最新のITや業務プロセス、方法論のような「新しい手法」をゼロから導入するには、社内にノウハウを展開し、スムーズに導入・定着させる工夫が不可欠だ。「新手法導入・定着シート」を使い、漏れなく対策を講じる方法を学ぼう。

 「西部課長、ちょっと知恵を借りたいのですが…今話題のRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)をうちの銀行に導入するには、何をすればいいのでしょうか」

 システム企画室の岸井雄介は、自席で雑誌に目を通している経営企画課長の西部和彦に聞いた。

 「RPAか。確かコンサルティング会社を選んで3カ月間ほど行内で実証実験をしていたはずだな。実験の結果はどうだったんだ?」

 「実験した4つの業務全てで90%以上を自動化できるとの結論になりました。すぐにでも全社導入と思ったんですが、止められまして…」

 「止められた?誰に?」

 「女性管理職として女性活用のプロジェクトを推進している、働き方改革室の岩田室長です。室長にすぐ導入しましょうと説明したら、『新しい手法が定着しそうにない』って不機嫌なんです」

*   *   *

 岸井雄介は35歳、西日本の地方銀行A銀行に入社以来システム開発に従事し、現在はシステム企画室の課長補佐である。最近A銀行が買収したFinTech子会社F社の企画部と兼務になり、さらにグループ横断的検討プロジェクトのメンバーになった。

 西部和彦は37歳、A銀行でシステム企画の仕事を長く担当し、多くの仕事を成功させてきたエース人材で、岸井の大学の先輩でもある。出向していたITコンサルティング会社から復帰し、多くの仕事を成功させた貢献が認められ、経営企画課長に昇進した。

 岸井は現在、単純な業務を自動化するため、働き方改革推進室と共同でRPAの導入を検討している。RPAとは、人によるPC上の作業をソフトウエア(ロボットプログラム)に代替させる技術や概念である。

 A行は既存の業務を見直し、無駄な業務は廃止、冗長な業務は簡素化、重複業務は統合した上で、残った単純業務をロボットプログラムに代替する方針で検討していた。

 以前にA行でRPAに取り組むべきかを議論した際、A行にRPA導入のノウハウがないため、まずは知見のあるコンサル会社の支援を受け、一部の業務で実証実験し、その結果を基に全行で導入すべきかを判断することになった。先ごろ実証実験が一定の成果を出して終わったため、全行導入に向けた検討が始まった。

 この検討の担当になったのが岩田室長と、以前からRPAを担当していた岸井だった。岸井はコンサル会社が提出した実証実験の報告書を読み込み、コンサル会社の担当者やマネジャーなどにもヒアリングした上で、岩田室長に説明した。

*   *   *

 「岸井さん、例のRPA全行導入の検討はどうなっているの?実証実験の結果はどう?」

 「実証実験の結果は、導入効果あり、です。実験した4業務の全てがRPAで90%以上自動化できるとの結論です。この結果ならすぐにでも全行展開できます。グループ会社にも広く展開を考えるべきです」

 「それは朗報ね。ところで私、RPAって詳しくないの。どういう仕組みなのか教えてくれない?」

 「RPAは人がPCで行う操作を記述したプログラムのようなコードを作り、それを実行することで同じ操作を自動実行させます。近い概念は表計算ソフトに付属されるマクロプログラムですね。RPAは人の操作を記録することも、一からロボットプログラムを組むこともできます」

 「ふうん。マクロとの違いは?」

 「マクロは表計算ソフトの中でしか使えませんが、RPAは異なるソフトにまたがって操作できます。RPAが単純業務を代替できれば、行員を企画型の業務にシフトさせ、新しい企画を立案できる体制が整います」

 「それができれば女性活用プロジェクトも進むわね。早く導入すべきよ。いつから導入できるの?システム部門がロボットプログラムを作るんでしょ。業務部門は何をすればいい?」

 「…ロボットプログラムを作るのはシステム部門ではありません。RPAは比較的簡単にロボットプログラムが作成できるので、作成作業は業務部門の若手にやっていただきます」

 「それは難しいんじゃない?業務部門の所属長も担当者も現行業務で手一杯。新たにRPAを学ぶなんて無理よ」

 「それはそうですが…それなら、業務部門で外部のITベンダーを雇って、最初はロボットプログラムを作ってもらったらどうでしょう。いったん開発すれば、後は業務部門で維持できると思います」

 「うーん、うまくいくかしら。業務部門に任せたら、現場が様々なロボットプログラムを好き勝手に作ることになるわよ。昔同じようなことがあったから」

 「同じようなこと、とは?」

 「エンドユーザーコンピューティングっていうのが流行って、業務部門でたくさんプログラムを作ったことがあったの。だけど担当者が異動し、所属長が異動したら、誰も中身が分からなくなってしまって。結局、システム部門に引き取ってもらって、3年かけて別のシステムに移行したけど、当時は大問題になったわ。やっぱりシステム部門で開発・保守すべきよ」

 「それができればよいですが、システム部門が担うと現場のニーズに応じて業務フローを機動的に変えられないなど、RPAの良さが生かしにくくなります。システム部門のエンジニア資源には限界があるので、RPAは業務部門で開発できるようにしたいんです。働き方改革や女性活躍といった目的達成のためにも、RPAは絶対に導入する必要があります。導入する上で現実的なのは、業務部門が独力で開発・保守していくことです。その方針に同意頂けませんか?」

 「それは同意できないわ。新しいやり方を導入して成果を出すためには、どのように導入し、どうやって定着させるかを徹底的に考えることが必要なの。岸井さんの考えではダメ。新しい手法が定着しそうにない。それができる方法を考えた上で説明に来てもらえるかな」

 岸井は岩田室長の言うことは理解できたものの、具体的な解決策が思い浮かばなかった。そこでRPAをどのように導入し、銀行内に定着させればよいかのヒントを西部課長に教えてもらいたいと考えた。それが冒頭の件である。

図「 新しい手法が定着しそうにない」プレゼンの例
新手法はスムーズに導入、定着させる工夫が必要
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