米アップルが2015年4月24日に発売した腕時計型端末「Apple Watch」。「私は腕時計はしないからなぁ」……。アップルが送り出す先端的な製品に長年真っ先に飛びついてきた「信者」の中には、珍しく冷めた見方も確かに渦巻く。ただ、最新ファッションに目がない一部の人々の心は揺さぶったようだ。

 発売から5日がたった平日の昼間。「カルティエ」など高級ブランドの売り場が並ぶ伊勢丹新宿本店の1階には黒山の人だかりができていた。Apple Wach専門コーナーで目を輝かせて試着しているのは、おしゃれな身なりをしたさまざまな世代の男女たち。

 今回アップルは、従来のようにまずガジェット好きのファンに頼るのではなく、高級ブランドのようなプロモーション戦略を打ち出した。IT企業らしからぬ姿勢で強引なまでに小さな熱狂をまず生み出してしまうあたりは、いかにもアップルらしく、さすがとしかいいようがない。

「あれば便利」ではなく「なければ困る」へ

写真1●米スラック・テクノロジーズはいち早くエンタープライズ向けのApple Watchアプリを投入した
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 問題はもちろん、ここから先だ。ロケットスタートに成功したとしても、新しい提案型の製品だけに、安定軌道に乗せるには絶妙なさじ加減が求められる。

 筆者は鍵を握る一つは、「エンタープライズ」の世界にあるのではないかとみている。消費者の日常生活を一変させる可能性を秘めているとはいえ、「あれば便利かもしれない」といった程度のイメージを覆し、広くあまねく普及させるには相当時間がかかるに違いない。だがエンタープライズの世界なら「なければ困る」状況をうまく醸成するのは意外に難しくないのだ。

 「これなしには、もう仕事が成り立たない」。350万人以上が使うスマホ向け家計簿アプリを開発するベンチャーZaim。同社の閑歳孝子社長がワークスタイルを一新させた存在として賞賛するのが、「Slack」と呼ぶ企業向けに特化した米国発のSNS(交流サイト)だ。そのSlackがApple Watchの発売に合わせて、すかさず専用アプリを投入し話題を呼んでいる(写真1)。

 Slackの特徴はミニブログ「Twitter」に近い使い勝手で、テーマ別にリアルタイムな議論を同時並行で社員たちが進められる点にある。真っ先に飛びついたのは、膨大な電子メールが飛び交い、社員が朝から晩まで処理に追われることに悩んでいた米国企業。自分に関係するかどうか分からない同報メールから解放されるとして、今では企業内の組織など約6万組50万人が使うまでに成長した。

 「自分にとっての最重要案件の進捗だけに目を配りやすく迅速に意思決定を下せる。緩やかに関連しているプロジェクトについても、いわゆる鳥の目で全体を俯瞰しやすい」(閑歳社長)点が支持されている。

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