国立情報学研究所は2017年3月14日、訪日外国人観光客の行動履歴を高速集計して即座に分析できるプラットフォームを構築したと発表した。これまで毎月の経済統計などで把握していた訪日客の動きが、日次や時間単位で統計的に推計して把握できる。

 開発したのは情報社会相関研究系の曽根原登教授・研究主幹の研究グループ。共同研究パートナーであるソフトバンクが訪日客向けに提供している無料Wi-Fiサービス「FREE Wi-Fi PASSPORTサービス」のアクセスポイントの利用データを使った。サービス利用の申し込みの際に同意を得られた訪日客の利用データを匿名加工して、移動経過を点ではなく線として解析することで従来2日かかっていた処理を5分程度に短縮することが可能になった。

 プラットフォームでは、特定の日時に特定の場所を訪れた訪日客が時間の経過とともにどのように移動したのか可視化できる。Wi-Fiの利用データはどの国から来た訪日客か分かるため、自治体などが観光振興に役立てられるとする。

 研究グループは解析例として、2月26日に開催された「東京マラソン2017」の500メートル以内のコース沿道の訪日客の動きを可視化した事例を紹介した。スタート地点の東京都庁やゴール地点の丸の内エリアにいた訪日客の集団が、夜11時まで時間の経過とともに移動する様子が翌日には把握できた(写真1)。

写真1●2月26日「東京マラソン2017」のコースから500メートル範囲内で検知された訪日客の動きを可視化
(青の地点は郵便番号の代表地点 黄色の人型が群衆の移動、オレンジの線は東京マラソン2017のコース)
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 2017年2月の1カ月間に、東京都から48時間以内にどのように動いたかも可視化した。佐賀や福岡県に移動している様子も把握できたという(写真2)。

写真2●2017年2月の1カ月間に東京都から48時間以内に訪日客がどのように動いたかを可視化
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 プラットフォームではプライバシー保護のために、Wi-Fiのアクセスポイントで検出した携帯端末のMACアドレスを異なる番号に複数回置き換え、10件のデータを丸めて一つの単位として扱う。1時間ごとに郵便番号の地域単位で地図上にプロットする。訪日前の契約の際に事前の個別同意を取得し、事後のオプトアウト(データ利用停止)の機会も提供して、総務省の「位置情報プライバシーレポート」に沿った対応をした。

 同研究グループはインターネットで公開されている宿泊施設の満室率や統計データを基に、日々の利用状況や宿泊料金を予測できる「Webデータの観光予報システム」を2013年3月に開発した。プラットフォームでは、観光予報システムのデータとリアルタイムに組み合わせて、訪日客の動きを把握できる。

 長崎県では2015年7月から2016年6月までの1年間のデータを基に、訪日客が集中する観光スポットや移動ルートのデータを解析した(写真3)。研究グループは2017年度に、長崎大学を通じて長崎県や長崎市の観光施策の立案に技術を活用する計画。公共交通事業者が保有する乗降データとの連携も計画しており、曽根原教授は「業種を超えたデータ連携の基盤を作りたい」と語った。

写真3●長崎県でWebから得た情報を基に宿泊施設の予約状況を推計して、稼働率の高いホテルと、訪日外国人観光客の動きを可視化
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 今後はプラットフォームをオープンソースとして誰でも利用できるようにして、自治体が中心となってオープンデータとしてオリンピックのような大規模イベント開催時などに観光産業の支援につなげたり、災害時の対策にも応用できるようにしたりする方針だ。