を力説していたフィル・シラー上級副社長が8番目に紹介したのが、電子決済サービス「Apple Pay」の日本上陸と「FeliCa」の採用である(写真)。

写真●米アップルは2016年10月に日本向けに「Apple Pay」を提供開始する
出所:磯 修
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 多くのメディアが報じるように、今回、アップルは日本市場に対して格別の配慮をみせた。日本出荷分端末にはFeliCaチップを搭載、NTTドコモの「iD」やJCBなどが推進する「QUICPay」が使える店舗ならばどこでもApple Payを利用できるようにした。日本の店舗は、「iPhone 6」以降の機種が搭載してきたNFC(近距離無線通信)Type-A/B方式のリーダー端末を用意する必要はなく、既存の仕組みがそのまま使える。なにより、Suica利用への手厚いサポートは驚くべきものだった。

10年ぶりに外れたiPhoneの「蓋」

 アップルは近年、世界的にほとんど同じモデルの端末を一貫生産する方針を強めてきた。にもかかわらず異例の対応に出ざるを得なかったのは、iPhone販売の世界的な減速にあるとされる。依然としてiPhoneのシェアが高い日本を絶対防衛ラインとして、ガラパゴスそのものと言ってよい日本のモバイル決済市場にすり寄った格好だ。

 「日本は、紙幣から電子マネーへのシフトにはある程度成功した。ただし、モバイル決済は期待されながらもキャズム(初期市場からメインストリーム市場への移行する過程にある深い溝)は越えられていない段階」と、野村総合研究所 IT基盤イノベーション本部の藤吉栄二上級研究員は説明する。

 足踏みを余儀なくされてきた要因の一つは、iPhoneにあったと筆者は思っている。NTTドコモが「おサイフケータイ」を世に送り出したのは2004年のこと。当時はフィーチャーフォンの時代だ。ところが2008年にはモバイル決済機能を持たないiPhoneが上陸。大量のユーザーを魅了し、相当数存在したであろうモバイル決済への潜在ニーズは、これによって蓋をされた格好になった。

 今回、約10年ぶりにこの蓋が外されたことは、キャッシュレス社会を目指す日本にとって多かれ少なかれ追い風になるのは確かだ。いちユーザーの観点でも利便性が高まるのは間違いなく、喜ばしい出来事である。

 ただし、新iPhoneのFeliCa採用はアップルの窮余の策として片付けるのは早計かもしれない。ここからは思考実験の色合いが濃くなるが、日本のカード業界にとっては「トロイの木馬」のような存在になり得るのではないかと著者は考えている。

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