写真●東京大学大学院 工学系研究科 准教授の松尾豊氏(撮影:菊池 一郎)
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 「今年に入って、ディープラーニング(多層ニューラルネットによる機械学習)が実現する画像認識の精度が、人間の認識精度を超えてしまった。これは何を意味するのだろうか――」

 東京大学大学院 工学系研究科 准教授の松尾豊氏は、2015年9月30日から10月2日まで東京ビッグサイトで開催している「ITpro EXPO 2015」の特別講演「人工知能は人間を超えるか~ディープラーニングの先にあるもの」の中で聴衆に問いかけた(写真)。

 ディープラーニングが最も成功した分野の1つに、画像に写る物体を言い当てる物体認識がある。

 この分野では、2012年にディープラーニングがエラー率15%という驚異的な精度を実現して以来、年を追うごとに精度が向上した。

 そして2015年2月には米マイクロソフトがエラー率4.9%、同年3月には米グーグルが4.8%を実現した。人間の標準的なエラー率は5.1%なので、ディープラーニングの認識精度は人間のそれを超えたことになる。

 さらに、2枚の写真が同一人物かを言い当てる顔認識でも、2015年3月に米グーグルが正答率99.63%という、人間を超える成果を実現した。800万人、2億枚の写真データを、22層のディープラーニングに学習させた結果である。

 これが何を意味するのか。松尾氏は「モラベックのパラドックスが崩れた」と表現する。モラベックのパラドックスとは、コンピュータは大人向けの高度な推論よりも、一歳児レベルの知覚や運動スキルを再現する方がはるかに難しい、というものだ。

 このパラドックスのため、従来の人工知能は、WatsonやSiriに代表される「大人向けの高度な推論」に偏っていた。松尾氏は、これらの技術を「大人の人工知能」と区分する。

 一方で松尾氏は、ディープラーニングがモラベックのパラドックスを崩したことで、今後は認識、身体性(ロボティクス)、言語習得などの「子どもの人工知能」が大きく発展すると予想する。
 
 この種の人工知能は、これまで人間の認識力や身体性に頼っていた分野に、破壊的イノベーションをもたらすという。例えば建設、農業、食品加工といった分野である。

 松尾氏は、少子化で慢性的に労働力が不足する日本にとって、「子どもの人工知能」がもたらすブレークスルーは大きなチャンスになり得ると語った。「『子どもの人工知能』の研究開発で先行すれば、GDPの急成長も不可能ではない」(松尾氏)。

 ディープラーニングの認識精度が人間のそれを超えたことを踏まえ、企業は「子どもの人工知能」が自社ビジネスにどんな影響を与えるかを考え、早く動くことが重要になるだろう――松尾氏はこう聴衆に語り、講演を締めくくった。

■変更履歴
初出時、「モペラックスのパラドックス」としていましたが,正しくは「モラベックのパラドックス」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2015/10/01 16:30]