「なぜ?」を繰り返しながら再発防止策を導く「なぜなぜ分析」は、出だしの表現が何より大切だ。具体的な絵が頭に思い浮かぶくらい意味がはっきりとした文(ミスの内容)を書くことで、的確な「なぜ?」と再発防止策にたどり着けるようになる。

 ミスの原因を「なぜ?」を繰り返しながら論理的に掘り下げ、最終的に同じ失敗をなくす、あるいは失敗が起こりにくくする、失敗による被害の拡大を防ぐといった類の再発防止策(改善策)を導く手法。それが「なぜなぜ分析」である。例えば、こんなふうにだ。

 ある朝、ケンタさんが通路で転んだとする。それをなぜなぜ分析してみる。

 「ケンタさんが通路で転んだ」。それはなぜか。「床の上で靴底が滑った」から。では、なぜ「床の上で靴底が滑った」のか。それは「床が水で濡れていた」から。では、なぜ「床が水で濡れていた」のか。それは「雨水が壁を伝って通路まで来た」から。なぜ「雨水が壁を伝って通路まで来た」のか。それは「コンクリートの壁に雨水がしみ込んだ」から。

 なぜ「コンクリートの壁に雨水がしみ込んだ」のか。それは「コンクリートに亀裂が入っていた」から。なぜ「コンクリートに亀裂が入っていた」のか。それは「20年にわたり、コンクリートの補修がされていなかった」から。なぜ「20年にわたり、コンクリートの補修がされていなかった」のか…。こんな感じで「なぜ?」が続いていく。

 まるで大人が何か言うたびに、子供から「それは、なぜ?どうして?」と質問攻めにあうのに似ている。

図 なぜなぜ分析の流れ
「ケンタさんが通路で転んだ」原因を「なぜ?」を繰り返すことで見つける
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的確な「なぜ?」を出すにはコツが

 「なぜ?」「なぜ?」と繰り返しながら、原因を掘り下げていくのがなぜなぜ分析である。簡単そうに思えるが、実際にやってみると、これがかなり難しい。的確な回答、つまり原因なり再発防止策を出すためには、いくつもの勘所をマスターする必要がある。

 別な例として「計画が遅れた」という、非常にありがちな失敗があったとしよう。もしあなたが上司から「なぜ、計画が遅れたんだ?」と尋ねられたら、どんな回答をするだろうか。

 「業務が立て込んでいまして、時間が取れませんでした」といった言い訳にしか聞こえない回答をしたり、「営業担当者が情報を出してくれませんでした」と他責に回答の矛先を向けてしまったりしがちになる。

図 意味がはっきりしない文を書いた例
「計画が遅れた」だけでは色々な解釈ができてしまう
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 ここで視点を部下ではなく、上司のほうに変えてみてほしい。実はこのケースは、そもそも上司から部下への「問いかけ」に問題がある。

 部下に的確な答えを求めるのであれば、「なぜ、計画が遅れたんだ?」と尋ねるのではなく、「計画が遅れた」という言葉の中の「遅れた」をもっと具体的に表現する必要がある。「なぜ、計画では3カ月だったのに、実際には4カ月もかかったんだ?」と具体的に部下に聞かなければならない。

 計画は3カ月だったのに、実際は4カ月かかったということは、オーバーした分の1カ月の理由を述べればよいことになる。一つは企画書の作成において、計画では2週間だったのに、実際には1カ月かかってしまい、2週間のオーバー。もう一つは制作期間においても、同じく計画では2週間だったのに、実際には1カ月かかり、こちらも2週間オーバー。この場合、「なぜ1」の上下に記載された両方の2週間を足すと、1カ月の遅れになる。

 では、企画書の作成が2週間オーバーした理由(上のなぜ2)はというと、資料の入手に時間がかかったこと。制作期間が2週間オーバーした理由(下のなぜ2)は、資材の入手に時間がかかったことだと分かる。その結果、計画の3カ月が4カ月に延びた。まるで算数の証明問題のようだが、しっかりと計画が遅れた理由を導き出せた。

 問題を提起した「事象」の文中に、どのくらいの期間遅れたのかを書き足すだけで、的確な答えを導き出しやすくなる。意味がはっきりした表現で問いかけると、回答もより正確なものになっていく。

図 意味のはっきりする文を書いた修正例
「計画では3カ月だったのに、実際には4カ月かかった」と書くと状況がはっきりする
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様々な解釈ができる文章は避ける

 もう一つ、別の例を考えてみよう。例えば請求書が誤って別の顧客のところに届いたというミスが発生したとする。ミスの事象として「請求書の誤発送が発生した」という文章を書いてしまうと、それに続く最初の「なぜ1」には「担当者は間違いに気づかなかった」といった、かなりぼやけた「なぜ?」が出てきてしまう。しかも「請求書の誤発送が発生した」だけでは、人によって文章の解釈がブレやすい。

 「請求書の誤発送が発生した」という事象は、いくつもの解釈ができる。「担当者が請求書の宛て名を間違えた」ことを指すのか、「(請求書の宛て名は間違っていなかったが)配達員が違う宛て先に配達した」のか。あるいは「(客先に届いた時点で)請求書の宛て名が違っていることに(顧客が)気づいた」のか。いずれもはっきりしない。

 「請求書の誤発送が発生した」という文章は何を言いたいのかがはっきりしないうえに、「どの時点」の事象を指しているのかも明確ではない。

図 絵が浮かぶ文を書けていない例
「 請求書の誤発送が発生した」という表現では的確な「なぜ?」を出せない
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 そうではなく「(客先に届いた時点で)請求書の宛て名が『NADE』ではなく、『NAZE』だった」といった具体的な事象の文章を書くことで、ここでは「請求書の宛て名が間違っていた」ことを取り上げているのがはっきりする。こうすると、次の「なぜ?」も、「担当者は請求書の宛て名を『NADE』ではなく、『NAZE』と書いた」という的確な回答が出やすくなる。

 同時に宛て名の3文字目が「D」ではなく、「Z」だった理由を考えていけばよいことが分かる。すると、次の「なぜ?」は「担当者は宛て名リストに書かれた『NADE』の最初の2文字だけを見て、『NAZE』と思った」という的確な回答が出やすくなる。

図 絵が浮かぶ文を書く(修正例)
「請求書の宛て名が『NADE』ではなく、『NAZE』だった」と書くと、誰もが同じ光景をイメージできる
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 最初に書いた「請求書の誤発送が発生した」と次の「請求書の宛て名が『NADE』ではなく、『NAZE』だった」という文章を見比べてみると一目瞭然だが、「請求書の誤発送が発生した」は意味する内容を頭の中で思い浮かべにくい。人によって違った「絵」を思い描いてしまう危険性が高い。

 「請求書の誤発送が発生した」に比べれば、まだ「担当者が請求書の宛て名を間違えた」「(請求書の宛て名は間違っていなかったが)配達員が違う宛て先に配達した」「(客先に届いた時点で)請求書の宛て名が違っていることに(顧客が)気づいた」のほうが、文章の意味する内容を「漫画の一コマ」のような絵に置き換えやすくなっている。

 もちろん、最初から「(客先に届いた時点で)請求書の宛て名が『NADE』ではなく、『NAZE』だった」と書けていれば一番良い。頭に絵がはっきりと思い浮かぶからだ。

 具体的に絵を描ける文章(意味や定義がはっきりした文)を書くことは、「なぜ?」の問いかけに対して論理的に答えていくには欠かせないことだ。論理的な思考をするには、自らの表現を論理的な思考に相応しい表現にすることから始めなければならない。

図 絵が浮かぶ文とそうではない文の例
事象に書いた文章から具体的な「絵」が思い描けるかを考えてみる
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 私はなぜなぜ分析を独自に体系化し、トラブルやヒューマンエラーを撲滅するための指導を続けている。システムの開発や運用の現場でも同じミスが繰り返されることが多く、なぜなぜ分析の支援依頼が急増中だ。本連載を通し、ミスの根本原因や再発防止策を導けるようになってもらいたい。

小倉 仁志(おぐら・ひとし)氏
マネジメント・ダイナミクス 社長
1985年東京工業大学工学部卒業。デュポン・ジャパン(現デュポン)入社。1992年から日本プラントメンテナンス協会でトータル・プロダクティブ・メンテナンス(TPM)の指導に従事し、2005年に独立。2009年から続く「なぜなぜ分析 演習付きセミナー(実践編)」は毎回満席になるほどの人気ぶり。
出典:日経コンピュータ 2017年9月14日号 pp.74-77
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。